飼い犬Subの壊し方

田原摩耶

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77【side:真夜】


 第一印象は真っ黒な犬。それも、自分を大型犬と思ってるタイプの子犬。
 一生懸命背筋を伸ばして、周りに引けを取らないように踏ん張るので精一杯になってる子犬ちゃん。
 生徒会室前の通路、並ぶ二つのシルエットを俺と小晴は窓越しに眺めていた。

「あれが補佐なわけ? なに、会長趣味変わった?」
「そーそー、愛佐君な。あいつ俺相手にもクソ生意気でさ、その癖ちょっと失敗したらすげー落ち込むのよ。いいだろ?」
「ふーん。……可愛い」
「言うと思った」
「けどこは、お前のお気に入りかよ。……あーあ、可哀想に」
「後でお前に回してやるんだからいいだろ」
「ま、そうだけど」

 俺と小晴は一緒に血を分け合って生まれてきたということもあって生き写しのようだと言われてきた。
 けど、似てないところもそれなりにある。
 例えば好きなものの食い方。小晴は最初に食って、俺は最後に食う。だからしょっちゅう小晴から好物を横取りされて喧嘩することもあった。
 それから、体質とか。

「真夜、愛ちゃんどう?」
「純度100パーのピュア。けどあれ、会長に食われてんだろ」
「だよな、あの尻尾の振り方」
「あーあ、可哀想。会長、近場では手は出さないんじゃなかったっけ?」
「さあな。けどま、あんな懐いてくるSubいて手ぇ出さない方がDomとして終わってるって」

 生まれつき、物心ついた時から人の感情だったりが目に見える。波形だったり、色だったり。例えばあの新入生の周りはキラキラしてて、会長の隣にいると更にその輝きが増す。なんつーか、分かりやすい。
 下心があったりやましい感情もってる人間はもっとどろどろして汚い色してんのに、愛ちゃんの場合はキラキラしてんの。目が痛くなるくらい。
 因みに小晴は真っ黒。こいつ、下心しかないから。
 それから、と会長に目を向けた。薄寒い笑顔も見えなくなるほどのドス黒い黒。その上から無理矢理塗りつぶしたような白。平静を纏う青。混沌具合は小晴といい勝負なんじゃないか。相変わらずだな、と思う。

「いつまで保つかな」
「愛佐君?」
「どっちも」

 本当に、あの人はずっと変わらない。
 嘘吐き過ぎてどれが自分の本心かも分からなくなっている。迷子の子供のような人だと思った。


『君が小晴の弟か。流石、双子ということだけあってよく似てるね』
『どーも』
『初めまして。僕は生徒会長の桐蔭菖蒲だ。……これからよろしく頼むよ、真夜』

 吐き気がするほど真っ黒な手を差し伸べられて、俺はそれを取らずにただ笑い返した。
 あの人は気を悪くするわけでもなく何事もなかったように手を引っ込め、『簡単に補佐の仕事を説明するよ』と続ける。


 俺と小晴がダイナミクス症候群に発症したのはほぼ同時期だった。思春期に片足突っ込んだくらいのとき、それは突然始まった。
 元々クソガキだった小晴がコマンドを覚える。その結果どうなるかなんて火を見るより明らかだった。
 中学二年の頃、初めて覚えた火遊びは小晴の加虐性に拍車をかけた。その結果、後始末の方法もケアも知らなかった俺たちは補導された。
 親からも叱られたし、道徳の授業で見せつけられるような眠たくなるつまんねーダイナミクスへの理解を深めるだなんだの教材動画をぶっ続けで見せられた。
 けど、その間俺たちが逃げないか見張っていた教育係に小晴がコマンド使った時から俺たちの運命は決まったようなものだった。

「こは、怒られるって」
「大丈夫大丈夫。――《俺らの言うこと聞け》」
「こは、その人苦しんでる」
「《土下座しろ》――っはは、見ろよまよ、こいつ大人のくせに土下座した! なあ、すごくね?」
「……」

 俺たちよりも大柄な大人がみっともなく怯えて伏してる姿を見て、可哀想だなと思った。

「まよ、俺らなら大丈夫だ。この前みたいに捕まるような馬鹿な真似しねえよ」
「怒られてもしらねえから」
「なあ、俺らってSSランクのDomなんだってさ。それって貴重なんだってよ。俺らよりもランク低いDomも言うこと聞かせられるって」
「……へー」
「ってことは、俺ら二人だったら最強じゃね?」

 実際俺らはガキだったし、周りにダイナミクスの人間もいなかった。俺ら以外のやつらは玩具に出来る、それを知ってしまった小晴は止まらなかった。
 俺は小晴みたいに誰かを虐めたり、そういうことはどうにも好きになれなかった。だから小晴が遊んだ後、その相手のケアをする。記憶を弄ったり、口止めしたり。そういう手回しが俺の役割になってた。

「まよ、見つけた」
「なにがだよ」
「こいつSubだ」

 俺たちを前にみっともなく怯えてるその反応は他のNormalとは違う。Subを見たのはこの時初めてで、衝撃が走ったのを覚えてる。助けてくれ、と言いたげに見つめてくるその目に初めて興奮した。

「真夜、お前って変態だな」

 ニヤニヤと笑いながら肩を叩いてくる小晴に、俺は何も言い返せなかった。

 やっぱり、俺と小晴は似てるようで似ていない。
 こいつは逆にSubに対する愛情は希薄で、好かれるよりも支配することにハマった。
 俺はその逆だった。サブドロップに陥ったSubに縋り付いてくれるのが好きだった。縋り付いてきたSubを可愛がって、愛される。その瞬間が一番気持ちよかった。

 後始末も全部俺ら二人で上手くできるようになって、その結果どうなるのかと言えば周りに俺らに逆らえるやつがいなくなった。それは親も同じだ。手がつけられなくなった俺らを引き離すため、ダイナミクス発症者の受け入れに寛容な全寮制男子校に俺らを送り込むことになった。
 それが、この学園にきたきっかけ。別に、この学園に在籍するDomは大抵似たような理由だろうが。

 そこでは俺らは自分がSランクのDomだということを周りに秘密にしておくことにした。理由は周りに警戒されないため。Domだとバレると大抵のSubは警戒してくる。それが一般的な反応だったが、この学園は少し変わっていた。




「生徒会長がSSランクのDomだって」

 自室にて。制服を脱ぎ、ソファーの背もたれに投げ捨てるなり小晴はソファーに座り込んだ。

「へえ、そうなんだ。んじゃあの人にはこはのコマンド通用しないってこと?」
「さあな? 実際コマンド言われたらどうなんのか興味あるけど」
「それ犯罪だろ」
「は、お前そういうところだけお勉強してんのかよ。Dom同士じゃなくても、プレイ以外のコマンドは全面アウトだっての」
「そりゃそうだな。……あ、そいや小晴、理事長と会った?」
「ああ、会った。生徒会入らないかって」
「俺も」
「なんだお前もかよ、俺だけだって思ったのに」
「どっからその自信きてんのお前」

 この学園はランクが高いDom程重宝しているという校風らしい。予め書類で認知してる教師陣たちは俺たちを腫れ物のように扱うし、かと思えば理事長とやらはやけに俺たちによくしてくれた。
 そりゃもう、全身から匂い立つくらいドブ臭え感情隠しもせずに。

「理事長なんて?」
「生徒会に入ればSub食いたい放題って」
「言い方」
「けど、似たようなことはまじで言ってた。Domの意思尊重するためならある程度大目に見るだとか」
「別にわざわざそんなことされなくたって俺ら好き放題してんじゃん」
「けどさ」
「んー」

「「ま、面白そうだからいいか」」

 生徒会に入る代わりにDomらしく振る舞えとか、なんか色々言われた気がするけど関係ない。飽きたらやめればいい。そんな軽い気分で俺らは生徒会に入ることを決めた。

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