64 / 136
2.シャーデンフロイデ
02
しおりを挟む
一旦ここはやり過ごして誰かを呼んだ方がいい。そうするのが一番穏便だ。
そう分かっているのに、純白君の顔を見た瞬間ここで見過ごしてはいけない気がしてならなかった。
だから僕は純白君の手を取った。言葉も出ない。ただ、行かせないと純白君の手を握り締めて止める。
「…………小緑君が心配してるよ」
そう声を絞り出したとき、純白君が僅かに反応する。「彼氏君優しいねー」と犬馬先輩は茶化すように純白君の肩に肘を乗せた。
「じゃあさ、織和チャンでもいいよ」
純白君の耳元で犬馬先輩は何かを囁きかける。僅かに自分の名前を呼ばれた気がして顔をあげれば、「駄目だ」と純白君は声を上げる。
今までに聞いたことないくらい切羽詰まった声だった。
「純白君……?」
「この人は駄目、絶対やめて。お願い」
「織和チャン、こいつこう言ってんだけどどう? 俺と一回やってくれたらこいつのこと、もう手を出さないであげるけど?」
必死に止める純白君の頭を掴んで剥がしながら犬馬先輩はずい、とこちらへと歩み寄ってくる。大きな背を丸めて覗き込んでくるように首を傾ける。長い前髪の下、細められた目は品定めするように僕の顔から靴先へと落ちていく。その視線が怖くて、困惑する。状況が飲み込めない。
やるって、なんだ。
「え、ぁ……あの……ぼ、僕は……恋人が……いて……」
「うん」
「じ、……慈門君の先輩……ですよね?」
「で?」
「……っ、や、やるって……」
「だーかーらー、ここ」
いきなり伸びてきた手に下半身を弄られる。腿の奥、下着の上から肛門を指先で押し上げられてぎょっとした。
信じられない。有り得ない。軽い人だとは思っていたが、それでも突然の行動に驚いて犬馬先輩の腕を掴む。「やめてくださいっ」と声を絞り出すが、先輩は止めるどころか楽しそうに更に人の下半身を弄ぶ。
「反応いいね、織和チャン。天翔とヤリまくってんだろ? 興味あったんだよねえ」
「……っ、な……」
「おい、利千鹿……っ」
「ここに俺の入れさせてよ。そしたらこいつのこと解放してやるよ」
そう、そのまま臀部へと手を這わせる犬馬先輩に体を抱き寄せられる。
今まで慈門君が止めてくれていた理由を今理解した。この人は、おかしい。常識がない。
「そ、んなの……っ」
「俺は気にしないよ? 浮気とかそういうの。言わなきゃバレないって」
「……っ」
「たった一回でかわい~~後輩助けられるんなら良くない? ……それとも、織和チャンはこんな可愛げのない後輩のために体売んのやだ?」
スラックス越しに食い込む指。
犬馬先輩の肩越しに純白君の顔が見える。相手にしなくていい、と首を横に振る。
ここで逃げた方がいい。分かっていた。
けど、
「大丈夫だって。天翔も浮気してるからお互い様だろ?」
唐突に出てきた慈門君の名前に目を見張る。
――今、なんて言った。
何事もなかったかのようにへらりと笑う犬馬先輩。その隣で純白君は顔を手の甲で抑える。
「だから、ね?」
全ての音が遠くなる。
聞き間違い、じゃないのか。そう思いたいのに、僕だけを置いて時間は進み続ける。
抱き寄せられる腰。近づいてくる唇を拒むように手で犬馬先輩の口を抑える。
先輩は「んむ」と目を丸くした。
「ど……どういう、意味ですか。慈門君が、ぅ……っ、浮気……って」
他の知らない生徒がただ嘯いているだけならば気にはなるだろうがここまで反応することはなかっただろう。
けれど、相手は仮にも慈門君に近しい先輩だ。
聞き逃すことは今の僕にはできなかった。
そう分かっているのに、純白君の顔を見た瞬間ここで見過ごしてはいけない気がしてならなかった。
だから僕は純白君の手を取った。言葉も出ない。ただ、行かせないと純白君の手を握り締めて止める。
「…………小緑君が心配してるよ」
そう声を絞り出したとき、純白君が僅かに反応する。「彼氏君優しいねー」と犬馬先輩は茶化すように純白君の肩に肘を乗せた。
「じゃあさ、織和チャンでもいいよ」
純白君の耳元で犬馬先輩は何かを囁きかける。僅かに自分の名前を呼ばれた気がして顔をあげれば、「駄目だ」と純白君は声を上げる。
今までに聞いたことないくらい切羽詰まった声だった。
「純白君……?」
「この人は駄目、絶対やめて。お願い」
「織和チャン、こいつこう言ってんだけどどう? 俺と一回やってくれたらこいつのこと、もう手を出さないであげるけど?」
必死に止める純白君の頭を掴んで剥がしながら犬馬先輩はずい、とこちらへと歩み寄ってくる。大きな背を丸めて覗き込んでくるように首を傾ける。長い前髪の下、細められた目は品定めするように僕の顔から靴先へと落ちていく。その視線が怖くて、困惑する。状況が飲み込めない。
やるって、なんだ。
「え、ぁ……あの……ぼ、僕は……恋人が……いて……」
「うん」
「じ、……慈門君の先輩……ですよね?」
「で?」
「……っ、や、やるって……」
「だーかーらー、ここ」
いきなり伸びてきた手に下半身を弄られる。腿の奥、下着の上から肛門を指先で押し上げられてぎょっとした。
信じられない。有り得ない。軽い人だとは思っていたが、それでも突然の行動に驚いて犬馬先輩の腕を掴む。「やめてくださいっ」と声を絞り出すが、先輩は止めるどころか楽しそうに更に人の下半身を弄ぶ。
「反応いいね、織和チャン。天翔とヤリまくってんだろ? 興味あったんだよねえ」
「……っ、な……」
「おい、利千鹿……っ」
「ここに俺の入れさせてよ。そしたらこいつのこと解放してやるよ」
そう、そのまま臀部へと手を這わせる犬馬先輩に体を抱き寄せられる。
今まで慈門君が止めてくれていた理由を今理解した。この人は、おかしい。常識がない。
「そ、んなの……っ」
「俺は気にしないよ? 浮気とかそういうの。言わなきゃバレないって」
「……っ」
「たった一回でかわい~~後輩助けられるんなら良くない? ……それとも、織和チャンはこんな可愛げのない後輩のために体売んのやだ?」
スラックス越しに食い込む指。
犬馬先輩の肩越しに純白君の顔が見える。相手にしなくていい、と首を横に振る。
ここで逃げた方がいい。分かっていた。
けど、
「大丈夫だって。天翔も浮気してるからお互い様だろ?」
唐突に出てきた慈門君の名前に目を見張る。
――今、なんて言った。
何事もなかったかのようにへらりと笑う犬馬先輩。その隣で純白君は顔を手の甲で抑える。
「だから、ね?」
全ての音が遠くなる。
聞き間違い、じゃないのか。そう思いたいのに、僕だけを置いて時間は進み続ける。
抱き寄せられる腰。近づいてくる唇を拒むように手で犬馬先輩の口を抑える。
先輩は「んむ」と目を丸くした。
「ど……どういう、意味ですか。慈門君が、ぅ……っ、浮気……って」
他の知らない生徒がただ嘯いているだけならば気にはなるだろうがここまで反応することはなかっただろう。
けれど、相手は仮にも慈門君に近しい先輩だ。
聞き逃すことは今の僕にはできなかった。
240
あなたにおすすめの小説
分厚いメガネ令息の非日常
餅粉
BL
「こいつは俺の女だ。手を出したらどうなるかわかるよな」
「シノ様……素敵!」
おかしい。おかしすぎる!恥ずかしくないのか?高位貴族が平民の女学生に俺の女ってしかもお前は婚約者いるだろうが!!
その女学生の周りにはお慕いしているであろう貴族数名が立っていた。
「ジュリーが一番素敵だよ」
「そうだよ!ジュリーが一番可愛いし美人だし素敵だよ!!」
「……うん。ジュリーの方が…素敵」
ほんと何この状況、怖い!怖いすぎるぞ!あと妙にキモい
「先輩、私もおかしいと思います」
「だよな!」
これは真面目に学生生活を送ろうとする俺の日常のお話
俺の好きな人は誰にでも優しい。
u
BL
「好きなタイプは?」と聞かれて世界で一番多く答えられているのは間違いなく「優しい人」だろう。
相手の優しいところに惹かれ、気づいた時には引き返せないところまで恋に落ちている。
でも次第に気付くのだ。誰だってみんな「優しい人」ではなく「"自分だけに"優しい人」が好きなのだと。
ロランは、"誰にでも優しい男"、フィリオンに恋をしてしまい、地獄のような日々に身を焼かれていた。
そんなとある日「この恋、捨てたいな…」と溢したら「それ、捨てようとすんの、やめてくんね?オレ、あんたがアイツを見る視線に興奮すっからさ」と遊び人で有名な男、ヒューゴに言われる。
彼は、自分を好きな人間には興味がなく、別の誰かに恋い焦がれている人間の目が好きな変態らしい。
そんな身勝手な遊び人とちょくちょく話すようになってからというもの、フィリオンの様子はどんどんおかしくなっていく。
恋を捨てたい男と、恋を捨てるなと言う男と、優しさが狂い始めていく男の話。
※作者の意思ではなくキャラの意思で結末が決まります。ご要望は受け付けられませんのでどちらとくっついても美味しいと思う方のみお読みください。
※中世ヨーロッパ風学園ものです。
※短編(10万文字以内)予定ですが長くなる可能性もあります。
※完結までノンストップで毎日2話ずつ更新。
自分勝手な恋
すずかけあおい
BL
高校の卒業式後に幼馴染の拓斗から告白された。
拓斗への感情が恋愛感情かどうか迷った俺は拓斗を振った。
時が過ぎ、気まぐれで会いに行くと、拓斗には恋人ができていた。
馬鹿な俺は今更自覚する。
拓斗が好きだ、と――。
【完結】後悔は再会の果てへ
関鷹親
BL
日々仕事で疲労困憊の松沢月人は、通勤中に倒れてしまう。
その時に助けてくれたのは、自らが縁を切ったはずの青柳晃成だった。
数年ぶりの再会に戸惑いながらも、変わらず接してくれる晃成に強く惹かれてしまう。
小さい頃から育ててきた独占欲は、縁を切ったくらいではなくなりはしない。
そうして再び始まった交流の中で、二人は一つの答えに辿り着く。
末っ子気質の甘ん坊大型犬×しっかり者の男前
ブラコンネガティブ弟とポジティブ(?)兄
むすめっすめ
BL
「だーかーらっ!皆お前に魅力があるから周りにいるんだろーがっ!」
兄、四宮陽太はブサイク
「でも!それって本当の僕じゃないし!やっぱみんなこんな僕みたら引いちゃうよねぇ〜
!?」
で弟、四宮日向はイケメン
「やっぱり受け入れてくれるのは兄さんしかいないよぉー!!」
弟は涙目になりながら俺に抱きついてくる。
「いや、泣きたいの俺だから!!」
弟はドのつくブラコンネガティブ野郎だ。
ーーーーーーーーーー
兄弟のコンプレックスの話。
今後どうなるか分からないので一応Rつけてます。
1話そんな生々しく無いですが流血表現ありです
白花の檻(はっかのおり)
AzureHaru
BL
その世界には、生まれながらに祝福を受けた者がいる。その祝福は人ならざるほどの美貌を与えられる。
その祝福によって、交わるはずのなかった2人の運命が交わり狂っていく。
この出会いは祝福か、或いは呪いか。
受け――リュシアン。
祝福を授かりながらも、決して傲慢ではなく、いつも穏やかに笑っている青年。
柔らかな白銀の髪、淡い光を湛えた瞳。人々が息を呑むほどの美しさを持つ。
攻め――アーヴィス。
リュシアンと同じく祝福を授かる。リュシアン以上に人の域を逸脱した容姿。
黒曜石のような瞳、彫刻のように整った顔立ち。
王国に名を轟かせる貴族であり、数々の功績を誇る英雄。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる