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2.シャーデンフロイデ
05※
見られた。見られた。見られた。見られた。
「はっ、ぁ、……っ、う、そ……」
「たくさん天翔にハメてもらってんだ」
どくんどくんと心臓が破裂しそうなほど脈打つ。
緊張した気管は狭まり、呼吸を阻害する。
犬馬先輩の指が僕の体に触れる度に呼吸が止まる。息の仕方を忘れそうなほどだった。恥ずかしさと恐怖で視界が狭まっていく中、伸びてきた手に顎を掴まれる。
持ち上げられた視界。その向こうで純白君はこちらをじっと見つめていた。
「……先輩、綺麗ですよ」
そして、純白君は笑う。ほんの一瞬、薄い唇が綺麗に歪んだのに目を奪われた。だからこそ迫る鼻先に反応することも、重なる唇から逃れることも忘れていた。
「……っ! っ、ん、ぅ……っ」
何が起こっているのだ。
僕は今どうなっているのか。
客観的に事態を把握できる余裕なんてあるはずもなく、ただ唇に触れる柔らかな感触と下半身に絡みつく指先だけが本物だった。
目を伏せた純白君は何も言わずに唇を離す。唇に残った熱が、たった今幼馴染の恋人にキスをされたのだと理解した。
慈門君だけでもなく、小緑君までも裏切ってしまった。
そう脳が気付いた瞬間、全ての混ざり合った色は一瞬にして頭の奥で弾けた。
見開いた目から涙は染みては溢れ出る。ぽろぽろと頬を伝い、顎先へと落ちていく涙を純白君は目で追っていた。
「……っ、ふ、ぐ……っ」
どうしてこんなことをするのか理解ができない。
理解できないものに出会った時、頭の中で色々なシミュレートを行ったところで実践ができるとは限らない。今それを、この身を以て知らしめられる。
お前など無力だと頭から被せられたように悔しくて、悲しい。そんな自分も恥ずかしくて――いっそどうにかなってしまえた方が楽だったのだろう。
「あーら、藤が褒めたら泣いちゃった」
「……」
「でもほら、俺も織和チャンの体とかエロくて綺麗だと思うよ? だからそんなに恥ずかしがらなくても大丈夫だって。ほら、見てよこれ。織和チャンがエロ過ぎて俺の下着ん中もーやばいから」
言いながら腰の下で犬馬先輩が動く気配がした。瞬間、熱い物体を下半身に押しつけられて「ぇ、う゛」と悲鳴が漏れる。ぬめりを帯び、体液を擦り付けるように股の下へと挟まれる。そのまま下から譲るように腰を押し付けられれば、咄嗟に拒もうと閉じた下半身、その腿と腿の隙間に潜り込んだ亀頭がにゅるりと頭を出した。
まるで二本目の性器が生えたようだ。ゆっくりと、そして形を覚えさせるように性器は何度もそこを往復した。その度に粘ついた音が下半身から響き、密着した下半身を擦り上げられて腰が震える。
逃げようと腰を浮かしたところ、犬馬先輩はそのまま俺を浮かした状態で丸見えになった肛門へと亀頭を押し付ける。
今度は割れ目に沿わせるように押し付けられる男性器。逃げようにも腰を掴む犬馬先輩の手が離してもらえず、ひたすら一方的にマーキングされる。
きもち、わるい。なんだこれ。
「……っ! ぅ、あ」
「今すぐ嵌めたくて溜まんないってなってんの、分かる?」
「は、はなし……っ、おろしてくださ……っ」
無理だ、もう。おかしくなる。こんなの。
そう逃げようと犬馬先輩の腕を掴んだ時、犬馬先輩はぴたりと動きを止めた。
むりゅ、と肛門の縁を押し上げるように頭を埋めかけたそれに気付いたときには遅かった。
「いいの? 降ろして」
背後から犬馬先輩が笑う声が聞こえた。
「へ――」
口を開いた瞬間、僕の腰を支えていた犬馬先輩の手はそのまま落とす。
犬馬先輩の性器の上、下から真っ直ぐにこちらを向いたそれの上に体を落とせばどうなるか。そんなこと、分かりきったことだった。
待って下さい、と声をあげる暇もなかった。自重により落ちる下半身、そこへと頭を更に深く埋めてきた性器から慌てて逃げようとすれば、そのまま腰に回された手に更に下半身を押し付けられる。
隙間と隙間がなくなるほど、深く。鼓動の音が混ざり合うほど、長い間。
ばぢり、と眼球裏に光が走った。
「……――~~っ!!」
括約筋を押し広げ、肉壁を掻き分け、奥の天井まで一気に入ってくるそれを拒むことすらもできなかった。
慈門君のものとは違う。伸縮する内壁越しに感じる熱、鼓動を遮断することもできず、一方的に受け入れさせられることしかできない。
犬馬先輩の腕を引っ張り、それでも少しでも引き抜こうと腰を動かす。その度に腰を掴まれ、引き戻されてしまう。
地獄だった。
「ぁ、あ……っ、あ――やだ、抜いて……っ! ひっ、ぅ゛……っ!」
「あーあー、そんな暴れちゃったらもっと奥まで入っちゃうから」
「っ、ぅ゛、あ゛……ッ!」
反応を楽しむように、踏み躙るように、わざと手を緩める犬馬先輩は逃げる僕をあっさりと捕えては下から突き上げた。何度も、それは抽送となって犬馬先輩に体の浅いところから奥まで楽しむように何度も犯される。
前立腺を押し上げられ、執拗に弱いところを探るみたいに奥の奥まで性器で探られる。
――慈門君はこんな嫌な触れ方をしない。
もっと、何も考えられなくなるほど荒くて、それで、僕は毎回――。
「あっ、あ゛、う゛……っ、やだ、ぁ……っ」
「織和チャン汁出し過ぎ、顔も下もそんなに水分垂れ流してたら干からびちゃうって」
「……ぅ、う゛……っ、ぁ……っ」
「……っ、ふ、くく……っ、処女レイプしてるみてーで興奮するわ、これ……っ」
口を閉じたいのに、抱き寄せるように優しく膨らんだお腹を撫でられるだけで尿道ごと前立腺を圧迫され、より性器の感触は生々しいものとなる。
気持ちいいはずがないのに、抽送の度に前立腺を掠めるだけで腹の奥にじんわりとした熱が広がり、それは回数を重ねるごと自我を飲み込むほどの熱へと膨れ上がっていくのだ。
ダメなのに、拒まなければならないのに。
この人は慣れている。男相手の性行為に。
それが余計恐ろしかった。何かと比べて吟味するような目も、この行為を娯楽のように楽しむ余裕も、全てが僕の未知だったから。
「っ、う、……あっ、ぁ、やだ、嫌だ……やめて……っ!」
「うんうんそうだね、大丈夫大丈夫。怖くないから」
「ぁ、嫌だ……っ、いや、やだ、も……帰して……っ」
この行為に順応しようとしている自分の肉体すらも悍ましく、必死に飲まれないように首を横に振れば犬馬先輩は赤子でもあやすような小馬鹿にした言葉とともに僕の頸に唇を寄せる。慰めているつもりなのか、舌を這わされるだけで鋭利になっていた全身の神経はぞわりと一斉に反応する。こんなのおかしいのに、触れられた箇所が恐ろしい程熱い。嫌だ。気持ち悪い。
意識すればするほど犬馬先輩の手の感触、性器の熱、指の動きの一つ一つがより鮮明になり、自分で自分の首を締め上げていく。脳が痺れる。全身が性器に作り替えられているように境界が曖昧になっているのかもしれない。
喉から溢れる声を抑えることもできず、絶えずに漏れる声に犬馬先輩は余計興奮したようだ。腹の中で大きくなったそれの動きが先ほどよりも激しさを増し、より思考は乱されていく。
「っぁ、あ……っあっ、ん……っ! あっ、ゃ、あ……っ!」
「あーやばいかも、すげえ可愛い喘ぎ方すんじゃん織和チャン……っ藤よりかわいーし、そのくせ嫌がってるフリして美味しそうにチンポしゃぶってくんのエロすぎ、つか、感度よすぎだろ」
「っあ、や」
「……どんだけあいつに開発された? すっげー興奮する」
先輩が何言ってるのかすら考える余裕もなかった。体を抱き締められたまま、椅子から立ち上がった先輩に立ったままバックで突き上げられる。
逃げ場もない。激しく打ち込まれる性器に崩れ落ちそうになるのを、犬馬先輩の腕にしっかりと抱き締められたまま更に奥まで突かれる。
息する暇もないくらい、考えられる余裕もなくなるくらい突き上げられる――そっちの方がさっきよりも“いい”と思ってしまうことに気付きたくなかった。
弄ってすらもらえない性器から汁が垂れ、抽送の度に情けなく震える。飛び散る汁が制服を汚すなど、況してや周りの状況など気にする余裕もなかった。
ただ、一つだけ。
「…………」
泣き、喘ぐことしかできない僕を純白君はじっと見ていた。それから、やり場もなく手のひらが傷つくほど強く握りしめていた手を握られる。
――純白君。
ほんの一瞬、純白君に気づいた時だけ現実へと引き止められるようだった。
純白君が悲しそうな目で僕を見ていたから。
しかし、それもすぐに崩れ去る。
「し、ろく……っんん……っ!」
「ちょっと~? 織和チャン、今誰のチンポハメてもらってんのか忘れてない? 俺だよ」
「っ、う、あ……っ!」
「そーそー、いい子いい子~」
先走りでたっぷりと濡らした中、その浅いところをわざと狙って性器を出し入れされれば、爪先に力が入る。ぴんと伸びていく足、逃げようと前傾になる体は背後から覆い被さってくる犬馬先輩に締め上げられたままだった。
「集中しろ」
耳元で囁かれる低い声と共に一気に奥を築き上げられた瞬間、今にも破裂しそうになっていたそれは僕の中で暴発する。頭の中が真っ白になる。限界まで張り詰めていた糸が切れたように、ピンと伸びたままの全身は痙攣し、呼吸をすることも声をあげることもできなかった。
明確に自分の中で自分が死んだ――そんな気がしたのも束の間、犬馬先輩は追い討ちをかけるように腰を動かした。
「っ、は、やば……織和チャン、君って最高!」
最早声を出すこともできない。もしかしたら喉からは出てるのかもしれないが、僕の今の頭ではそれを自分から発せられた言葉と認識することを拒否していた。
今犯されているのも自分ではない。乖離していく意識の中、犬馬先輩の声が何故か籠ったように聞こえる。意識が、離れていく。それなのに腹の中でドクドクと脈打つ鼓動だけはやけに大きく響いた。
間も無く、脈動とともに腹の奥へと広がる他人の熱を感じながら僕はこれが現実なのか夢なのかも分からないまま、とうとう純白君の手を握りしめたまま意識を引き剥がされた。
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