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2.シャーデンフロイデ
可愛くない後輩
慈門君との待ち合わせ場所のコンビニへと向かおうと家を飛び出した矢先だった。
門を潜れば、いつもならば慈門君がいるはずのそこには別の影があった。
「……っ!」
「……おはようございます、先輩」
そう、家の前で待ち伏せをしていたらしい。純白君は僕が出てくるのを見るなり頭をぺこりと下げる。
驚きのあまり声も出なかった。
「……何しに来たの?」
「昨日も一昨日も来てました。連絡しても多分無視されると思ったんで」
なんのために?
色々聞きたいことはたくさんあった。
あの時とは違い、頭はまだ働いていた。その分純白君に対しての怒りももちろん正常に作動する。
周りに犬馬先輩がいないかを確認すれば、純白君は「俺だけですよ」と付け足した。
「すみません、質問の答えを言ってませんでしたね。……先輩と話したいことがあったので」
「……僕は、ないよ。君たちの関係にももうとやかく口出しはしない。勝手にしたらいい。だから、もう僕のことを放っておいて」
「……これから天翔慈門に会いに行くんですか?」
静かにじっとこちらを見つめてくる純白君に心臓が跳ねる。冷たくなる指先。何故知っているのかとその目を食い入るように見つめれば、純白君は少しだけ迷ったように口を閉じた。
それから、何も言わずに僕の手を取った。
「……っ! は、離して……っ!」
「何もしません。……ですけど、ここだと周りが邪魔なので。静かなところで話させてください」
「僕は君と話すと言ってない」
「ええ」
「ええってなに……っ?! 僕の話、聞いて……」
強い力で引っ張られ、閑静な住宅街の片隅にある寂れた公園へと引き摺り込まれる。嫌な予感がして大きな声をあげた矢先、「静かにして下さい」と純白君は取り出したハンカチで僕の口を塞いだ。
「ん……っ!」
「……っ、あー……すみません。癖で。言っとくけど別に何もしませんよ。俺は。……だから、お願いします。俺に時間を下さい」
そう、慌てて抜け出そうとする僕を宥めるように普段よりも柔らかい口調で続ける純白君。
僕よりも細いのに、その力が思いの外強いことが怖かった。このまま犬馬先輩を呼ばれたらどうしようという恐怖が込み上げてくる。
とにかく口のハンカチを外してくれ、と純白君の腕を掴めば、純白君は「あ」と小さくつぶやいてそれから手を離した。
「……落ち着きましたか?」
「……無理だよ。分かってるよね」
「でも、大きな声は出さなくなりましたね。それなら俺的には問題はないで」
「…………僕は、君が何を考えているのか分からないよ。純白君」
「奇遇ですね、俺もあまり自己開示は得意ではないんですよ」
「……」
そう純白君は僅かに口の端を持ち上げて笑う。それには自虐的な色すらも滲んでいた。
初めて会った時からだ。
何を考えているのか分からない。僕と同じ人間ということ自体は何もかも正反対の子だと思っていた。
木陰の下、こんな場所でも純白君の華奢な姿は妖艶に映る。それでもその雰囲気はいつもよりも違う。
明るい場所だからか、数日前見た時よりもまたいくつも増えた傷やアザがより目立って見えた。
真っ直ぐにこちらへと向き直った純白君は僕の肩を掴んだ。細い指が食い込み、痛みが走るのも束の間。
「単刀直入に伝えますよ。……織和先輩、天翔慈門と別れてください」
あまりにも真剣な顔をした純白君がそんなことを言い出すものだから、僕は今度こそ困惑した。
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