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3.???
リアクタンス
慈門君は僕が一人でいるといつも声をかけてくれる。
誰も居なくなった教室の片隅、テストの点数が悪くて嫌に帰りたくない時。なかなか椅子から動こうとしない僕を見つけてはすぐに駆けつけてくるのだ。
『折、なにしてんだよ』
『……慈門君』
『どうした? 元気ないな。お腹、痛いのか?』
『……そうかも』
『そうなのか? おい、早く保健室いかねーと』
大丈夫か?と僕よりも心配そうな顔をして僕の背中を撫でてくれる慈門君。そこはお腹じゃないよ、と思ったけど、僕にとってはそれだけで十分だった。
『ありがとう、慈門君。少し楽になったよ』
『そんなにすぐ治るわけないだろ、ちゃんと病院いけよな』
『うん、そうだね』
君が僕を見つけて駆けつけてくれる。それだけで僕は嬉しかった。
僕のことを見てくれて、僕のことを自分のことのように喜んでくれる。
それはきっと僕だけではない。周りの皆にだってそうだった。
だから慈門君にはたくさん友達がいた。
僕はその内の一人でいれればよかった。君と話ができて、同じ時間を過ごせたら良かった。
それは欲張りなのだろうか。
『うーん、そりゃ強欲だねえ~。てか、天翔のことなんも考えてないじゃん』
頭の中で声が響いた。
弾むような楽しそうな声が。
『その気がないなら付き合う必要なかっただろ。相手のことを思うなら余計。それでも織和チャンがそうしなかった理由ってさあ……』
煩い。黙れ。
そう叫ぼうとしても喉からは声が出ない。
『結局、自分が傷つきたくなかっただけじゃん』
「……ッ」
瞼を開けば、浴びるような光が網膜に焼きついた。
その眩さに顔を歪めた時、慣れていく視界の奥に人影を捉える。
その人はこちらを覗き込んでいた。派手な明るい髪は光で余計輝いて見えた。
「おはよ、織和チャン」
夢の中で聞こえた声が現実でも降り注いでくる。
一瞬まだ夢を見ているのかとも思ったが、焼けるような右腕から手の甲にかけての痛みと熱に意識は覚醒した。
それから、全身。首や腰、至る所に違和感を覚えた。まるで自分の体ではないようなそんな違和感だ。
鼻腔を擽る薬品の匂いに眩暈を覚える。ずっと感じていた異様な寒気は今は感じなかった。
「…………」
「まだおねむなのかな? 体は大丈夫?」
「……どうして」
絞り出した第一声は酷いものだった。
一瞬、それが自分の声だと認識することも困難なほど声は掠れ、呼吸をするたびに気管が詰まりそうになる。首にはまだ、指が絡みついているような感覚があった。
「慈門君は」
犬馬利千鹿はベッドの側、肘をかけてこちらを覗き込んでいた。体を起こそうとして、まるで上体に力が入らないことに気付く。
夢ではない。何もかも。
「あはっ、なんだ。心配?」
「……ここは、どこですか。どうして先輩が」
「織和チャン、身構えすぎ。ほら、落ち着いて。今の君は熱が出てるんだから」
ぶちまけられたパズルピースのように意識はゆっくりと形を取り戻そうとしていく。
だとしても、現状を理解するにはあまりにもノイズが大きかった。
「ほら、一度にたくさん話すと体がびっくりするよ。そんなに慌てなくても俺は逃げねえって、織和チャン」
「……」
「本当、酷い有様だったんだよ。織和チャン。天翔のやつもボロボロだし――ああ、あれ。織和チャンがやったの?」
ここは犬馬先輩の部屋なのか。ベッド以外のないそこは本当にただ眠りにつくだけの部屋のようにも見えた。
先輩はそのまま僕の手をそっと取ろうとし、痛みにつられて思わずその手を振り払った。より激痛が走ると思ったが、その感覚は想定していたよりも鈍い。
「……」
「大丈夫だよ、怖がらなくても。別に俺は正義の味方でもない。ただ織和チャンに休める場所を貸し出してるだけだから」
犬馬先輩の声はいつもよりも甘く、とろりと鼓膜に染み込んでいく。鬱陶しいほど僕の隙間に入り込もうとするのだ。
それを振り払い、目の前の男を見た。
「慈門君は」
「寝てるよ。隣の部屋で」
「ってよりも、眠らせたが正解か?」そう首を傾げる犬馬先輩。咄嗟にその胸ぐらを掴もうとすれば、するりと犬馬先輩は僕の指から逃れる。
「泣き疲れた子供みたいによく寝てる。だから、君も心配せずに休んでいきなよ」
薄い壁の向こうからは何も聞こえない。
犬馬先輩の言葉を鵜呑みにするつもりはない。
全身の傷跡が、裂傷が、生きているみたいにドクドクと脈打つ。
この男に警戒しろ。そう、全身が叫ぶように。
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