恣意的なぼくら。

田原摩耶

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3.???

一件の動画が共有されました。


 ――空き教室前。

 呼吸を整え、平穏を取り戻した僕はそっと扉を開く。
 中には机に腰をかけたままスマホを弄っている純白君が一人いた。僕に気づくと、それを制服のポケットにしまう。

「きましたね、先輩。……どうしたんですか? なんか顔赤いですけど」
「……いや、なんでもない。それよりごめんね、遅くなって」
「これくらいなら遅いうちに入りませんよ」

 さあどうぞ、と椅子を引っ張ってくる純白君に座らせられる。
 なんだか世話を焼かれている気がするが、昨日よりも少し軟化した純白君の態度からして少しは警戒心を解いてくれたのだろうか。今更そんなことを気にしてる自分にも呆れつつ、「それで」と純白君を見上げる。

「……どうだった?」
「まあ、色々掴めましたよ。先輩が頑張ってくれたお陰様で」
「教えてくれる?」

 揶揄するような純白君の言葉を受け流せば、「ええ、勿論」と純白君は微笑んだ。

「まず最初に伝えておきますけど、利千鹿の居場所までは掴めませんでした。それと、天翔慈門も」
「……うん」
「その代わりと言ったらなんですが、天翔慈門のセフレを片っ端から当たって来ましたよ」

 片っ端、と表現するほど複数人いるのか。その一言にまたこめかみがひくりと反応するが、深呼吸をする。今更慈門君の身の振り方に一喜一憂している場合ではない。

「そしたら数人、数日前から音信不通なのが分かりました。よく男のところフラフラしてるけど、流石に既読もつかないのはおかしいって」
「……」
「そんで、あいつら共通の友人のところも当たってみました。こっちも暫く家に帰ってこないし、顔も出してないって」
「……そういうのって、親御さんが警察に届けないの?」

 前々から気になっていたことを尋ねれば、純白君は「先輩はご両親に恵まれてますもんね」と微笑む。

「ごめん、そういう意味で言ったつもりはなかったんだけど……」
「いえ、当然の疑問ですよね。子供と関わりたくない親も居るんですよ、世の中には」
「警察に補導される方が社会的リスクを負うのに?」
「ええ、そうです。例えば……言い争いから子供から親への家庭内暴力に発展するケースもあるでしょう。子供一人ならともかく、家を溜まり場にされるくらいなら家から出て行ってくれてた方がましだって」
「……なるほどね」
「けど、今回ばかりは大ごとになりつつあるみたいですね」

 そう窓の外に目を向ける。
 何やら校内全体が騒がしいのはそれと関係するのだろうか。

「天翔慈門のグルチャに動画共有されたらしいですよ、天翔慈門のアカウントで」
「動画?」
「ええ、すぐ削除されたらしいんですけどそれを保存してたやつがある裏で回してるらしくて」

 ここへくる途中耳にした噂話が蘇る。
 無性に心臓の奥がざわつく。嫌な感じがする。それはきっと純白君の目が笑っていないから。

「真っ暗でブレブレでよく分かんない動画。けど、悲鳴が入ってる動画らしいです。あ、先輩も見ます?」

 軽い調子で聞かれ、返答に詰まる。
 それは、それってまさか。嫌な予感に落ち着いていたはずの心音がまたバクバクと高鳴る。額が痛む。目の前がどんどん狭まりそうになるのを堪えて、僕は「見せて」と声を絞り出した。
 純白君は取り出したスマホを操作し、画面に表示する。それは概ね純白君の言った通りだった。
 そして、ノイズと複数人の笑い声の中、確かに悲鳴が聞こえていた。『悪かった』『頼む』『許してくれ』と、その声には聞き覚えがあった。雑音混じりだが、確かによく聞けば『天翔』と呼ぶ声も。
 そしてその声はよく慈門君と一緒にいた慈門君のクラスメイトに似てる。

「……」

 指先から冷たくなっていく。無意識の内に僕は純白君の手首を掴み、再びリピート再生をしていた。

「……これ」
「どう思います? これ」

 意味ありげな純白君の目。笑みを浮かべているのに、その目に強く滲むのは侮蔑にも似ている。

「彼のクラス、見てくる」
「もう確認して来ました。昨晩家に帰って来てません。学校にも」
「……っ、彼、昨日僕会ったんだ。その時は元気そうだった」

 元気そうに慈門君の陰口を言って笑っていたのに。
 なんで。

「喧嘩売ってるんですよ、先輩」
「……誰に」
「さあ、誰でしょうね」

 誰が、なんの意図で。理解できない。
 こんなことをしてなんになる?見せしめのつもりか?
 馬鹿じゃないのか。周りにいる奴らはなにしてるんだ?

 今、慈門君はどこにいる?
 そこまで考えて、常楽先生の言葉が蘇る。

「……警察が来てるのって、もしかして」
「まあ、これ関連かもですね。……あ、もしかしてやんか言われましたか?」
「……うん、犬馬先輩と慈門君のことについて聞かれたよ」
「まあ、そうでしょうね。普通に考えたらもしこれが天翔慈門の復讐だとして、標的に狙われるとしたら――」

 純白君は僕を覗き込む。
 そのまま額がこつんとぶつかりそうな距離。
 伸びてきた人差し指が僕の胸を突く。

「先輩、ですもんね」
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