恣意的なぼくら。

田原摩耶

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1.イネイブラー

妥協案※


 家まで迎えにきてくれた慈門君と一緒に近くのコンビニへと行き、それから近くの公園のベンチに腰をかける。例の喧嘩した公園、とは別の公園だ。
 狭くて街灯も少なく敷地内は暗いが、二人で話すのには丁度いい。
 慈門君に部屋に誘われたけど、まだこの時間帯に部屋へ行くのに少し躊躇いがあった。
 今回は慈門君にこれからのことについて話さなければならないのだ。

 いつものアイスを選んで二人で他愛無い会話を交える。それから、やはりいつものように早く食べ終わった慈門君はそのままじっとこちらを見つめていた。

「それで、どうした? こんな時間に呼び出しなんて、折にしては珍しいじゃん」

「さっきも話したばっかなのにもう会いたくなったのか?」とちょっとニヤついて小突いてくる慈門君にアイスを落としかけそうになり、なんとか耐えた。じっと慈門君を見つめ返せば、「……まじ?」と声のトーンが落ちる。
 少し、緊張で上擦った声。

「……まあ、そんな感じなのかな」
「折……」
「待って、僕まだ食べてるから……もうちょっと待ってね」
「お、おう……」

 言いつつも先ほどよりもソワソワしながら僕の腰へと手を回してくる慈門君。お風呂上がりなのだろう。いい匂いがする。あと、ホカホカしてる。
 この匂い、好きなんだよな。思いながら最後の一欠片を口の中で咀嚼し、僕はゴミをビニール袋へと入れて結ぶ。

「食べ終わった?」
「うん。……あのね、慈門君。僕、君と別れてから色々勉強してきたんだ」
「勉強?」
「……その、色々」

 切り出し方を間違えたかもしれない。慈門君は嫌いなワードが出てきて露骨に萎えているが、多分普通に学校の授業のことを思い出しているに違いない。
「あの、つまり」と僕は空いた手で腰に回されていた慈門君の手を取る。

「君とのことだよ」
「それってエロいこと?」
「………………そうだよ」

 ぴく、と触れていた腕が反応する。「折」とそのまま膝の上まで体を抱き寄せられそうになり、「ほら、そういうところ」と僕は慌てて慈門君の腿を掴んで膝乗りを拒否した。

「僕は君に一から十まで付き合ってるとその内どうかなりそうなんだ、体も……心も」
「どうしたんだよ、折」

 雲行きが怪しくなってきたのを悟ったようだ。慈門君の表情は有頂天から地の底まで突き落とされたように青くなっていく。
 怒らせないように、傷付けないように、言葉を選ばなければならない。こんなの、皆の前で課題を発表するときよりも緊張する。

「……僕は君のことが好きだけど、あまり、“こういうこと”は得意じゃない」
「こういうことってなんだよ」
「だから……こういう……っ、え、えっち……とか……」

 触れた慈門君の太腿が反応する。こんなときにも興奮してるのだと分かってしまいほんの少し嫌気が差したが、ここを指摘したところで話は進まないだろう。
 戸惑いと興奮の狭間、慈門君は「もうしたくないってこと?」と僕の腰を強く抱き寄せたまま囁いてくる。甘えるような、縋り付くような、普段からは想像できない気弱なその声に罪悪感が煽がれる。
 ……だめだ、流されては。

「けど、君は……その、性欲が強すぎるから」
「折だって強いだろ」
「そんなことはないよ、僕は……」
「あんなに普段喘いでんのに」
「……っ、それは……」

 それは君が無理矢理するからで、僕の意思はそこにない。
 言い返しそうになり、そのまま上着の下へと滑り込んできた手に下腹部を柔らかく抑える。瞬間、性器の付け根――その奥がじんわりと熱を持ち出す。

「やめて……っ! 話を聞いて、慈門君……っ」
「聞いてるって、ただ触ってるだけじゃん」
「き、君は……っ」
「それで? 俺が性欲強すぎるからなに? つか、好きなやつに興奮すんのって男なら普通じゃん」
「……っ、ぼ、僕は、君とこうやって、並んでアイスを食べるだけでも……楽しいよ」
「俺も楽しいよ、折」
「だから、回数を減らして……あと、痛いこととか……っ、ぅ、う゛ぁ゛……っ?!」

 言いかけたと同時に下腹部に親指がめり込み、外側からピンポイントで弱いところを圧迫される感覚に目を見開く。
 跳ねる腰を捉えたまま、「それで?」と慈門君は薄く笑いながら僕の足に自分の足を絡める。そのまま強引に開脚させられるような格好のまま足を固定され、「やめて」と声が上擦った。
 いくら暗がりとはいえ、こんな格好は恥ずかしい。何より、寝衣の下でじわりと硬くなり始めていたそこを強調するような格好。

「なあ、折、勉強ってなんの勉強してきたんだよ。お前」
「ぁ、は……っ、ちゃ、ちゃんとした……やり方だよ、君のは……事前準備もなしで……っ」
「男同士のエロ動画でも見てきた?」
「じ、もん君……ッ!」

 そんなあけすけな言い方しないでくれ。
 大事なことなのにまるで馬鹿にするような言い草に顔が熱くなる。まるで僕が変態みたいなその笑い方に首の上が熱い。

「なあ、折。お前は真面目すぎんだって。……ま、俺はそういうところ好きだけどさ」
「慈門君……っ、ぼ、僕の話……聞いて……」
「聞いてるって。ちゃんと。けど、つまりあれだろ? 俺とヤんのが嫌とか言って、わざわざこんな暗いところ来てる時点で矛盾してね?」

 そんなわけない。暴論だ。プライベートに関わる部分だからなるべく人に聞かれない場所選んだなのに、まるで抱かれたいからみたいな言い草に怒りを覚える。

「ちが、それは……っそんなこと……っ、ひ、ぅ……っ!」

 片方の手で胸を鷲掴みにされ、そのまま薄着のシャツの上から柔らかく乳首をなぞられ、目を見開いた。ぞわぞわとした快感が広がり、それが嫌で腰を浮かせようとしたが逃れられない。硬い慈門君の指はそのまま必死に逃げようとした僕の胸の先を捉え、柔らかく根本から先っぽまでこりこりと押し潰してくる。その強すぎる刺激に一際大きな声が漏れそうになり、僕は咄嗟に自分の口を塞いだ。

「ん、っ、ぅ……っ!」
「分かってるよ、折。お前って人一倍真面目で恥ずかしがり屋だから認められねえよな。……こんなこと」
「ふ……っ、ぁ、待って、慈門君、き、いて……っ、ぅ、くひ……っ」

 乳首を虐められている中、晒されていた下半身に慈門君の手が伸びる。中を覗き込むように下着のゴムごとウエストを引っ張られた瞬間、ぬちゃ、と嫌な音ともに既に湿り気を帯びていた中を覗き込まれる。僕はそれを直視することができず、必死に目を瞑って意識を逸らした。けれど、「へえ」と小馬鹿にしたような慈門君の声が耳元で聞こえて頭のてっぺんから熱が引いていく。

「俺とエロいこと、したくねえんだっけ? 折」
「……っ、ち、が、これは……っ」

 そう口篭った瞬間、慈門君の手が下着の中に入ってくる。「ぅひ」と飛び上がりそうになる僕に構わず、下着に締め付けられ自ら先走りで濡れそぼったそれをぬちゃりと音を立てて取り出した。

「ぁ、う」
「ちゃんと見ろよ、折」
「ゃ、ちが、やだ、慈門君……っ」
「認めろよ、折。お前、俺に抱かれるの期待して呼び出しただろ」

「こうなること分かってて。動画見て我慢できなくなったんだろ?」違う。違うのに、慈門君は勃起した僕の性器を根本から掴んでわざと弾く。揺れるそこを強調され、惨めさと恥ずかしさでいっぱいになって泣きたくなった。それでも尚、慈門君は足を閉じることを許してくれない。
 認めようとはしない僕に時れたように、「なあ」と執拗に尋ねてくる慈門君。否定したいのに、喉を開けば変な声が出てしまいそうで声を出すことができない。
 何度も首を横に振れば、「仕方ねえな」と慈門君は僕の手を取る。そのまま慈門君の下半身へと手を持っていかれ、ぎょっとした。指先に当たる感触に思わず手を引っ込めようとするが、慈門君は更に僕にそれを握らせる。布越しからでも分かるくらい硬く、大きくなったそこを。

「分かったよ、じゃあ今日は“これ”でいいから」

 何が分かったっていうんだ。全然分かってないじゃないか。
 キスして誤魔化そうとしてくる慈門君を睨むが、何かを勘違いしたらしい。そのまま鼻先を擦り付け、唇に吸い付いてくる慈門君。

「っん、ぅ……っぷ、ふ……っ」
「ん、……っは、折……っ」

 イラついたように下着の中から取り出したそれを慈門は握らせてきた。硬く、ドクドクと脈打つそれは街頭に照らされてぬらぬらと光ってる。それが昼間、明るい場所で見せられるよりもずっとグロテスクに見えて、僕はそれを直視することはできなかった。
 ちゅ、とわざと音を立てて唇を甘く吸った慈門君はそのまま惚けたような目で僕を見据えた。

「……触り合い。これなら、お前も楽だろ?」
「じもん、くん」
「まだ激しくすんの無理そうだし、お前」
「……っ、……」

 そんな気遣いをするくらいなら我慢して欲しいのに、少しでも慈門君なりに我慢しようとしているというのが見えただけで許してしまいそうになる自分が怖かった。
 抓られたり首を絞められるくらいなら、そうか。……まし、なのかもしれない。
 再び重ねられる唇に今度こそ思考は持って行かれる。絡め取られる舌、お互いの性器を弄りながら夜の公園に濡れた音を響かせる。
 こんな場所、誰かに見られたら終わりだっていうのに……僕は、何をしてるんだ。
 ぼうっと熱くなる頭の片隅、快感で押し流されてしまいそうになる自我を必死に保ちながら僕は下腹部を包み込む慈門君の掌の熱と、握りしめた掌の中で反応する慈門君の鼓動を聞いた。

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