恣意的なぼくら。

田原摩耶

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1.イネイブラー

端ない子※


 慈門君の手で触れられて、その手に射精まで追い込められる度に自分が自分でなくなっているような気がする。

 まるで僕の意思を否定されているみたいだ。
 否定の言葉も全部快感で押し流されて、結局あの晩も慈門君の腕から逃れることはできなかった。

 痛いことや苦しいことはなかった。
 けど、浴びせられたその言葉は肉体への痛みよりも深く胸に突き刺さって抜けない。
 一晩経ってもそれは続いていた。



「……」
「おい、織和」
「…………え?」

 何度か名前を呼ばれ、目の前でひらひらと手が動く。
 肩を掴まれてようやくそれに気づけば、目の前、こちらを覗き込んでいたクラスメイトたちは心配そうな顔をしていた。

「大丈夫か? ぼーっとしてたけど」
「ん、ああ……ごめん。はは、寝不足でさ」
「勉強ばっかしてるからだろ? たまには息抜きしねえと」
「ん……まあ、そうだね」

 実際は勉強も手についていないのだが、わざわざここで無関係のクラスメイトたちを心配させるようなことを口にする必要もない。
 薄暗くなる胸の内に蓋をし、笑う。
 そうか、いつの間にかに休み時間になってたのか。
 次の準備しないとな、と思いながら時間割を確認したとき。

「おーい、折」

 廊下の奥、聞こえてきたその名前を呼ぶ声にぴくりと全身が凍りついた。
「織和君、彼氏きてるよ~」なんて揶揄うような女子たちの声も今はうまく笑えなかった。
 扉の向こう、絡んでくる女子たちを面倒臭そうにあしらいながら慈門君はこちらへ笑いかける。

 なんの用だ、と聞かずとも分かった。にこやかな笑顔と手招き――こっちに来いという合図。

「お前も大変だな」と呆れるような、憐れむようなそんなクラスメイトの目が痛い。普段ならば「そんなことないよ」と笑って誤魔化せていたはずなのに、今はそんなことにも頭が回らなかった。

 ――目があったし、無視するわけにはいかない。
 それに、また前みたいに怒らせたくもない。

「ごめん、ちょっと行ってくるね」とクラスメイトたちに声をかけ、僕は教室の外で待っていた慈門君の元へと向かった。







「っ、ま、待って、慈門君……っ!」
「なにが?」
「な、なにが、じゃなくて……っ、授業……ん、っ、ぅ……」

 引っ張り込まれた空き教室。その机の上に座らせられ、上から覆い被さってくる慈門君は僕の唇を舐め、「サボればいいじゃん」と首筋に顔を埋めてくる。襟を開き、首筋を這うその舌先は鎖骨のあたりまで降りてきて、首筋を掠める髪の感触にただ体を震わせた。

「そんなの、……だめ……っ、あ、怪しまれるから……っ、ん……っ」
「じゃあさ、さっさと済むように折が頑張ればいいじゃん」
「……っ、慈門君……」
「たくさん勉強してきたんだもんな?」

 頭を撫でられ、耳を優しく揉まれる。耳の穴を広げるように入ってくる指先に擽られ、堪らず顔を逸らした。

 ――あれから慈門君に誤解されたまま、そもそも話もまともに聞いてもらえないまま彼は僕を端ない人間呼ばわりをして、それ相応の態度で扱う。
 それが何より僕にとっては屈辱だったのに、否定することを諦めている。
 慈門君の言う通りだった。話を聞いてもらえない、それどころか歪曲されるくらいならばさっさと慈門君の気の済むようにしてこの場を終えた方が丸く収まるのだ。

 本当にそれでいいのか。
 頭の中に疑問が浮かんだ。けれど、昨日の今日で疲労が残った体ではもう慈門君とまともにやり合いたくない。
 ――疲れてしまう。

「わ、かったから……僕の制服は脱がさないで」
「まじ? 折、じゃあ頼むわ」

 握り締められた手をそのまま慈門君の下半身まで引っ張られる。指先に当たる慈門君の膨らみに触れながら、僕は言われるがまま金具を摘んで慈門君の前を寛げた。

 ……次の授業なんだっけ。
 そんなことを考えて気を紛らわしながら、下から現れる性器にそっと指を這わせた。

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