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1.イネイブラー
04
「……っ、……」
距離を置かないといけないのに。
突き放さなければならないのに。
「なあ、折」と慈門君の手が頸に伸びる。首を絞められたときの感触が蘇り、咄嗟に僕は慈門君の腕を掴んだ。
「……そんな、ことは……ないよ」
本当に、この口は。
「折」
「……けど、本当に……具合が悪いんだ」
「あ、ああ。分かってる。だから心配してきたんだよ」
「……」
「……付き合ってからさ、こういうのなかったじゃん。だからたまにはお前の役に立ちたいんだよ、折」
「駄目か?」と尋ねられて心がぐらつく。
仮病だとバレてしまうリスクもあるし、このまま帰ってもらうのが一番だと分かっていた。
けれど、慈門君に手を握られると動悸が激しくなる。心臓の音で心の声もなにもかも掻き消されてしまいそうなほど、熱に充てられる。
昔はよく、怪我や風邪で学校休む度にお互いの家に看病しにいってた。
慈門君は病気こそなかったが、怪我が目立つことが多かった。運動時のなりふり構わないところだったり、それこそ喧嘩だったり。
その度に僕は見舞いに行って、そのまま遊びに行こうとする慈門君を必死に引き留めてたこともあった。今ではもう懐かしさすらある。
「折」
名前を呼ばれて、見つめられる。
頼むから傍に居させてくれ、と縋り付くようなその目が痛かった。
「本当に、何もしない?」
「ああ。……お前がしてほしいことあったら手伝うよ、ほら、飯とか」
「……それならいいよ」
僕の言葉を聞いたとき、慈門君の表情にぱっと光が差した。
それから、「折っ」と嬉しそうに抱きついてくる慈門君を慌てて避ける。
「……っと、悪い。つい……」
「大丈夫。……それより、少し休んでいいかな。君も寛いでていいから」
「本当に大丈夫かよ」
「……一人になりたいんだ」
これは嘘ではない。
意図したわけではないが、少し突き放すような口調になってしまったことに申し訳なくなったが、常楽先生の教えの通りならば間違ってはいないはずだ。
慈門君の手が空を切り、それから握り締められた。「ああ、分かったよ」と下手くそな作り笑いとともに、「じゃあ、なんか欲しいものあったら言えよ」とスマホを見せる慈門君。
メッセージでも可、ということか。
僕の体調を気遣ってくれる慈門君にじんわりと嬉しくなる反面、ずっと今の優しい慈門君のままだったらと思わずには居られなかった。
本人を前にそんなことを考えてしまう自分にも嫌気が差す。
それから、僕は希望通り一人にしてもらった。
正直意外だった。慈門君ならば「完治するまで添い寝する」などと言いながらベッドにまで着いてきてもおかしくはないと思っていたからだ。
嬉しい誤算ではあるものの、先ほどの慈門君の顔が脳裏にこびりついて離れない。
『俺ってそんなにうざいか?』
そう尋ねてきた時の慈門君の声が、ベッドで横になっている間もずっと脳内でリフレインしていた。
露骨に避けすぎた弊害か、でも最後はいつも通りの慈門君だったし……。
今頃リビングでゆっくりしているであろう慈門君の存在ばかり気になってしまう。
慈門君、本当に僕を心配してそのためだけに顔を見に来てくれたのか。
「……」
一応、先生に伝えていた方がいいのかもしれない。
けど、先生に怒られるだろうか。ちゃんと慈門君を避けなかったこと。
でも先生も慈門君が学校にきてなかったら心配するだろうし、先に伝えておくか。
慈門君も一緒だけど看病しにきてくれただけなので大丈夫そうです、とかそんな感じで。
ようやく一息をつき、常楽先生にも報告をした後、念の為スマホは部屋着のポケットにしまい込むことにした。
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