恣意的なぼくら。

田原摩耶

文字の大きさ
30 / 152
1.イネイブラー

04


「……っ、……」

 距離を置かないといけないのに。
 突き放さなければならないのに。

「なあ、折」と慈門君の手が頸に伸びる。首を絞められたときの感触が蘇り、咄嗟に僕は慈門君の腕を掴んだ。

「……そんな、ことは……ないよ」

 本当に、この口は。

「折」
「……けど、本当に……具合が悪いんだ」
「あ、ああ。分かってる。だから心配してきたんだよ」
「……」
「……付き合ってからさ、こういうのなかったじゃん。だからたまにはお前の役に立ちたいんだよ、折」

「駄目か?」と尋ねられて心がぐらつく。
 仮病だとバレてしまうリスクもあるし、このまま帰ってもらうのが一番だと分かっていた。
 けれど、慈門君に手を握られると動悸が激しくなる。心臓の音で心の声もなにもかも掻き消されてしまいそうなほど、熱に充てられる。

 昔はよく、怪我や風邪で学校休む度にお互いの家に看病しにいってた。
 慈門君は病気こそなかったが、怪我が目立つことが多かった。運動時のなりふり構わないところだったり、それこそ喧嘩だったり。
 その度に僕は見舞いに行って、そのまま遊びに行こうとする慈門君を必死に引き留めてたこともあった。今ではもう懐かしさすらある。

「折」

 名前を呼ばれて、見つめられる。
 頼むから傍に居させてくれ、と縋り付くようなその目が痛かった。

「本当に、何もしない?」
「ああ。……お前がしてほしいことあったら手伝うよ、ほら、飯とか」
「……それならいいよ」

 僕の言葉を聞いたとき、慈門君の表情にぱっと光が差した。
 それから、「折っ」と嬉しそうに抱きついてくる慈門君を慌てて避ける。

「……っと、悪い。つい……」
「大丈夫。……それより、少し休んでいいかな。君も寛いでていいから」
「本当に大丈夫かよ」
「……一人になりたいんだ」

 これは嘘ではない。
 意図したわけではないが、少し突き放すような口調になってしまったことに申し訳なくなったが、常楽先生の教えの通りならば間違ってはいないはずだ。
 慈門君の手が空を切り、それから握り締められた。「ああ、分かったよ」と下手くそな作り笑いとともに、「じゃあ、なんか欲しいものあったら言えよ」とスマホを見せる慈門君。
 メッセージでも可、ということか。
 僕の体調を気遣ってくれる慈門君にじんわりと嬉しくなる反面、ずっと今の優しい慈門君のままだったらと思わずには居られなかった。
 本人を前にそんなことを考えてしまう自分にも嫌気が差す。

 それから、僕は希望通り一人にしてもらった。
 正直意外だった。慈門君ならば「完治するまで添い寝する」などと言いながらベッドにまで着いてきてもおかしくはないと思っていたからだ。
 嬉しい誤算ではあるものの、先ほどの慈門君の顔が脳裏にこびりついて離れない。

『俺ってそんなにうざいか?』

 そう尋ねてきた時の慈門君の声が、ベッドで横になっている間もずっと脳内でリフレインしていた。
 露骨に避けすぎた弊害か、でも最後はいつも通りの慈門君だったし……。
 今頃リビングでゆっくりしているであろう慈門君の存在ばかり気になってしまう。
 慈門君、本当に僕を心配してそのためだけに顔を見に来てくれたのか。

「……」

 一応、先生に伝えていた方がいいのかもしれない。
 けど、先生に怒られるだろうか。ちゃんと慈門君を避けなかったこと。
 でも先生も慈門君が学校にきてなかったら心配するだろうし、先に伝えておくか。
 慈門君も一緒だけど看病しにきてくれただけなので大丈夫そうです、とかそんな感じで。

 ようやく一息をつき、常楽先生にも報告をした後、念の為スマホは部屋着のポケットにしまい込むことにした。

感想 47

あなたにおすすめの小説

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

【完結】もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない

バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《根暗の根本君》である地味男である<根本 源(ねもと げん)>には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染<空野 翔(そらの かける)>がいる。 ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない?? イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

【BL】無償の愛と愛を知らない僕。

ありま氷炎
BL
何かしないと、人は僕を愛してくれない。 それが嫌で、僕は家を飛び出した。 僕を拾ってくれた人は、何も言わず家に置いてくれた。 両親が迎えにきて、仕方なく家に帰った。 それから十数年後、僕は彼と再会した。