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2.シャーデンフロイデ
02
しおりを挟む慈門君を落ち着かせたあと。
スマホの端末を確認すれば常楽先生からの不在着信に気付き、すぐに折り返しの連絡を入れることにした。
先生はすぐに出た。
『織和。そっちは大丈夫か』
「はい、もう大丈夫です。先生……ご迷惑お掛けしました」
『気にしなくても良い。……悪い、すぐに向かう予定だったけど話が長引いてな。これから迎えそうだ。……それより、天翔はどうしてる?』
「慈門君はもう大丈夫です。僕たち、ちゃんと話し合うことができましたので」
これ以上先生に余計な心配をかける必要もないだろう。
それをいち早く伝えたかった。先生に安心してほしかったから。
だけど、先生は。
『……なんだって?』
僅かに声のトーンが落ちる。
何故先生がそんな反応をするのか分からなかった。もしかしたら言葉足りずだったのかもしれない、そう判断した僕は慌てて付け足す。
「慈門君、今までのことも謝ってくれたんです。……先生にも迷惑かけたこと話したらちゃんと謝りたいって言ってました。だから、もう大丈夫です」
『……待て、今お前らは一緒にいるのか?』
「はい、隣にいます」
そう、腰をかけたベッドの隣。ぴたりとくっついては離れない慈門君を横目に見る。僕と先生のやり取りを不安そうな目で見ていた慈門君は僕と目が合えば、腰を抱く腕に少し力が強くなった。
『早く通話を切れよ』と言いたげな目で鼻先を頭部に押し付けてぐりぐりしてくる慈門君はまるで犬そのものだ。
『……天翔に代われ』
「先生も忙しいですよね。僕たちのことはもう気にしないで……」
『いいから代われ』
「……」
僕では話にならないと思われたのかもしれない。
それか、慈門君の真意を確認するためか。
まあ、それもおかしな話ではない。なんたって先生からしてみれば僕は被害者で慈門君は加害者なのだから。
……それも、数時間前の話だ。
「……慈門君。先生が慈門君と話したいんだって。……話せる?」
「……ああ、分かった」
今までの慈門君だったら僕からスマホを取り上げて通話を終わらせていただろうに、やはり慈門君は成長した。
僕からスマホを受け取った慈門君はそこでようやく僕から体を離した。そのまま常楽先生と通話を繋いだまま、慈門君は僕の部屋から出ていく。
慈門君には先生に相談していたことも伝えた。
そこで僕がどれほど追い込まれていたかということも、そこを常楽先生に助けてもらったということも。
だから、先生にこれからもしかしたら何か言われるかもしれないけど、反省したところを見せてほしいとも。
それが、慈門君のためだった。
慈門君はまず僕が自傷行為に出ようとしたことにショックを受けたような顔をして、それからは萎んだ風船のように力無く項垂れる。
自分のせいだと反省して、常楽先生にも改めて礼を言いたいと。
僕はそれに賛同した。遅かれ早かれ慈門君のところに先生たちから探りが入ることは明白だったし、ただでさえ悪い意味で注目を浴びていた慈門君だ。改心したところを見せた方が彼のためにもなる。
だから、慈門君と先生が話すとなっても特に気にしてはいなかった。
そして、暫くしない内に慈門君が部屋へと戻ってきた。そのまま端末を僕に手渡す。先生との通話は既に切れていた。
「いまからここ来るって、あいつ」
「慈門君、なんて言ったの?」
「……別に、変なことは言ってねーよ。ちゃんと折の言った通りにした。『俺らのことで迷惑かけてすみませんでした』って」
「……先生、心配性だからな」
「……」
まるで不貞腐れた子供のような顔のまま、再び隣に腰をかけてきた慈門君は僕の腰に手を回した。
褒めてというかのように押し付けてくる頭を撫でながら、「どうしたの、慈門君」とその表情の意味を問えば、慈門君は目を伏せる。
「……あいつと二人で電話とか、結構してたのか?」
「相談に乗ってもらってたんだよ、君のことで」
「……それは、悪かった」
「もういいよ。……これからの慈門君のこと、信じてるから」
「でも、そこまで折のこと追い詰めてたった……俺、全然気付けなくて……まじ、情けねえわ。俺。お前のこと一番見てるのは俺だって思ってたのに」
それは、そうかもしれない。
少なくとも慈門君は鋭いけど、僕だって人並みに誤魔化すことはできる。
「終わったことだよ。けど、先生のお陰だから。僕も君もこうして分かり合えたのは」
「……そう、だな」
「先生と直接会ってもちゃんと謝れる?」
「……頑張る」
「うん、応援してるよ」
キスしてほしそうに強請る慈門君の背中を軽く撫でる。暫くそうやって抱き合っていたあと、僕は体を離した。遠くから車の音が聞こえてきたからだ。
先生だろうか、と思った矢先。その音は家の前で停まった。
それから間も無くインターホンが家中に響いた。
僕は窓の外から外を見下ろす。――先生だ。
「大丈夫だよ、君なら」
「……折」
「……ん?」
「俺のこと、あいつに言わないで」
「……それ、どういう意味?」
「俺が死のうとしたのとか……全部。お前以外のやつに知られたくない、こんなこと」
先生に言わなければならない。
先生に言えばきっと慈門君が深刻な状態だということも分かってくれるだろうし、きちんと対処もしてくれるはずだ。
けれど、その結果慈門君を傷つけることになる。
少なくとも今は慈門君は僕のいうことを聞いてくれている。
それに、慈門君の気持ちは僕にも分かる。
僕も先生に言えたけど、小緑君や親には言えなかった。知られたくもなかった。
――きっと、僕たちは同じだ。
「分かったよ、慈門君」
「……折」
「僕たちの秘密だ」
誰にでも知られたくない部分はある。
今でも慈門君の全てを理解できたわけではないけど、少なくともようやく初めて慈門君と本当の意味で繋がれた気持ちになった。
嬉しかった、のだと思う。僕だけと言われたことが。
誤ってると分かってても、正しい道だけが僕たちにとっての正解ではない。
少なくとも、二人だけの傷に留めておくことが今の僕らにとっては強い繋がりにもなれたのだ。
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