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2.シャーデンフロイデ
02
休み明け、変わったこと。
それはこの二人のことだ。
小緑君と純白君とやけに校内で顔を合わせる頻度が増えたこと。
それから、その度に連行される。
小緑君も純白君も何も言わないが、二人とも隠そうともしない。僕を慈門君から引き離させようとしているのは明らかだった。
「あの、二人とも……もしかして常楽先生から何か言われた?」
――中庭のベンチにて。
なぜか純白君と小緑君の間に挟まれて座る羽目になった僕は、恐る恐る二人を見た。
売店で目的のパンを買えたらしい純白君と、ちゃんと弁当を持ってきている小緑君。二人の目が僕に向けられる。
「なんであいつの名前が出てくんです?」
「言われるような心当たりがあるのか? 織和」
何故逆に僕が二人に詰め寄られているのか。
二人とも表情が冷たいので怖いが、中身はそうではないと分かった今だいぶ恐怖は薄らいでいた。
それでも、言葉の鋭さは変わらないが。
小緑君に詰められると何もいえなくなる。
「……そういうわけじゃないんだけど、その」
「甘南先輩、言い方が悪すぎ。ほら、折先輩怖がってるし」
「怖がってない。こいつは知ってるはずだ、俺は元々こういう喋り方だ。そうだろ? 織和」
「う、ううん……まあ、そうかな?」
「なんか歯切れ悪いし……本当に甘南先輩、折先輩と仲良かったんです? 怯えてません?」
「……」
「負けそうになったら黙るし」
「……おい、織和。迷惑なら早めに言え。こいつにも言い聞かせておく」
小緑君に指を指され、「なにそれ」と純白君は不貞腐れたように僕の肩にのしかかってくる。その近さに慄く暇もなかった。
「そんなこと、ないですよね?」
首を伸ばすようにしてこちらを覗き込まれる目。本当に猫みたいな子だ。
「そうだね」と頷き返そうとした時、小緑君は「近すぎる」と純白君を引き剥がした。
「いった、ったく……暴力ですよ。甘南先輩。妬いてるんですか?」
俺に、と楽しげに笑う純白君に小緑君の渋面は益々顰められていく。
あまり気が長い方ではない小緑君だ。怒るのではないのかとハラハラとしていたが、小緑君の反応は意外なものだった。
「無駄口を叩くよりも先にさっさと食え」
「はいはい。……本気じゃん」
「口に物を入れたまま喋るな」
「はいはーい」
「……」
小緑君、恋人相手にはそんな感じなのか。
幼馴染の見たことのない大人な部分を見せつけられたようでなんとも言えない気分になる。
相手が年下だからなのかもしれないが、普段の大人びた純白君とは違い小緑君と一緒にいるときの純白君は年相応――どころか多少生意気さが増しているような気がしてならない。
気を許しあっている。それは僕から見てもわかる。
だからこそ複雑ではあった。
「先輩、折先輩」
「――え? あ、ごめん……なんだっけ?」
「今日甘南先輩がご飯作ってくれるらしいですよ。折先輩もどうですかって話です」
「おい、勝手に話を進めるな。まだ俺は納得していない。そんな状況で人に食わせられるわけがないだろう」
「俺んちに来たいのなら好きにすればいいが」と付け足す小緑君。
良いのか、と思いつつ流石にそれはと慌てて僕は誘いを断った。
「なんで?」
「な、なんでって……」
君たちの邪魔をしたくないからだよ、といちいち注釈を入れること自体なんだか馬鹿馬鹿しく思えてくる。
小緑君ならともかく、何故僕の小緑君への気持ちに気づいているであろう純白君が納得してないのか。
多分これは僕の問題だ。僕が純白君の立場だったらいい顔することができない。その己の狭量さを突きつけられているようで息が苦しくなる。
それを誤魔化すために僕は笑う。
「まだ万全じゃないんだ。……それと、少し寝不足気味でね。今日は早く寝ないと……」
「それなら仕方ないですね。残念でしたね、甘南先輩」
「別に俺から誘ったわけではないが?」
二人のやり取りが弾めば弾むほど、何故僕はここにいるのだろうかという思いは強くなっていく。
昼休み、食堂へと向かう者や各々好きなように放課後を過ごすため通り過ぎていく生徒たちを尻目に、僕はただ曖昧に笑うことが精一杯だった。
二人が僕に気を遣ってるのも分かるし、疎外感を与えないように接してくれているのだろうというのも分かった。けれど、それが余計に。
「あ。俺、ちょっとトイレ行ってきます」
そう唐突に純白君は立ち上がった。このタイミングでか、と驚く僕に構わず小緑君は「ああ」と純白君を見送った。
純白君は控えめに手を振り、それから軽い足取りでベンチを離れて校舎へと向かった。
もしかして、と一抹の可能性が脳裏をよぎる。
まさかなと思う反面、あまりにも露骨なタイミングで残された僕はどうすればいいのかわからずただ黙り込むことしかできなかった。
「……ったく、藤のやつ。妙な気を回しやがって」
それは小緑君も同じだったようだ。いつの間にかに平らげたようだ。空になった弁当箱をランチバッグにしまいながら小緑君は呟く
「ごめんね。僕のせいだよね。……純白君、気まずくさせたの」
「安心しろ。気まずくはなってないだろ。あいつは面白がってるだけだ」
「面白……?」
「俺とお前を二人きりにすればなんとやり取りをするのか、だ」
「それが見たいんだろ」と小緑君はふん、と鼻を鳴らす。
僕にはその意味がよく分からなかった。というより、何故そんな真似を?という気持ちの方が強い。
「純白君って不思議な子だね」
「異論はないな」
「……」
「……」
き、気まずい。
こうなることは分かっていたはずなのに、小緑君はこの沈黙もさして気にしていないらしい。気にしているのは僕だけだ。
膝の上にランチバッグを置いたまま、小緑君は金属の背もたれに背中を預けた。そのままこちらを見る。
「慈門とは別れたのか?」
「……単刀直入だね」
「お前らが露骨すぎるからだ。俺のクラスにも届いてる。四六時中、あんだけ鬱陶しいほどベタついていたやつらが急に余所余所しかなり出せばそりゃ誰でも何かあったと思うだろ」
校庭からはサッカーや野球して遊んでいる生徒たちの声が響く。長閑な日常の風景だ。僕だけがこの世界に取り残されている気になる。
小緑君には知られたくない。勘付かれたくない。のに。
「……それで、常楽先生からはなんて言われたの?」
二度目の問いかけ。それはもう自分で答えているようなものだった。それでも、今なら小緑君は答えてくれるのではないか。そう思ったのだ。
小緑君は僕の問いかけに僅かに眉尻を持ち上げる。それから。
「『お前と織和は親しいのか』って」
「……それだけ?」
小緑君を見上げる。こうして並ぶとより小緑君が記憶の中よりも成長していることに気づいた。目が合い、小緑君は「それだけだ」と口にした。
「それだけで、大抵は想像つく」
「そっか。……小緑君、案外洞察力あるもんね」
「案外とはなんだ」
「優しいし……そりゃ、純白君も小緑君のこと好きになるよ」
……僕は一体何を言ってるのだろうか。
口にしてからしまった、と後悔する。余計なことを話しすぎた。こんなことを言いたかったわけではないのに。
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