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2.シャーデンフロイデ
03
まだ純白君が戻ってきてないことを祈りながら僕は目を瞑った。
小緑君は何も言わない。なんだこいつと思われたのかもしれない。
けれど、口から出た言葉を撤回することができなかった。嘘だと、冗談だと、変な意味ではないと誤魔化すことも。
小緑君はこちらを見て、それから「なんでお前がそんな顔をする」と片眉を持ち上げる。
「僕……どんな顔してる?」
「今にも死にそうな面だ」
「それは……」
ちょっと笑えないかもしれない。
小緑君には敵わないな、と曖昧に笑い返し、目を伏せる。
「別れてないよ」
「……」
「別れようって思ったけど……できなかった。僕には、慈門君を一人にすることはできない」
「どうせ天翔のやつが駄々こねたんだろ。別れたくないって」
「……流石、小緑君だね」
「あいつのこと知ってるやつなら大体想像つくだろ。……あいつ以外ならな」
ここには居ない慈門君のことを思い浮かべる。
小緑君の中の慈門君はきっと子供の頃のままなのだろう。小緑君はどこまで知っているのだろうか、慈門君のこと。
気になったが、ここには人の目がある。行き交う人間の目がこちらをちらりと見る。なんか、目立ってる気がする。
それに気付いたらしい。小緑君は「暇人が」と舌打ちをする。それからこちらへと視線を流した。
「今日の放課後、暇か?」
「空いてるけど……」
「そうか。ならまた連絡する」
なんの、と聞き返す前に「お前も、ここじゃ落ち着かないだろ」と小緑君は続ける。
小緑君も話したいと思ってくれているのが嬉しい反面、恐怖心もあった。
小緑君相手にどこまで隠し通せるのか今の僕には自信がない。
けれど断るのも不自然な気がして、僕は分かったよ、とだけ頷いた。
暫くしたら純白君が戻ってきた。
というより、離れたところからこちらを見ていたらしい。
「なんの話してたんですか?」と言いながら僕の隣に座る純白君は何故だかニヤニヤしてる。
「随分と長い便所だったな」
「それ、セクハラですよ。甘南先輩」
「せ……」
「それより、甘南先輩。折先輩のこと虐めてませんでした? 折先輩、さっきよりもしょげてませんか?」
「そ、そんなことはないよ」
「そうだ、藤。こいつは元からこの面なだけだ」
否定はできないけど口が悪すぎるよ、小緑君。
けど純白君が戻ってきてくれたお陰で少し重たくなっていた空気も僅かながら軽くなった気がした。
清涼剤みたいな子だと思った。
それから他愛のない話をし、僕は自分への教室まで戻ることになる。
途中で純白君と別れ、そのまま小緑君と一緒に二年生の教室前までやってきた。
「また夜な」
「……うん。今日はありがとう、誘ってくれて」
小緑君は何も答えず、代わりにひら、と控えめに手を振ってそのまま歩き出した。
小緑君が手を振るなんて。これも純白君の影響なのだろうか。
感動するのも束の間、僕は今夜のことに頭を悩ませながら自分の教室へと戻ることにした。
教室の中には出て行った時と同じようにクラスメイトたちがそれぞれ好きに過ごしており、そのうちの数人は僕が戻ってくるなりこちらを見た。そして、どこか気まずそうな顔で「織和」と声をかけてくる。
なんとなくその表情から不穏なものを感じとったが、それに気づかないふりをしながら僕は「どうしたの?」とクラスメイトたちの元へ行く。
「どこ行ってたんだよ」
「どこって……ご飯だよ」
「さっきまで天翔がお前のこと待ってたんだぞ、ここで」
「……え?」
冷や汗が滲む。咄嗟に時計を見れば、もう昼休みが終わる時間だった。
「スマホ見てなかったのか?」
「見てなかった……あの、慈門君はなんて?」
「なんも。ずっと無言だったし、俺らもなんて言えばいいのかわかんねえから『すぐ戻ってくんじゃね』って感じでさー……」
「まじで気まずかったわ、あれ」
「……それは、ごめんね」
迂闊だった。他のクラスメイトたちにも変な気を遣わせてしまったことにも申し訳なくなったし、同時に慈門君のことを聞いて胸の奥が軋む。
何しにきたんだ、なんて理由は今更僕らの間には必要ない。慈門君、気にしていないといいけど。
そう思うが、スマホを確認するのが怖かった。
間も無くしてチャイムが鳴り響き、慌てて僕は席へと戻る。
……慈門君、怒ってるかな。
放課後、慈門君の教室に顔を出しに行った方が良さそうだ。
慈門君が反省したとしても、不安定であることには代わりない。
僕としたことが迂闊だった。せめてクラスメイトに一言伝えておくべきだったのだろうか。
そんなことをぐるぐると考えているうちに常楽先生がやってきた。
「お前ら席につけ」といういつもと変わらない声に現実へと引き戻される。……今は授業に集中しなければ。
そう思えば思うほど、慈門君へどう対応すべきかが頭を占めてまともに授業に身が入らなかった。
小緑君は何も言わない。なんだこいつと思われたのかもしれない。
けれど、口から出た言葉を撤回することができなかった。嘘だと、冗談だと、変な意味ではないと誤魔化すことも。
小緑君はこちらを見て、それから「なんでお前がそんな顔をする」と片眉を持ち上げる。
「僕……どんな顔してる?」
「今にも死にそうな面だ」
「それは……」
ちょっと笑えないかもしれない。
小緑君には敵わないな、と曖昧に笑い返し、目を伏せる。
「別れてないよ」
「……」
「別れようって思ったけど……できなかった。僕には、慈門君を一人にすることはできない」
「どうせ天翔のやつが駄々こねたんだろ。別れたくないって」
「……流石、小緑君だね」
「あいつのこと知ってるやつなら大体想像つくだろ。……あいつ以外ならな」
ここには居ない慈門君のことを思い浮かべる。
小緑君の中の慈門君はきっと子供の頃のままなのだろう。小緑君はどこまで知っているのだろうか、慈門君のこと。
気になったが、ここには人の目がある。行き交う人間の目がこちらをちらりと見る。なんか、目立ってる気がする。
それに気付いたらしい。小緑君は「暇人が」と舌打ちをする。それからこちらへと視線を流した。
「今日の放課後、暇か?」
「空いてるけど……」
「そうか。ならまた連絡する」
なんの、と聞き返す前に「お前も、ここじゃ落ち着かないだろ」と小緑君は続ける。
小緑君も話したいと思ってくれているのが嬉しい反面、恐怖心もあった。
小緑君相手にどこまで隠し通せるのか今の僕には自信がない。
けれど断るのも不自然な気がして、僕は分かったよ、とだけ頷いた。
暫くしたら純白君が戻ってきた。
というより、離れたところからこちらを見ていたらしい。
「なんの話してたんですか?」と言いながら僕の隣に座る純白君は何故だかニヤニヤしてる。
「随分と長い便所だったな」
「それ、セクハラですよ。甘南先輩」
「せ……」
「それより、甘南先輩。折先輩のこと虐めてませんでした? 折先輩、さっきよりもしょげてませんか?」
「そ、そんなことはないよ」
「そうだ、藤。こいつは元からこの面なだけだ」
否定はできないけど口が悪すぎるよ、小緑君。
けど純白君が戻ってきてくれたお陰で少し重たくなっていた空気も僅かながら軽くなった気がした。
清涼剤みたいな子だと思った。
それから他愛のない話をし、僕は自分への教室まで戻ることになる。
途中で純白君と別れ、そのまま小緑君と一緒に二年生の教室前までやってきた。
「また夜な」
「……うん。今日はありがとう、誘ってくれて」
小緑君は何も答えず、代わりにひら、と控えめに手を振ってそのまま歩き出した。
小緑君が手を振るなんて。これも純白君の影響なのだろうか。
感動するのも束の間、僕は今夜のことに頭を悩ませながら自分の教室へと戻ることにした。
教室の中には出て行った時と同じようにクラスメイトたちがそれぞれ好きに過ごしており、そのうちの数人は僕が戻ってくるなりこちらを見た。そして、どこか気まずそうな顔で「織和」と声をかけてくる。
なんとなくその表情から不穏なものを感じとったが、それに気づかないふりをしながら僕は「どうしたの?」とクラスメイトたちの元へ行く。
「どこ行ってたんだよ」
「どこって……ご飯だよ」
「さっきまで天翔がお前のこと待ってたんだぞ、ここで」
「……え?」
冷や汗が滲む。咄嗟に時計を見れば、もう昼休みが終わる時間だった。
「スマホ見てなかったのか?」
「見てなかった……あの、慈門君はなんて?」
「なんも。ずっと無言だったし、俺らもなんて言えばいいのかわかんねえから『すぐ戻ってくんじゃね』って感じでさー……」
「まじで気まずかったわ、あれ」
「……それは、ごめんね」
迂闊だった。他のクラスメイトたちにも変な気を遣わせてしまったことにも申し訳なくなったし、同時に慈門君のことを聞いて胸の奥が軋む。
何しにきたんだ、なんて理由は今更僕らの間には必要ない。慈門君、気にしていないといいけど。
そう思うが、スマホを確認するのが怖かった。
間も無くしてチャイムが鳴り響き、慌てて僕は席へと戻る。
……慈門君、怒ってるかな。
放課後、慈門君の教室に顔を出しに行った方が良さそうだ。
慈門君が反省したとしても、不安定であることには代わりない。
僕としたことが迂闊だった。せめてクラスメイトに一言伝えておくべきだったのだろうか。
そんなことをぐるぐると考えているうちに常楽先生がやってきた。
「お前ら席につけ」といういつもと変わらない声に現実へと引き戻される。……今は授業に集中しなければ。
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