恣意的なぼくら。

田原摩耶

文字の大きさ
39 / 152
2.シャーデンフロイデ

03

 まだ純白君が戻ってきてないことを祈りながら僕は目を瞑った。
 小緑君は何も言わない。なんだこいつと思われたのかもしれない。
 けれど、口から出た言葉を撤回することができなかった。嘘だと、冗談だと、変な意味ではないと誤魔化すことも。
 小緑君はこちらを見て、それから「なんでお前がそんな顔をする」と片眉を持ち上げる。

「僕……どんな顔してる?」
「今にも死にそうな面だ」
「それは……」

 ちょっと笑えないかもしれない。
 小緑君には敵わないな、と曖昧に笑い返し、目を伏せる。

「別れてないよ」
「……」
「別れようって思ったけど……できなかった。僕には、慈門君を一人にすることはできない」
「どうせ天翔のやつが駄々こねたんだろ。別れたくないって」
「……流石、小緑君だね」
「あいつのこと知ってるやつなら大体想像つくだろ。……あいつ以外ならな」

 ここには居ない慈門君のことを思い浮かべる。
 小緑君の中の慈門君はきっと子供の頃のままなのだろう。小緑君はどこまで知っているのだろうか、慈門君のこと。
 気になったが、ここには人の目がある。行き交う人間の目がこちらをちらりと見る。なんか、目立ってる気がする。
 それに気付いたらしい。小緑君は「暇人が」と舌打ちをする。それからこちらへと視線を流した。

「今日の放課後、暇か?」
「空いてるけど……」
「そうか。ならまた連絡する」

 なんの、と聞き返す前に「お前も、ここじゃ落ち着かないだろ」と小緑君は続ける。
 小緑君も話したいと思ってくれているのが嬉しい反面、恐怖心もあった。
 小緑君相手にどこまで隠し通せるのか今の僕には自信がない。
 けれど断るのも不自然な気がして、僕は分かったよ、とだけ頷いた。

 暫くしたら純白君が戻ってきた。
 というより、離れたところからこちらを見ていたらしい。

「なんの話してたんですか?」と言いながら僕の隣に座る純白君は何故だかニヤニヤしてる。

「随分と長い便所だったな」
「それ、セクハラですよ。甘南先輩」
「せ……」
「それより、甘南先輩。折先輩のこと虐めてませんでした? 折先輩、さっきよりもしょげてませんか?」
「そ、そんなことはないよ」
「そうだ、藤。こいつは元からこの面なだけだ」

 否定はできないけど口が悪すぎるよ、小緑君。
 けど純白君が戻ってきてくれたお陰で少し重たくなっていた空気も僅かながら軽くなった気がした。
 清涼剤みたいな子だと思った。

 それから他愛のない話をし、僕は自分への教室まで戻ることになる。
 途中で純白君と別れ、そのまま小緑君と一緒に二年生の教室前までやってきた。

「また夜な」
「……うん。今日はありがとう、誘ってくれて」

 小緑君は何も答えず、代わりにひら、と控えめに手を振ってそのまま歩き出した。
 小緑君が手を振るなんて。これも純白君の影響なのだろうか。
 感動するのも束の間、僕は今夜のことに頭を悩ませながら自分の教室へと戻ることにした。

 教室の中には出て行った時と同じようにクラスメイトたちがそれぞれ好きに過ごしており、そのうちの数人は僕が戻ってくるなりこちらを見た。そして、どこか気まずそうな顔で「織和」と声をかけてくる。
 なんとなくその表情から不穏なものを感じとったが、それに気づかないふりをしながら僕は「どうしたの?」とクラスメイトたちの元へ行く。

「どこ行ってたんだよ」
「どこって……ご飯だよ」
「さっきまで天翔がお前のこと待ってたんだぞ、ここで」
「……え?」

 冷や汗が滲む。咄嗟に時計を見れば、もう昼休みが終わる時間だった。

「スマホ見てなかったのか?」
「見てなかった……あの、慈門君はなんて?」
「なんも。ずっと無言だったし、俺らもなんて言えばいいのかわかんねえから『すぐ戻ってくんじゃね』って感じでさー……」
「まじで気まずかったわ、あれ」
「……それは、ごめんね」

 迂闊だった。他のクラスメイトたちにも変な気を遣わせてしまったことにも申し訳なくなったし、同時に慈門君のことを聞いて胸の奥が軋む。
 何しにきたんだ、なんて理由は今更僕らの間には必要ない。慈門君、気にしていないといいけど。
 そう思うが、スマホを確認するのが怖かった。
 間も無くしてチャイムが鳴り響き、慌てて僕は席へと戻る。

 ……慈門君、怒ってるかな。
 放課後、慈門君の教室に顔を出しに行った方が良さそうだ。

 慈門君が反省したとしても、不安定であることには代わりない。
 僕としたことが迂闊だった。せめてクラスメイトに一言伝えておくべきだったのだろうか。
 そんなことをぐるぐると考えているうちに常楽先生がやってきた。
「お前ら席につけ」といういつもと変わらない声に現実へと引き戻される。……今は授業に集中しなければ。
 そう思えば思うほど、慈門君へどう対応すべきかが頭を占めてまともに授業に身が入らなかった。


感想 47

あなたにおすすめの小説

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

【完結】もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない

バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《根暗の根本君》である地味男である<根本 源(ねもと げん)>には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染<空野 翔(そらの かける)>がいる。 ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない?? イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった。しかしハルの血が特殊だと知ったダンピールはハルを連れ帰って? いっそ美味しい『血』(治癒)と『体液』(バフ)と『癒し』を与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....