馬鹿ばっか

田原摩耶

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馬鹿ばっか

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「要するに、全員納得できる大団円が理想ですよね」

 岡部が恐る恐る手を上げる。
 大団円――いい響きではあるが、夢のまた夢のような話だ。まさかとは思うが、岡部が言う大団円とはお手々繋いで仲良しこよしという意味ではないだろうな。

「まあ、それができれば苦労はしないがな」
「それで、尾張君の話なら会長と書記は尾張君の味方らしいですけど……今回のこともお二人は賛成したんですかね?」
「してねえだろ。あいつがいきなり言い出したことだったから、後から聞かされて寝耳に水だったろうってのは間違いねえけど」

 もしあの場にあいつらがいたとして、反対したところでどの道強行突破した雰囲気もあるが。
 なるほど、と頷く岡部の横、胡座掻いて頬杖をついていた馬喰は「なら、こっちも後からルール付け足したって文句言われねえよな」と投げやりに口を挟んできた。

「あのな、無茶なことを……」
「なるほど、一理あるな。ルールの抜け穴を見つけるのは賢いやり方だ」

 馬喰に賛同する野辺。
 いやアンタは賛同しちゃ駄目だろ。

「そうか……生徒会の人たちは協調性はないけどルールだけは守るってことになってるんですよね」
「ま、まあ……そうらしいな」
「ならそのルールを利用したらいいんですよ。その新ルールだと……捕まった人にその、尾張君を一日好きにさせる……でしたっけ?」

「改めて口にするとすごいルールですね」と、岡部。言わないでくれ。
 余計居た堪れなくなりつつ、「そうらしいな」とだけ返しておく。何故か他人事のようになってしまった。

「こいつを一日好きに、か。それになんの意味があるんだ? 見回りでもさせるつもりか?」
「洗脳だとか脅迫だとか、あんだろ。風紀、テメェには日常茶飯事だろうがな!」
「ああ……そんなことか。くだらん。一日二日と言わず毎日継続させるくらいの根気を見せてみろ男なら!」

 踏ん反り返る野辺にもうその場にいた全員が慣れつつあった。なんでだよ。
 いや、寧ろ俺もこの男くらい図太ければまだ違ったのだろうか。風紀の場合はこいつ一人の独壇場なわけだから余計質悪い。
 生徒会は全員が謂わば敵だ。だからこそ今回のルールが成り立つわけだ。

「……なるほど!」
「うお、どうした岡部。……なんか思いついたのか?」
「はい! とは言ってもその、あくまで一つの提案なんですけども……」

 岡部の提案、たまにこえーんだよな。
 けど、完全に第三者である岡部の立ち位置だからこそ見えてくるものもあるはずだ。
「聞かせてくれ」と俺は座り直す。岡部は気を取り直し、こほんと咳払いをした。

「だったら……「馬鹿猿クソ筋肉馬鹿男政岡と五十嵐彩乃、二人をとっ捕まえればいい」……ってなんで風紀委員長が……?!」
「貴様が勿体振るから代わりに言ってやったんだ、委員長様ありがとうございますだろうが!」

「え、ええ……?!」と理不尽さに震える岡部。
 というかもしかして岡部も野辺と同じことを考えていたということか。
 岡部の肩を叩いて慰めつつ、俺は野辺に目を向ける。

「なんでそうなるんだ?」
「どの道勝者は一人だ。それならばこの時間だけは二人を利用して互いに監視させる。そうすりゃ好き勝手できないだろ」
「……正気かよ」

 好意的で俺に忠実であるはずの政岡。
 ゲームを終わらせたい五十嵐。
 確かに二人は目指す目的は同じだが考え方そのものは大きく違う。その二人を敢えて両取りするということか。

「一つ聞くが尾張元、お前は我慢は強いか?」
「……それを俺に聞くのか?」

 野辺はにやりと笑う。
 それはもうゾッとするほどのいい笑顔で。

「手を出したところでお前からの好意と信頼を失い片方に分配が上がる。それなら馬鹿な真似はしないってからくりだ。
 ――無論、これは本物の馬鹿なら通用しないがな!」

 単純明快で分かり易い。
 うんうんと頷く岡部の横、腑に落ちない様子の馬喰が「待てよ」と口を挟んできた。

「最悪、その二人がグルになる可能性はねえのかよ」
「その時はそいつら二人が目の前の欲に流されるような本物の馬鹿だったって話だ。そしてこの男は好き勝手されるだけだな」
「な……」
「……と言いたいところだが、安心しろ。貴様が俺に頼ったからには代わりにこの竹刀で指導しといてやる! 子々孫々俺に感謝しろ! 崇め奉っていいぞ!」
「それは……心強くて何よりだ」

 ほんの一瞬でも頼りになるな、と思ってしまう自分になんだか呆れて笑いが出た。
 本当に敵に回したくねえやつだな。
「これ、僕が先に思いついたんですよ!」とこそこそ隣にやってきてと小声でアピールしてくる岡部にも「ありがとな」と頭を撫でておく。
 多少俺の扱いが雑な気がしてならないが、風紀委員長様のお墨付きなら一先ず安心……か?
 まだ地盤が不安定なことには違いないが、なんだろうか。これが支えられてるってことか?なんて思いかけて、やめた。俺らしくねえ。
 けど、このむず痒さは嫌な感じがしなかった。

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