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少年Aの過ち
02
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「来斗、おかえり。……遅かったな」
家に帰ると、既に着替えていたコウメイが出迎えてくれた。
あれ、委員会で遅くなるんじゃなかったのか。
思いながらも、コウメイから視線を逸らした俺は「ああ」とだけ呟き、そのままコウメイの前から立ち去ろうとした。だけど、
「……?おい、どうした?」
「どうしたって……なにが?」
「目が赤い。……腫れてる」
心配そうな色を滲ませ、こちらを覗き込んでくるコウメイ。
優しく目元を撫でられた瞬間、休み時間、窓の外で見たキスシーンを思い出し、顔が熱くなった。
「……ッ」
「来斗?」
瞬間、今まで堪えていたものが一気に溢れ出す。
ぼろぼろと流れる涙。いきなり泣き出す俺に、今度こそコウメイは狼狽える。
この手であの女に触れ、この唇であの女にキスをした。
そう思えば思うほど、何事もなかったかのように接してくるコウメイの全てが信じられなくて……ショックで。
「お、おい……どうした……?」
「き、キス……今日、学校で……」
「は?」
「ッ、なんで、キスしたんだよ!あんな女と!」
一度決壊したダムは、ちょっとやそっとのことじゃ塞き止めることは出来なくて。溢れ出したおどろおどろしい嫌な感情はあっという間に全身に流れる。
声を上げる俺に、コウメイは驚いたように目を丸くした。
「来斗……お前、見てたのか……?」
「見られたら困るのかよ、俺に……っ」
「……」
「なんか言えよッ!コウメイ!」
胸倉を掴み、声を張り上げる。
自分がこんな声を出せるのかと思うくらい、声を張り上げる俺にコウメイは僅かに顔を歪めた。
「……お前だって……ッ」
それも一瞬。胸倉を掴む俺の手を引き剥がしたコウメイは、いつもと変わらない、無表情に戻っていた。
「……別に深い意味はない。キスしろとしつこかったからしただけだ」
乱れた首元を直し、コウメイは続けた。
吐出されたその言葉に、頭をぶん殴られたようなショックを受ける。
「意味は……ない……?」
俺がこんなにも、こんなにもコウメイのことばかり考えてコウメイの貞操を守るために、良からぬ虫がつかないように必死になって考えているのに。
全て、コウメイとってはどうでもいいことだと言うのか。
話すのも告白されるのもキスするのも付きまとわれるのも噂されるのもコウメイにとっては意味がなく、そんなどうでもいいことで俺は馬鹿みたいにムキになって嫉妬して腸煮え繰り返していたというのか。
突き放すようなその言葉に、足元からガラガラと崩れ落ちていく。
自分自身を全否定されたような、そんな感覚だった。いや、実際に全否定されたのだ。そう理解した瞬間、いても立ってもいられなくなって。
「……ッ」
「っ、おい……っ?!」
気が付いたら、走り出していた。
自分が一人で舞い上がるような惨めで恥ずかしくて愚かで馬鹿な生き物に見えて、言われたような気がして、コウメイの前に立っていることが恥ずかしくて恥ずかしくて舌を噛み切って死にたくなるほど居た堪れなくて。
「来斗!」
背後から聞こえてくるコウメイの呼ぶ声を必死に振り払い、俺はひたすら走る。
夜の街。時折縺れながらも足はしっかりと目的地の方へとしっかり向いていた。
都内、某所。
人通りの多い場所から少し外れた寂れた住宅街に、リツの部屋はあった。
築ウン十年の煤汚れたアパート。初めて来たときは自分の家と比べてその狭さに驚いたのも酷く昔のことのように思える。
リツの部屋の扉の前。インターホンを押せば、暫くして扉が開いた。
「リツ……」
「来斗?どうし……って、えっ?」
驚いたような顔。無理もない。涙も拭わずに飛び出してやってきた俺の顔は大層酷いことになってるはずだ。
狼狽えていたリツだったが、すぐに表情を引き締めた。
「……どうしたの?」
表情を険しくするリツは宥めるように俺の前髪に触れた。
ガラス細工にでも触れるかのようなその優しい手つきに、また、乾いた涙腺に涙が滲みそうになり、それを飲み込んだ。
そのまま、俺はリツを押すようにして玄関へと入り込む。そして、リツの腕を掴んだ。
「……なあ、ヤろうぜ」
「え?」
「お前の好きな体位でいいから、めちゃくちゃにしてくれよ……なぁ……っ」
誰かに、受け入れてもらいたかった。
自分は間違えていないのだと、抱きしめてもらいたかった。そうでもしなければ、きっと、俺は。
「……来斗君……?」
驚いて真っ赤になるリツ。だけど、リツは俺から逃げようとしなかった。
そうだ。いつだって、リツは俺を受け入れてくれた。
「来斗は正しい」そう言って俺を支えてくれていた。
今はただリツの優しさに甘えたかった。俺を受け入れてくれるなら、誰でもよかった。
「っリツ……っ、んん」
震える唇を押し付け、ぶつかるようなキスをした。自分から舌を出し、強請るようにその首に腕を回せばリツの鼓動が流れ込んでくる。
「……ッ、ふ、ぅ」
舌を絡め、応えてくれるリツがただ嬉しくて。暖かくて。愛しくて。
嫌なことを忘れたいがため、一心不乱に俺はリツにしがみついた。
「本当に……いいの?」
「良いっていってんだろ……そんなに嫌なのかよ」
「いや、全然大歓迎だよ!……だけど、ほら、来斗、泣いてるじゃん……」
やっぱり、リツは優しい。
勃起してるくせに、それでも我慢して俺を気遣ってくれるリツに胸が満たされる。
そんなリツの優しさを利用している自分に腹が立ったけど、俺は自分を落ち着かせるため方法をこれ以外術を知らない。
躊躇うリツに、「いいから」とその手を握り締めた俺は、そのまま自分の胸に押し付けた。
コウメイとは違う、骨っぽい手。俺を受け入れてくれる、手。
「……早く、リツでいっぱいにして」
家に帰ると、既に着替えていたコウメイが出迎えてくれた。
あれ、委員会で遅くなるんじゃなかったのか。
思いながらも、コウメイから視線を逸らした俺は「ああ」とだけ呟き、そのままコウメイの前から立ち去ろうとした。だけど、
「……?おい、どうした?」
「どうしたって……なにが?」
「目が赤い。……腫れてる」
心配そうな色を滲ませ、こちらを覗き込んでくるコウメイ。
優しく目元を撫でられた瞬間、休み時間、窓の外で見たキスシーンを思い出し、顔が熱くなった。
「……ッ」
「来斗?」
瞬間、今まで堪えていたものが一気に溢れ出す。
ぼろぼろと流れる涙。いきなり泣き出す俺に、今度こそコウメイは狼狽える。
この手であの女に触れ、この唇であの女にキスをした。
そう思えば思うほど、何事もなかったかのように接してくるコウメイの全てが信じられなくて……ショックで。
「お、おい……どうした……?」
「き、キス……今日、学校で……」
「は?」
「ッ、なんで、キスしたんだよ!あんな女と!」
一度決壊したダムは、ちょっとやそっとのことじゃ塞き止めることは出来なくて。溢れ出したおどろおどろしい嫌な感情はあっという間に全身に流れる。
声を上げる俺に、コウメイは驚いたように目を丸くした。
「来斗……お前、見てたのか……?」
「見られたら困るのかよ、俺に……っ」
「……」
「なんか言えよッ!コウメイ!」
胸倉を掴み、声を張り上げる。
自分がこんな声を出せるのかと思うくらい、声を張り上げる俺にコウメイは僅かに顔を歪めた。
「……お前だって……ッ」
それも一瞬。胸倉を掴む俺の手を引き剥がしたコウメイは、いつもと変わらない、無表情に戻っていた。
「……別に深い意味はない。キスしろとしつこかったからしただけだ」
乱れた首元を直し、コウメイは続けた。
吐出されたその言葉に、頭をぶん殴られたようなショックを受ける。
「意味は……ない……?」
俺がこんなにも、こんなにもコウメイのことばかり考えてコウメイの貞操を守るために、良からぬ虫がつかないように必死になって考えているのに。
全て、コウメイとってはどうでもいいことだと言うのか。
話すのも告白されるのもキスするのも付きまとわれるのも噂されるのもコウメイにとっては意味がなく、そんなどうでもいいことで俺は馬鹿みたいにムキになって嫉妬して腸煮え繰り返していたというのか。
突き放すようなその言葉に、足元からガラガラと崩れ落ちていく。
自分自身を全否定されたような、そんな感覚だった。いや、実際に全否定されたのだ。そう理解した瞬間、いても立ってもいられなくなって。
「……ッ」
「っ、おい……っ?!」
気が付いたら、走り出していた。
自分が一人で舞い上がるような惨めで恥ずかしくて愚かで馬鹿な生き物に見えて、言われたような気がして、コウメイの前に立っていることが恥ずかしくて恥ずかしくて舌を噛み切って死にたくなるほど居た堪れなくて。
「来斗!」
背後から聞こえてくるコウメイの呼ぶ声を必死に振り払い、俺はひたすら走る。
夜の街。時折縺れながらも足はしっかりと目的地の方へとしっかり向いていた。
都内、某所。
人通りの多い場所から少し外れた寂れた住宅街に、リツの部屋はあった。
築ウン十年の煤汚れたアパート。初めて来たときは自分の家と比べてその狭さに驚いたのも酷く昔のことのように思える。
リツの部屋の扉の前。インターホンを押せば、暫くして扉が開いた。
「リツ……」
「来斗?どうし……って、えっ?」
驚いたような顔。無理もない。涙も拭わずに飛び出してやってきた俺の顔は大層酷いことになってるはずだ。
狼狽えていたリツだったが、すぐに表情を引き締めた。
「……どうしたの?」
表情を険しくするリツは宥めるように俺の前髪に触れた。
ガラス細工にでも触れるかのようなその優しい手つきに、また、乾いた涙腺に涙が滲みそうになり、それを飲み込んだ。
そのまま、俺はリツを押すようにして玄関へと入り込む。そして、リツの腕を掴んだ。
「……なあ、ヤろうぜ」
「え?」
「お前の好きな体位でいいから、めちゃくちゃにしてくれよ……なぁ……っ」
誰かに、受け入れてもらいたかった。
自分は間違えていないのだと、抱きしめてもらいたかった。そうでもしなければ、きっと、俺は。
「……来斗君……?」
驚いて真っ赤になるリツ。だけど、リツは俺から逃げようとしなかった。
そうだ。いつだって、リツは俺を受け入れてくれた。
「来斗は正しい」そう言って俺を支えてくれていた。
今はただリツの優しさに甘えたかった。俺を受け入れてくれるなら、誰でもよかった。
「っリツ……っ、んん」
震える唇を押し付け、ぶつかるようなキスをした。自分から舌を出し、強請るようにその首に腕を回せばリツの鼓動が流れ込んでくる。
「……ッ、ふ、ぅ」
舌を絡め、応えてくれるリツがただ嬉しくて。暖かくて。愛しくて。
嫌なことを忘れたいがため、一心不乱に俺はリツにしがみついた。
「本当に……いいの?」
「良いっていってんだろ……そんなに嫌なのかよ」
「いや、全然大歓迎だよ!……だけど、ほら、来斗、泣いてるじゃん……」
やっぱり、リツは優しい。
勃起してるくせに、それでも我慢して俺を気遣ってくれるリツに胸が満たされる。
そんなリツの優しさを利用している自分に腹が立ったけど、俺は自分を落ち着かせるため方法をこれ以外術を知らない。
躊躇うリツに、「いいから」とその手を握り締めた俺は、そのまま自分の胸に押し付けた。
コウメイとは違う、骨っぽい手。俺を受け入れてくれる、手。
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