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少年Aの過ち
03※
しおりを挟む「来斗……ッ」
「っん、ぁ、あぁ……ッ」
「……来斗、来斗……っ可愛いよ、来斗……ッ」
回された腕で体を抱き締められる。 息苦しさが、心地良かった。
うっとりと目を細め、リツに体を貪られる度にこんな自分でも誰かに必要とされているのだと実感でき、
満たされた。それなのに、
「っふ、ぅ、あ……ッ」
油断すると、コウメイの顔が浮かぶ。抱きしめてくるこの手がコウメイだったら。首筋に吸い付くこの唇がコウメイだったら。どれほど良かったのだろうか。
リツのことは好きだ。だけど、それ以上に、俺は。
「ッ、ぅ、く……ッんん……っ」
いけない、と思考を振り払う。
二人を比べてはいけない。そう思うのに、覆い被さってくるリツに、無意識にコウメイを重ねている自分がいて。
考えないようにすればするほど溢れ出すコウメイへの気持ちに、涙が溢れた。
「……来斗……っ」
「ひ、ぅぐ……ッ」
困惑したリツの顔が視界に入る。困らせてる。ダメだ、泣くなよ俺、リツが困ってるじゃないか。
そう思うのに、満たされた心はすぐに大きな穴を開け、余計虚しくなってくるばかりで。
「来斗……」
ぎゅう、と上半身を抱き締められる。
隙間無く、くっついてしまいそうなくらい、強く。
流れ込んでくる体温に、次第に波立っていた心は落ち着いていく。
「……こ……めい……ッ」
熱に浮かされ、ふわふわとどこか夢現の中。
無意識に口にしたその言葉にハッとしたときだった。
抱き締めていた手が離れ、代わりに、強い力で突き飛ばされる。
「ぁ……ッ!」
その場に尻持ちついた俺は、腰への痛みとともに現実へ引き戻される。
そして、自分のしてしまったことに、青ざめた。
「……今、誰と間違えた……?」
聞こえてきた、聞いたこともないような低いその声に、驚いて顔を上げる。
ゆっくりと立ち上がるリツ。先程まで浮かべていた柔らかい笑顔も照れもない、薄暗い無表情に全身が凍り付いた。
「リツ……?」
「今、誰と間違えたって言ってんだよッ!!」
一瞬、何が起きたのか理解できなかった。
突き飛ばされたことは勿論、リツの怒鳴り声なんて聞いたこともなくて。
先程までの笑顔は消え失せ、豹変したように声を荒らげるリツに、全身が硬直する。
「あ、わり……」
「僕と一緒にいるのに、あいつのこと考えてたんだろッ!なあ?!」
ただでさえ人から怒鳴られたことのない俺は怒るリツに戸惑わずにはいられない。
確かに、悪かったかもしれない。だけど、だからって。
「だから、間違えただけだって……なんでそんなに怒るんだよ……」
心臓がバクバク高鳴る。恐怖と緊張で、体が震え始めた。
とにかく、いつも通りのリツに戻ってもらいたくて、出来る限りの笑顔で尋ねた時。リツの目の色が変わった。
「なんでェ……?」
「ッ」
「なんでって、なんで、なんで?なんでそんなこと聞くわけ?ねえ……可笑しいよね、僕がこんなに、こんなに来斗のこと好きだって知ってるくせに、なんでだって……?」
ゆっくりと歩み寄ってくるリツに、無意識に後ずさった。リツの様子がおかしい。それは一目瞭然で。
引き攣ったような笑み。怒りを、いや、それ以上のなにかを滲ませたリツの目に睨まれれば、全身が竦んた。
「……り、リツ……」
「ふざけるなよ……」
机の上、置かれていた灰皿を手にとったリツはゆらりと体を起こし、尻餅をついた俺を見下ろした。その目には、僅かに涙が滲んでいて。
「あんな奴と僕を一緒にするなんて、酷いよ。酷いよ、来斗……ッ!!」
「ひッ」
瞬間、思いっきり叩き付けられた灰皿は間一髪俺の体を逸れ、壁にぶつかる。凄まじい音とともに分厚いガラスの破片が四散する。
このままじゃ、まずい。
初めて目の当たりにした他人の怒りは俺にとって恐怖以外の何物でもなくて。
逃げなければ。咄嗟にそう判断し、俺はリツのアパートから逃げ出した。
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