ヒーロー志望でしたが、手違いで三食宿付きヴィラン派遣会社に永久就職(?)することになりました。

田原摩耶

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CASE.10『ヘッドハントヒーロー』

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「まあ、堅苦しいのはこれくらいでいいだろ」

 もう飽きたと言うかのように真赤はボードをその辺に置こうとして、咄嗟に四葉がそれを受け取る。
 あまりにもあっさりと終わるヒアリングに驚いて、思わず真赤を見上げた。

「あの、もういいんですか?」
「ああ、俺からはって意味な。良平が話したいことがあるんならいつでも受け付けてるぞ、四葉の愚痴でも」
「……真赤君、あのね」
「冗談だろ、冗談。なに焦ってんだよ、もしかしてやらかしたか? お前」
「人聞きが悪いことを言わないでもらえるかな?」
「あ……お、お二人とも……喧嘩は……」

「「喧嘩じゃねえ(じゃない)よ」」

「す、すみません……」

 これがヒーローたちの空気感というやつなのか。
 所属グループによってそれぞれ空気感というものはあるとは分かっているが、なんとも傍から見るとハラハラする距離感ではある。

 それにしても、真赤さんはさっぱりしている人のようだ。――万年青さん以外に対しては。

「どうした? 良平」
「いえ……その、すみません。なんのお役にも立てなくて」
「え? 何言ってんの、善家さん。そんなこと謝る必要はないよ」

 驚いたような四葉に慌ててフォローされる。
 その優しさが申し訳ない。このヒアリングだって、ヴィラン側の情報を少しでも集めるためのものだと思えばきっと俺はこの先もこの人たちの力になれることはないだろう。

 項垂れる俺に真赤は無言でじっとこちらを見る。
 穴が開きそうなほど、じっと。

 そして、影が重なる。唇にちゅっと音を立てて響くリップ音に俺も四葉も反応に遅れてしまった。

「っ?! ま、真赤さん……?!」
「ちょ、ちょっと何して……っ!」
「え? 慰めて欲しいのかと思って」
「あーーもう終わり、終了。ごめんね、善家さん。こいつには僕の方から言っておくから」

 キスをされた、と気付くよりも先に四葉はものすごい速さで真赤の首根っこを掴み、そのままずるずると真赤を引きずりながら退室した。
 あまりにも唐突な出来事にまだ頭の中は処理できていない。

 慰めてくれた、ということなのか。
 それにしても真赤さん、唇も熱かったな。

 ぼんやりと考えて、後になって頬が熱くなる。
 ある種慰めるという意味では効果覿面だったのだろう。余計なことを考える暇もなかったが、その代わり俺は暫く唇に残った感触に囚われることとなった。


 ◆ ◆ ◆


 ――養成区・ヒーロー寮内。通路。

「真赤君、君ね」
「なーに怒ってんだよ。もしかしてお前も狙ってたのか?」
「違うよ。そもそも君、あの人がビクテムだということを忘れてない? 君の行為は立派な加害で――」
「四葉、お前はそれだから駄目なんだよ。脳味噌適度に解してやんねえと」

 そう自分の頭をトントンと叩く真赤君。
 まるで人を頭でっかちだとでも言うかのような仕草だ。
 その自覚はあった。痛いほど。だからもう下手に気を張るのはやめようと何度も思ったが、あまりにも破天荒な人間を見ると憤りと呆れを覚えてしまう。
 例えば、目の前の赤い青年のように。

「良平のことまだ普通のビクテムって思ってんのかよ、四葉。分かってるんだろ? 普通のビクテムなら解放区行きだって」
「……だからって、好きにしていいと会長に言われたわけじゃない。さっき善家さんに見せたデータベースだって、やすやすと部外者に見せていいものじゃ――」
「当たり前だろ。全部フェイクに決まってんだろ? 見せれるかよ、本物のデータベースの中身なんてもの」

 俺も捕まるわ、とあくまで悪びれた様子もない真赤君に今度こそ言葉を失う。
 とにかく重大な規約違反を免たことに一先ずほっとするが、だとすれば別の疑問も沸いてきた。

「……なんでそんなことを?」
「もしこれで持ち帰ってもねぇ適当な触手挙げてんのに話合わせてきたらクロだろ?」
「まさか、君は善家さんを疑ってるの?」
「確認してんだよ。念の為な。ま、その辺は真咲のやつの仕事だろうけど。お前は出来ねえだろうからな、四葉」

「だから手伝ってやったんだよ」と真赤君はいけしゃあしゃあと答える。
 その言葉にチクリと心臓が痛んだ。

 その通りだ。自分は人に尋問するような仕事は向いていない。人を責めるのも、得意ではない。
 親しくしなければならない相手、機嫌を取らなければならない相手となると尚更だ。

 普段何も考えてなさそうな真赤君に自分の腹の底まで見透かされるのは居心地は悪かった。
 それと同時に、この男があの紅音朱音の後任として選ばれた男だということを思い出す。
 素行の悪さが目立つが、レッド・イルを完璧にこなしてきたヒーローでもあることに違いがない。
 そして、――大帝誓のお気に入り。

「君ってやつは、本当に……」
「あーあ、でも残念だわ。クロだったら俺、尋問やってみたかったんだけどな」

 善家良平に心を開き、懐いていたくせに。
 口説く時と変わらぬ調子で続ける真赤君にただ悍ましさすら覚えた。

 無邪気に笑うあの人を取調室へと送ることになるのは考えたくない。その思考は既に絆されかけているという証明にもなる。

「……あの人のことは、僕が見るから」

 脳裏に浮かぶ嫌な未来を振り払うように真赤君へと向き直れば、歩き出そうとしていた真赤君はこちらを振り返る。

「ま、頑張れ。手助けが必要なら呼べよ?」

 そう他人事のように手を振り、真赤幸七は通路の奥を進んでいく。
 ――大帝誓が突如連れてきた経歴不明・得体の知れないレッド。
 情熱の赤と呼ぶにはあまりにも狡猾で不誠実な燻んだ赤ではあるが、月間ヴィラン討伐数や敵戦地特定数、他民間人の救出数は新人の中どころかこの協会所属ヒーローたちの中でも群を抜いている。
 その真赤君がやたら善家さんに目をつけている理由がただの下半身由来のものだけではないとしたら。

「……恐れ入るよ、全く」

 どこまでが本当の君なんだ、真赤君。

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