161 / 210
CASE.10『ヘッドハントヒーロー』
24
「まあ、堅苦しいのはこれくらいでいいだろ」
もう飽きたと言うかのように真赤はボードをその辺に置こうとして、咄嗟に四葉がそれを受け取る。
あまりにもあっさりと終わるヒアリングに驚いて、思わず真赤を見上げた。
「あの、もういいんですか?」
「ああ、俺からはって意味な。良平が話したいことがあるんならいつでも受け付けてるぞ、四葉の愚痴でも」
「……真赤君、あのね」
「冗談だろ、冗談。なに焦ってんだよ、もしかしてやらかしたか? お前」
「人聞きが悪いことを言わないでもらえるかな?」
「あ……お、お二人とも……喧嘩は……」
「「喧嘩じゃねえ(じゃない)よ」」
「す、すみません……」
これがヒーローたちの空気感というやつなのか。
所属グループによってそれぞれ空気感というものはあるとは分かっているが、なんとも傍から見るとハラハラする距離感ではある。
それにしても、真赤さんはさっぱりしている人のようだ。――万年青さん以外に対しては。
「どうした? 良平」
「いえ……その、すみません。なんのお役にも立てなくて」
「え? 何言ってんの、善家さん。そんなこと謝る必要はないよ」
驚いたような四葉に慌ててフォローされる。
その優しさが申し訳ない。このヒアリングだって、ヴィラン側の情報を少しでも集めるためのものだと思えばきっと俺はこの先もこの人たちの力になれることはないだろう。
項垂れる俺に真赤は無言でじっとこちらを見る。
穴が開きそうなほど、じっと。
そして、影が重なる。唇にちゅっと音を立てて響くリップ音に俺も四葉も反応に遅れてしまった。
「っ?! ま、真赤さん……?!」
「ちょ、ちょっと何して……っ!」
「え? 慰めて欲しいのかと思って」
「あーーもう終わり、終了。ごめんね、善家さん。こいつには僕の方から言っておくから」
キスをされた、と気付くよりも先に四葉はものすごい速さで真赤の首根っこを掴み、そのままずるずると真赤を引きずりながら退室した。
あまりにも唐突な出来事にまだ頭の中は処理できていない。
慰めてくれた、ということなのか。
それにしても真赤さん、唇も熱かったな。
ぼんやりと考えて、後になって頬が熱くなる。
ある種慰めるという意味では効果覿面だったのだろう。余計なことを考える暇もなかったが、その代わり俺は暫く唇に残った感触に囚われることとなった。
◆ ◆ ◆
――養成区・ヒーロー寮内。通路。
「真赤君、君ね」
「なーに怒ってんだよ。もしかしてお前も狙ってたのか?」
「違うよ。そもそも君、あの人がビクテムだということを忘れてない? 君の行為は立派な加害で――」
「四葉、お前はそれだから駄目なんだよ。脳味噌適度に解してやんねえと」
そう自分の頭をトントンと叩く真赤君。
まるで人を頭でっかちだとでも言うかのような仕草だ。
その自覚はあった。痛いほど。だからもう下手に気を張るのはやめようと何度も思ったが、あまりにも破天荒な人間を見ると憤りと呆れを覚えてしまう。
例えば、目の前の赤い青年のように。
「良平のことまだ普通のビクテムって思ってんのかよ、四葉。分かってるんだろ? 普通のビクテムなら解放区行きだって」
「……だからって、好きにしていいと会長に言われたわけじゃない。さっき善家さんに見せたデータベースだって、やすやすと部外者に見せていいものじゃ――」
「当たり前だろ。全部フェイクに決まってんだろ? 見せれるかよ、本物のデータベースの中身なんてもの」
俺も捕まるわ、とあくまで悪びれた様子もない真赤君に今度こそ言葉を失う。
とにかく重大な規約違反を免たことに一先ずほっとするが、だとすれば別の疑問も沸いてきた。
「……なんでそんなことを?」
「もしこれで持ち帰ってもねぇ適当な触手挙げてんのに話合わせてきたらクロだろ?」
「まさか、君は善家さんを疑ってるの?」
「確認してんだよ。念の為な。ま、その辺は真咲のやつの仕事だろうけど。お前は出来ねえだろうからな、四葉」
「だから手伝ってやったんだよ」と真赤君はいけしゃあしゃあと答える。
その言葉にチクリと心臓が痛んだ。
その通りだ。自分は人に尋問するような仕事は向いていない。人を責めるのも、得意ではない。
親しくしなければならない相手、機嫌を取らなければならない相手となると尚更だ。
普段何も考えてなさそうな真赤君に自分の腹の底まで見透かされるのは居心地は悪かった。
それと同時に、この男があの紅音朱音の後任として選ばれた男だということを思い出す。
素行の悪さが目立つが、レッド・イルを完璧にこなしてきたヒーローでもあることに違いがない。
そして、――大帝誓のお気に入り。
「君ってやつは、本当に……」
「あーあ、でも残念だわ。クロだったら俺、尋問やってみたかったんだけどな」
善家良平に心を開き、懐いていたくせに。
口説く時と変わらぬ調子で続ける真赤君にただ悍ましさすら覚えた。
無邪気に笑うあの人を取調室へと送ることになるのは考えたくない。その思考は既に絆されかけているという証明にもなる。
「……あの人のことは、僕が見るから」
脳裏に浮かぶ嫌な未来を振り払うように真赤君へと向き直れば、歩き出そうとしていた真赤君はこちらを振り返る。
「ま、頑張れ。手助けが必要なら呼べよ?」
そう他人事のように手を振り、真赤幸七は通路の奥を進んでいく。
――大帝誓が突如連れてきた経歴不明・得体の知れないレッド。
情熱の赤と呼ぶにはあまりにも狡猾で不誠実な燻んだ赤ではあるが、月間ヴィラン討伐数や敵戦地特定数、他民間人の救出数は新人の中どころかこの協会所属ヒーローたちの中でも群を抜いている。
その真赤君がやたら善家さんに目をつけている理由がただの下半身由来のものだけではないとしたら。
「……恐れ入るよ、全く」
どこまでが本当の君なんだ、真赤君。
あなたにおすすめの小説
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き
toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった!
※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。
pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!
https://www.pixiv.net/artworks/100148872
弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~
マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。
王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。
というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。
この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。
穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜
春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、
癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!?
トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。
彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!?
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて――
運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない!
恋愛感情もまだわからない!
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。
個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!?
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする
愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ!
月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新)
基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!
脱落モブ男が人気アイドルに愛されるわけがない
綿毛ぽぽ
BL
アイドルを夢見るも、デビューできずオーディション番組に出演しても脱落ばかりの地味男、亀谷日翔はついに夢を諦めた。そしてひょんなことから事務所にあるカフェで働き始めると、かつて出演していた番組のデビューメンバーと再会する。テレビでも引っ張りだこで相変わらずビジュアルが強い二人は何故か俺に対して距離が近い。
━━━━━━━━━━━
現役人気アイドル×脱落モブ男
表紙はくま様からお借りしました
https://www.pixiv.net/artworks/84182395
ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!
由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。
しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。
そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。
「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」
やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった。しかしハルの血が特殊だと知ったダンピールはハルを連れ帰って?
いっそ美味しい『血』(治癒)と『体液』(バフ)と『癒し』を与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!
義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。
※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました!
えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。
※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです!
※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。
引きこもり魔法使いが魔法に失敗したら、ヤンデレ補佐官が釣れた。
零壱
BL
──魔法に失敗したら、脳内お花畑になりました。
問題や事件は何も起こらない。
だが、それがいい。
可愛いは正義、可愛いは癒し。
幼児化する主人公、振り回されるヤンデレ。
お師匠やお師匠の補佐官も巻き込み、時には罪のない?第三者も巻き込み、主人公の世界だけ薔薇色・平和が保たれる。
ラブコメです。
なんも考えず勢いで読んでください。
表題作、2話、3話、5話、6話再掲です。
(同人誌頒布中)
アルファ表紙絵は自力©️零壱