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CASE.10『ヘッドハントヒーロー』
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寮内には疎に人影はあった。
なるべく人目を避けつつ、寮内の様子を見て回る。
もしかしたらビクテムとして挨拶したヒーローもいるかもしれないので、なるべく見たことがある顔を見かけたら道を変える。
あくまでただの一般ヒーローのフリをして情報収集したい。幸い、まだ知人は少ない。
ふと声が聞こえ、足を止める。
そこはラウンジになっていた。恐る恐る中に入ればラウンジの奥、開けたスペースのボックスには少し柄の悪そうなヒーローたちが酒を開けて話していた。
「また襲撃かよ」
「いくら暇だからって瓦礫掃除まで俺らにやらせる必要あるか?」
「清掃班が足りてねえんだとよ、ほら、ここ最近職員が一気に減ったろ。今回の件で結果出せねえやつはそっちに回されるかもって噂も出てんだろ」
「肝心の掃討はお気に入りのワンちゃんたちが全部やってくれるからだろ。大帝の野郎、足元ばっか見やがって」
和気藹々とした雰囲気はない。声が大きいお陰で内容はよく聞こえてくる。
どうやら大帝会長に不満を抱いているヒーローたちらしい。安酒を煽り、その悪口大会もエスカレートしていく。
酒のつまみはレッド・イルたち筆頭に新進気鋭のヒーローたちに対する誹謗中傷だ。
あまり聞いてて気持ちいい内容ではないが、酒が回れば回るほど口は緩くなっていく。
聞いていると気になる話もあった。
――ヒーロー協会の職員が狙われてる?
そしてその中に元ヒーローも紛れて擬態している可能性もある。
もし職員襲撃の件にナハトさんたちが絡んでるとすれば、少し気になった。
「それに、ワンちゃんと言えば、あのボウズの方の赤いのは見えなくなったな」
「――ああ、紅音か?」
その名前が聞こえてきた瞬間、思わず立ち上がりそうになるのを耐えた。
声を顰めるヒーローたちの会話をもっと聞くべく、俺は更に身を屈めて近くのソファーの物陰へと移動する。
出来上がった集団はこちらに気づいた様子もない。もっとだ、もっと酒を飲んで出来上がって欲しい。酔い潰れない程度に、周りが見えなくなるくらいには。
「知らねえのかよ、あいつはもう駄目だってよ。――あれだよ、会長の悪癖だ」
「失敗したのか?」
「ここだけの話、最初から連れ戻したところで復帰させる気もなかったんだろ。じゃねえと、あの調子に乗ったガキに継がせねえだろ、あれほど金かけたスーツを」
「おまけにあっちに洗脳改造させられたんだろ? 寧ろまだ生かしてるのかよ、処分しろよな」
どういう、意味だ。
『駄目』『失敗』『処分』というワードに胸の奥がざわつく。
紅音君の状態も立場も芳しくないのは明白だった。
けれど、まだ足りない。もっと知らなければ。
「あれのために研究室一つ潰す価値ねえだろ、まだ生きてるらしいけどな」
「けど、残念だったな。今の赤ガキよりは俺はあいつの方が気に入ってたぜ」
「ここ最近は研究室もてんやわんやらしいしな。パンクしたら真っ先に切られんだろ、その時に拾ってやれよ。一応生きてるかもしんねーだろ」
「冗談じゃねえ。一度ヴィラン側についた連中が再起した試しがねえだろ、そんな危険物拾えるかよ」
「せめて洗脳技能とっておけばなあ」
「最悪だ、テメェは。ヴィランのが適職だろ」
何が面白いのか、ギャハハと笑うヒーローたちの声を聞いて俺はこれ以上ここに長居する必要はないだろうと判断した。
――紅音君は研究区にいる可能性が高い。それから、近々“処分”される可能性も。
「……」
そんなこと、絶対にさせるわけにはいかない。
そう拳を固め、ラウンジを出て行こうと踵を返した矢先だった。
「おい、何してる?」
いきなり背後から聞こえてきた声にびくりと飛び上がりそうになった瞬間、ラウンジに響いていた談笑の声が止む。
薄暗い部屋の中、背後には見たことのない長身の男がいた。
不機嫌を隠そうともしないその男に首根っこを掴まれれば、容易く地面から足が浮く。
「あ、あの、すみません迷子です……っ!」
「随分とデケェネズミだな。この辺り、他の連中には入れないようにしてたんだがな。……新入りか?」
ラウンジに溜まっていたヒーローたちの視線がこちらへと突き刺さる。
通りでこっちの通路は人通りが少なかったわけだ。と納得している場合ではない。
「は、はい……つい最近入社して……」
「おい、こんな奴いたか?」
「ふ、普段は顔を隠してヒーローやらせていただいてます……!」
だから顔を知らなくてもおかしなことではないです、と慌てて付け足すが俺を捕らえた男は問答無用でテーブル席まで引きずっていく。
そしてヒーローたちの前へと放り出された。
「こんな弱そうなガキいたか?」
全員の目がこちらに集中する。
遠目に見たときはただの男たちと思っていたが、やはりヒーローということもありいざ目の前にするとその威圧感と存在感で押し潰されそうになる。
俺と比べると、余計。
それと同時に万年青や四葉たちはその威圧感を敢えて消して俺に接してくれていたのだと分かった。――一般市民を怖がらせないようにと。
「なあ、そういやさあ。上層部のやつらが最近内部調査委員結成したって言ってなかったか?」
ヒーローたちの内の一人がぽつりと漏らす。瞬間、更に室内の温度が下がるのが分かった。
アルコールの匂いの中、一斉に向けられる目の色が変わるのを見た。
「あ、あの、……多分それ俺は関係ないです……」
「言うだけならガキでも言えるんだよな。そもそも、お前みたいなやつがヒーローになれるわけねえだろ」
「そ……」
それは決めつけです、と言い終わるよりも先に背後から口を塞がれる。
「もぐ……っ!」
「上の愚痴言ってたとかチクられてみろ、連中のモルモットに転職だぞ」
そんなことしません、と必死に訴えかけても出来上がってる男たちに耳には届かない。それどころか、自分たちの立場が危ぶまれることに焦って余計周りが見えていない。
――つまり、これは良くない状況だ。
ヴィラン側の人間だとバレた時の方がもっとまずいだろうが、これは。
四葉さんを呼ぼう、そう後ろ手に通信機をいじろうとしたが、背後の男に手首を掴まれる。
「誰に連絡しようとした?」
「……っ、な、おい、こいつを縛り上げろ!」
「むぐ……っ、ぷは……っ! お、俺は別に、本当のただの通りすがりで……っ」
す、と言い終わるよりも先に服の中を弄られる。通信用のデバイスを奪われる。それから、着ていたシャツも脱がされかけて息を呑んだ。
「どちらにせよ、新入りに聞かれて黙って逃すわけねえだろ」
「お前も共犯だ」そう、ルームキーがわりのIDカードを手にした男は笑った。
ラウンジの照明に照らされた男の顔を見て息を呑む。
――タリスマン。
本名、苦林騙。
好青年然とした風貌とは裏腹にその目は昏い。
安生からのヘッドハントリストに載っていた男の顔を思い出す。
それと同時に納得した。
この言動は、間違いなくヴィラン向きの人だと。
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