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CASE.10『ヘッドハントヒーロー』
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ビクテム専用宿泊施設前。
俺のIDカードではこの施設に入る資格はなかったが、近くにいた協会職員に声をかければ何かを理解したらしい。四葉さんの口添えもあってなんとか宿泊施設内に潜入することができた。
豪華なホテルのような内装のそこには色々な年齢層の人間がいた。
ここに泊まる人間の殆どが自宅に帰れないか身寄りを失くした人たちだと思うとなんだか薄暗い気持ちになる。
それを尻目に俺はエレベーターへ乗り込み、サディークが泊まる階層へと移動した。
「えと……」
確か、この部屋だったはずだ。
サディークの部屋は角部屋だった。何度か呼び鈴を鳴らしても反応がなかった。もしかして寝ているのだろうか、と思い「佐渡さん、俺です」とノックをすれば、ゆっくりと目の前の扉が開く。
そして。
「……良平?」
僅かに開いた扉の向こう、真っ暗な影の奥からぎょろりと瞳が覗いたかと思えばすぐに扉は大きく開かれる。
そこには濃紺の制服――ではなく、部屋着らしいラフな格好に着替えたサディークがいた。
こうして見るとやはり雰囲気が大きく変わる。一般ビクテムに擬態している、というのもあるのだろうが。
「どうして、君」
「お休み中……でしたか? すみません、いきなり来てしまって」
頭を下げれば、サディークはばつが悪そうに視線を逸らす。
「お休み……というか、寝れなかった。……から、今から寝ようとしてたところ」
「そうだったんですね……すみません、起こしてしまって」
「いや、それは全然いい。……寧ろ助かった」
助かった?
妙な言い回しをするサディークではあるが、歓迎してもらえるだけ嬉しかった。
「取り敢えずここ、声筒抜けになるから……入って」
そうそっと耳打ちされる。「……ね」と強請るように追い打ちをかけてくるサディークに内心どきりとしつつ、俺は小さく頷き返した。
サディークの部屋は広かった。リビングとベッドルームが別になっており、それぞれシャワールームやトイレもしっかり付いている。
内装からは感じていたが、養成区のヒーロー寮に比べると天と地のそれだ。
「適当に座って。……ごめん、片付ける暇はなかった」
玄関口の施錠、窓の戸締りを一通り確認したあと、サディークはカーテンをきっちりと閉めた。日光が一ミリでも入るのを許さないという風だ。部屋の照明も薄暗い設定にされているらしい。
俺は二人用のソファーに腰をかける。戻ってきたサディークは少し離れて隣に腰を下ろした。
「片付いてますよ、十分。……すみません、いきなりきてしまって。四葉さんからサディークさんに会ってもいいと言われて」
「……四葉?」
「あっ、ええと……サディークさんをここへと連れてこられたヒーローの方です。茶髪の背の高い……」
「……ああ、あいつか。今日はあの男が良平の見張り?」
「はい。……四葉さんは結構緩い方で、俺がサディークさんと会ってる間は適当にぶらついてるから好きにして大丈夫と」
「……好きに、ね」
……なんとなく先ほどからサディークさんがソワソワしているのは気のせいではないだろう。
膝の上に置いた俺の手を取ろうか迷うように何度か指先を彷徨わせては、やめる。それから、「用があったんじゃないのか」とサディークは俺を横目に見た。いつもよりも目の下の隈がまた濃くなっている。
「はい。用というか……あれから俺、情報収集をしたんです。そしたら使えそうな案件がいくつか。……それで、サディークさんのお力添えをいただきたくて……」
「……俺に?」
「はい。とある職員の方について調べてほしいんです」
「名前は?」
「苦林騙さんです」
そう口にすれば、サディークは「誰?男?」と眉根を寄せる。どうやらサディークは引き抜き候補のことまでは知らされていないらしい。
「ええと、日中は協会職員として常勤されてる方です。この方、安生さんからヘッドハンティングしてこいって言われてる方の内の一人なんですが、実は昨夜接触することができまして」
「うん」
「その、恐らく遡ればゴロゴロ脅しのネタが出てきそうな人だったので良ければ一つや二つ、ちょっと弱味を握って欲しいんです」
「……一応聞いておくけど、それをどうするつもり?」
「弱味を聞いていただければ、それを使って脅します!」
「………………えーと、良平」
「はい!」
「念の為に伝えておくけど、今の俺は護身用の術はなんもないし因みに生身だから喧嘩とかも無理だから」
「はい、それは存じております」
サディークさんが喧嘩や戦闘、主に肉体労働系の依頼を避けてきているのは俺の担当だったときから知っている。
力強く頷けば、そのままサディークは項垂れた。
「……それで、脅すって誰が?」
「俺ですね」
「その苦林って人を?」
「はい!」
「分かった。良平が真剣なのはよく。……けど、あの人がヘッドハンティングしたがるようなやつだってことは絶対に簡単にいかないと思うんだけど」
「……そのときは、こう……頑張ります!」
「分かったから落ち着け、座って良平。立たなくていいから」
浮き足だったところをサディークにソファーへと引きずり戻される。そしてなぜか俺たちはソファーの上、正座するように向かい合っていた。
「苦林ってやつを探るのはいい。職員なら尚更――けど、なんでそいつ? というか、ただの職員をヘッドハンティング?」
「えと、その……実はその方、ヒーローでもあるみたいなんですが……その、色々問題行為の多い方らしくて」
「……ん」
「昨夜うっかりその現場を目撃したんです。それで少しいざこざはあったんですが、向こうは俺のことを知らなかったらしくて」
「……ん?」
「もしかしたらそれを逆手に取れば苦林さんは俺に逆らえなくなるのではないか……と思いまして」
思い出しながらしどろもどろと説明すれば、見る見るうちにサディークが静かになっていく。最後には相槌すら打ってくれなくなったサディークに恐る恐る「ダメでしょうか……?」と尋ねれば、返事の代わりにサディークは笑った。
「良平、アンタって結構……デッドみたいなこと考えるね」
「え……で、デッドエンドさんですか……?! 俺はなんでもなんでも爆発させようなどなんて……!」
「いや、いいよ。単純明快でそっちのがやりやすい」
そう引き攣った笑みを浮かべるサディーク。
ただ単に笑い慣れていないだけなのか、どことなくその言葉には自分を鼓舞させているような響きがあった。
「交渉はまあ……俺は不得意だから任せたいのが本音なんだけど、これについては一旦俺がその苦林とかいうやつを探るから。それで決めよう。……そんなに問題児って言うなら下手すりゃアンタが危険な目に遭う」
と、そこまで続けてサディークはなにかに気づいたらしい。
「っていうか、もう接触したんだよね?」
「はい、昨夜」
「……なんかあったのか?」
不安そうに、怪我がないか確認するように俺の頬を撫でるサディーク。そのまま髪を掻き上げられそうになり、口に咥えさせられた性器の熱と味が蘇る。
「……は、はは」
サディーク相手には誤魔化しは通じないだろう。
暑くなる頬を笑って誤魔化そうとすれば、一瞬にしてサディークの表情から笑みが消える。
「………………あったの?」
しまった。
今のは反応を間違えてしまったかもしれない。
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