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CASE.10『ヘッドハントヒーロー』
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「お前……」
言葉を失う万年青さん。
どこからどう見ても呆れられているが、疑われるよりかはましなはずだ。
すみません、サディークさん。そう心の中で謝罪をした時、万年青はじっとこちらを見下ろした。
「あの男と恋人関係なのか?」
「いえ、そういうわけでは……」
「……」
「あ! これ以上はプライベートな話になります、とにかくもう俺から言えることは以上です……! どこにも行きませんのでせめて拘束は外してください!」
「……」
「お、お願いします……なんでもしますので……」
「いい、いらない。むしろ何もするな!」
「は、はいぃ……っ!」
これ以上怒られて厳重な警備になってしまっては元も子もない。口にする代わりにじっと眼力で訴え掛ければ、万年青は深く深くため息を吐いた。
それから、渋々手足の自由を奪う拘束を外してくれる。
「あ、ありがとうございます……!」
「……このまま縛っておいた方が面倒臭そうだからな」
「どういう意味ですか?」
「そのままの意味だ」
言いながら胸元から何かを取り出す万年青さん。
ようやく自由を取り戻し、手足の痺れを払おうとしていた俺はその手に握られているものを見て青褪めた。
小型の拳銃にも見えるその先端は針のように鋭い。
「と……ところで万年青さん、その手にもってる武器は……」
「これならお前を気絶させる」
「えっ?! な、なんでですか……?!」
「拘束したところで喚かれる、余計騒ぎが大きくなる前に未然に防ぐのは俺の役目だからな」
「お、俺のことなんだと……ウッ」
言うよりも早くその先端を俺の首筋に押し当てた万年青。ちくりとした痛みとともに、患部から全身へと痺れが走る。それから急激に襲いかかってくるのは強烈な睡魔に似たなにかだ。
だらりと力抜ける俺を抱き止め、万年青は「安心しろ」と耳元で囁く。
「命に別状はない。お前が大人しくなるだけだ」
「お、おもとさ……」
それは酷いと思います、と反論するよりも先に肉体の限界を迎える方が先だった。
どろりと崩れ落ち、意識は底まで落ちていく。
それから少しの間、目を瞑っていたようなほんの少し。
目を開けたときには部屋は真っ暗になっていた。
「ん……?」
そうだ俺、万年青さんに無理やり眠らされて……。
体が動かない。指先一本すらぴくりともしない。
なのに、頭は起きてる。これは万年青さんの麻酔銃の効果だろうか。なんだか変な感じだ。
ふわふわして、まだ夢見てるような……。
「……?」
暗い部屋の中、万年青さんの気配を探る。
……万年青さん、いない?
暗くて見えないけど、万年青さんがいないならもしかしたら今は抜け出すチャンスなのかもしれない。
体に何度動けと司令を送るが、やはりその指示は阻害される。時間経過で動けるようになるだろうか、と思った時だった。
玄関口から扉が開く音が聞こえた。
万年青さんだろうか。咄嗟に寝たふりをしようとしたとき、暗い部屋の中に足音は近づいてきた。
万年青さん、俺はちゃんと寝てますよ……!
そう全身でアピールしながらも、一刻も早く動けるのを待っているときだ。
ベッドの上、投げ出したままになっていた腿に何かが触れるのを感じた。
「…………?」
指だ、指が服の上から腿から足の付け根まで撫でている。
俺がちゃんと眠っているのかを確認しているのだろうか。それとも、また身体検査をするつもりなのか。
さっきあんなに制服の中を弄ったと言うのに。
そんなに俺は怪しいですか、万年青さん。と悲しくなった矢先だった、僅かにベッドが軋む。
誰かがベッドの上に乗り上げてくる気配がした。鼻についたのは硝煙の香り、それから。
――あれ、万年青さんってもっと薬品系の香りがしたような。
なんて思いかけた矢先、唇に何かが触れた。
「ん……っ」
硬い指が一本、二本。
まるで柔らかさを確かめるようにむにむにと唇を揉んだ後、その指は口をこじ開けるように咥内へと入ってくる。
――な、なんだこれは。
口の中に何かを隠してると思われているのか。
確かにプロのスパイの方は腹の中に飲み込んで吐き出す方もいるという話は聞いたことあるが、俺にはそこまですることはないのに。
というか、指が、太くて長くて……。
「ん、ぇう……っ」
上顎を撫でられれば耐えきれず、口の中の異物を吐き出そうとえずく。それも無視して、咥内の指は俺の舌を捉えてはそのまま引っ張り出そうとしてきた。
くすぐるように表面を撫でられる度に唾液が分泌され咥内に濡れた音が響く。それから喉の奥からくぐもった己の声も響いた。
――なんだ、これは。
多分、これ、万年青さんじゃない。
そう感じたのは触れ方からだ。万年青さんはこんな触れ方をしないし、必要のないことはしない。じゃあ、これは誰なのか。
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