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CASE.10『ヘッドハントヒーロー』
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真咲さんに招かれるようにして入った救護室内。
殆どの人間は出払っていたようだ。広くはないそこの簡易ベッドの上、腰をかけていたその人影は入ってくる俺たちを見るなり慌てて起き上がった。
「善家さんっ?」
「四葉さん、お体は大丈夫ですか?」
「あ、ああ……大丈夫だよ。というかどうしてここに……」
「丁度そこで黄八丈に会ってさ、そのまま善家さんもらってきた」
貰われたのか、俺。
反応に困っていると「なんて」と真咲さんは笑いながら俺の肩を叩く。
何言ってるんだと呆れたような四葉さんだったが、
「四葉さんが救護室にいらっしゃると聞いて心配で、無理を言って千金君に着いてきてもらったんです」と事情を説明すればますます困ったように眉尻を下げる。
それから諦めたように息を吐いたと思えば、優しく微笑んだ。
「僕は大丈夫だよ。ここにきたのは……簡易検査のためかな」
「検査ですか?」
「大したことじゃないよ」
そう笑う四葉さんのベッドの側、サイドボードの上にいくつもの種類の錠剤が転がっているのを見てしまう。
サプリだろうか。ふとその中にどこかで見覚えのあるものもあった気がするが、それもすぐ俺の視線に気づいた四葉さんが隠すように引き出しに突っ込んだ。
そして、
「……プライベート侵害だよ、善家さん」
「へ?! あ、す、すみません……! つ、つい気になって……」
「別に隠す必要ねえのに、善家さんならよくね?」
真咲さんが助け舟を出してくれるが、四葉さんの表情は渋いままだ。寧ろ余計なことを言うなと言わんばかりの目で真咲さんを見てる。
「それは僕が決めることだよ、真咲君」
「はいはい、ったく……機嫌悪くてすみませんね、こいつ。戻ってきてからずっとこんな調子で」
「……ごめんね、善家さん。そういうわけだから少し一人にしてもらえるかな」
「あ、あの……」
「そういうことらしいので、善家さん行きましょうか」
そう大して気にした様子もなく真咲さんは俺を連れて再び救護室を後にした。そのまま通路に置かれたベンチへと俺たちは並んで腰を下ろす。
「四葉さん……何かあったのでしょうか……」
「気になります?」
「はい。……怪我はなかったみたいなので安心しましたが」
あんなことがあった後だからと変に緊張していた己が恥ずかしい。俯く俺に真咲さんは「まあそんな深刻なやつでもないんで」と笑いながら慰めてくれる。
「でも今回はしっかりと四葉対策されてたみたいですよ、あっちで」
「え?」
「あいつの弱味全部筒抜けだったって。……あいつらの中だと一番メンタル弱いから仕方ないですけど、向こうも向こうでやっぱ脳筋ばっかじゃなさそうですね」
「な、なんか悪口とか……酷いこと言われたんですか?」
「まさか」
「そ、それなら……」
「そういうのはしょっちゅうですよ。それよりももっと物理的な――」
と、真咲さんが言いかけた時、救護室の扉が開いた。真っ白な顔をした四葉さんがそこに立っていて、無言で真咲さんの首根っこを掴んでそのまま救護室に押し込む。
「し、四葉さん……! す、すみません俺が聞いてしまったんです……! ま、真咲さんは悪くありませんので……っ!」
そう慌てて扉を閉める四葉の腕にしがみついたときだった。伸びてきた手にそのまま抱き寄せられる。あまりにもそれは突然で、傲慢な動作で。
「え、あ、あの……?!」
「……僕のこと知りたいならさ、僕に聞いてよ」
「あ、は、はい……すみませんでした……っ」
「本当に分かってる?」
大きな影が落ちてくる。
ち、近い。というか、四葉さんってこんな強引な人だったのか。いやこれ何かがおかしい。
「し、四葉さん、あの……」
「…………」
「四葉さん……?!」
背後から抱きすくめられるような形のままフリーズする四葉に戸惑い、慌てて四葉さんに呼びかける。次の瞬間、見る見るうちに四葉さんの顔が今度は青くなっていく。
「あ、あー……待って、ええと。これは現実?」
「し、四葉さん……? な、何を仰って……」
「おい四葉、お前まだ全然治ってねーだろ」
救護室の扉とはまた別の裏口からひょいと顔を出した真咲さんは俺たちのところにやってきてはすぐに四葉さんを俺から引き剥がす。
「いや治った、ちゃんと治ったってば。ほら」
「嘘吐け、善家さん怯えてるから」
「何言ってるの? 僕なんかした? 善家さん」
「あ、あの……こ、これは一体……」
今度は四葉さんを救護室の扉に押し込みながら、扉を閉めた真咲さんはやれやれと言わんばかりに息を吐いた。
「敵の攻撃で幻覚見せられてたらしくて、その後遺症が残ってるんですよ、今のあいつ。見たところ無傷だし会話できるようになってるけど、ちょいちょい危なっかしくて一人にするわけにもいかずここで隔離って感じです。医療スペースの方が大忙しなのでわざわざ人手も避けないし、まあ言動がおかしいだけで基本は無害なんでこのままにしてるって感じですかね」
「そ、そうだったんですね……」
なんだかいつもと違う四葉さんにドキドキしてしまった自分が恥ずかしい。
わりと大事ではないかと思ったが、「今は薬飲ませてるからまあ、その内回復しますよ」と真咲さんは続ける。
「けど、あいつに後遺症残ってるって気付くのがちょっと遅れてしまってですね。あいつ、普段と変わらなさすぎるから悪いんですけど」
「何かあったんですか?」
「まあ色々ですね。ところで善家さん、四葉といて違和感なかったですか?」
「え? た、確かにいつもより積極的だなとは思いましたが……」
まさかドキっとしてしまったのがバレてしまったのだろうか。そうハッとする俺に、真咲さんは目を細める。そして、「ああ、それならいいですよ」と何事もなかったように笑った。
「今のあいつと一緒にいるのはあまりお勧めしませんね。……あいつ、善家さんのこと気に入ってるみたいだから」
「……え?」
「一応忠告しときましたよ、俺」
そう真咲さんは笑う。
「それでも俺たちと居ますか? あれなら部屋へと送り届けますよ、暫く一人になってしまうかもしれませんが」
なんだ、その問いかけは。
どうしてもいろんな意味を内包しているような気がしてならない。
ここから先は自分で選べと突然突き放されるような真咲の言葉に思わず立ち竦む。
真咲さんは四葉さんがおかしいと言ったが、俺からしたら真咲さんもなんとなく違和感がある。
その違和感を見て見ぬふりをするべきなのか、もしかして昨夜のって、と思わず身構えた。
「どうします?」
多分、これは罠な気がした。
「へ、部屋に……戻ります」
「ああ、そうですか。それがいいと思います、俺も」
「あの、四葉さんは……」
「少しくらいここに残してても大丈夫ですよ。あいつのことを刺激するものがない限りは大丈夫そうなんで」
そう真咲さんは俺に手を差し出した。
思わずその指先に目を向ける。――違う。と、咄嗟に思った。あの時触れてきた指よりも細い。
まさかと思ったが、どうやら俺の気にしすぎなようだ。俺は差し出された手にそっと手を置く。
俺って、四葉さんにとって有害扱いされているのだろうか。
なんとなく複雑な気分のまま俺は真咲に部屋まで送り届けられることになった。
頭の中ではずっと背後に立った四葉さんのことを思い出す。微かに鼻腔に残った匂い。
忘れようと思ったのに意識すればするほどつい先ほどのことのように蘇っては変に緊張した。
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