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CASE.10『ヘッドハントヒーロー』
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それから、俺は真咲さんに部屋へと送り届けられる。
「四葉さん、早く元気になると良いですね」
「ありがとうございます、善家さん。あいつのこと心配してやって」
「も、勿論です……! 四葉さんが元気ないとやはり心配です……けど、怪我はなさそうなのは安心しました。最初救護室にいると聞いて驚いて……」
「それで、思わず来ちゃったんですね?」
くすくすと笑いながら真咲さんは扉を閉める。
あい変わら狭い自室の中、ヒーローの中を招き入れるとよりその狭さを実感するようだった。
改めて指摘されて頬が熱くなるのを感じながらも、はい、と小さく頷く。
「あいつのこと、そんなに好き?」
背後から聞こえてきた声に少し驚いた。
普段の敬語が外れていたことにもだけれど、それ以上にその声が近かったからだ。
「え、ええ……はい、四葉さんは優しい方なので……」
「ふーん」
「あ、あの、勿論真咲さんのことも俺、好きです。いつもお世話になってますし……」
なんとなく部屋の中に充満する空気に違和感を覚えつつ、恐る恐る真咲を振り返ろうとした時。背後から伸びてきた手が腹部に触れる。体を支えてくれたのだろうかと思ったがそうではない。
真咲の指先はそのまま濃紺の生地の上を滑り、胸元までやってくる。
「ま、さき……さん……?」
「善家さん、昨夜のこと覚えてます?」
「え?」
「万年青に縛られた後のことですよ」
指の位置が気になってそれどころではなかったところに、さり気なく持ち出される爆弾発言に俺は言葉を失った。
顔に、耳に、かっと熱が集中する。
「あ、あの……その……」
なんのことですか、と言うべきだと理解したときには遅かった。覗き込んでくる真咲に目の奥の奥まで見つめられる。
「覚えてます?」
再度問いかけられたとき、俺は震える唇を噛み締めて首を横に振る。瞬間、部屋の濃度が更に上がった――ような気がした。
そして、
「覚えてるんですね?」
見えない何かに手足を縛られるみたいに体が動けなくなる。棒立ちになったまま固まる俺の手を取り、真咲さんは目を伏せて笑った。長い睫毛に縁取られた瞳の奥、その目は真っ直ぐに俺を射抜く。
「ダメですよ、嘘吐いたら」
「……な、んの……こと?」
「大丈夫ですよ、誤魔化さなくても。俺、知ってるんで」
え、と目を見張る。胸の上に這わされていた指先が持て余すようにくるくると円を描く。それだけで服の下、隠れているはずの胸の突起にじんわりと熱が集まりだした。
「――善家さん、今朝あいつにヤられてたでしょ」
それから、耳元で囁かれる言葉に今度こそ絶句した。
言葉の意味が理解できなくて、熱の籠ったその声に、脳の奥がぢぐりと熱く疼き出す。
「え、ええと……?」
「惚けなくてもいいですよ。……あいつは覚えてないでしょうけど、俺が覚えているんで」
「……っ! ど、どういう……ことですか……?」
状況を飲み込めず、思わず真咲を見上げる。そんな俺を見つめたまま、真咲は口角を僅かに持ち上げて笑った。
「まだ分かんない?」
「え……?」
「――ちょっと妬いてる、って話ですよ」
見たことない笑い方で、あまりにも自然な動作で体を抱き寄せられたと思った矢先に唇を重ねられる。
一瞬、なにが起きたのか俺には理解できなかった。目の前にはピンクの髪が照明に当てられて白く光っていて、それから、柔らかく舐められる唇に驚いて固まった。
つまりこれは、ええと、昨日のあれは四葉さんで、それを真咲さんに見られてて、四葉さんは覚えてないけど真咲さんが覚えてるってことで……それで?
「っ、ん、ぅ……っ、んん……」
それで、なんで俺は真咲さんとキスをしてるんだろうか。
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