ヒーロー志望でしたが、手違いで三食宿付きヴィラン派遣会社に永久就職(?)することになりました。

田原摩耶

文字の大きさ
193 / 210
CASE.10『ヘッドハントヒーロー』

56

 それから、何度か抜いた後もなんだか不完全燃焼のまま俺は真咲さんのこと、そして四葉さんのことを考えていた。

 四葉さんの調子が悪そうなのって、もしかしたら俺のせいでもあるのだろうか。
 幻覚で覚えてないと真咲さんは言っていたが、一体どんな幻覚を見てたらあんなことになるのか。

 とか、そんなことを考えてはベッドの上で二転三転し、そのまま床へと落ちそうになる。

「……はあ」

 皆気さくないい人たちだし、確かに仲良くなれている感じはあったのに――明確な壁を感じる。
 そりゃ俺は部外者であり客人のような扱いなのだからそれも当然なのだが、真咲さんのことといい改めて彼らのことを何も知らないのだと思い知らされるようだった。

 真咲さんのことは一先ず置いておこう。考えたら脳が茹だりそうだし。
 ……取り敢えず、サディークさんからの連絡を待とうか。

 そう連絡用端末を手にしたとき。丁度サディークさんからメッセージが届いた。

『今から会えるか?話したいことが色々ある』

 そんな簡素な一文に、俺は慌てて『はい』と返事をしようとして、そこで今は部屋で大人しくしろと言われていることを思い出した。

『すみません、部屋から出るなと言われてて』
『一人?通話はいける?』
『それなら大丈夫です』

 サディークさんの様子からなんとなく切羽詰まったものを感じつつ、俺は返事を送った。
 それからすぐサディークさんから通話がかかってきた。
 一応スピーカーではなく俺にだけ聞こえるように設定する。

「サディークさん、おはようございます」
『ああ、はよ……部屋から出られないってのは?』
「えと、昨夜色々ありまして……今は護衛の方々が手一杯らしく、一人の時は部屋を出るなと言われているんです」
『そういうこと。……面倒臭えな』

 サディークさんの舌打ちが聞こえきた。
 どうやら焦っているらしい。

「あの、どうでしたか?」
『どっから説明したものか……良平、お前昨日の夜は?』
「その件についてですが、サディークさんと連絡を撮った後眠らされてしまって……実は何が起きたのかも知らなくて……」
『なんで眠らされていたのかについては聞かない方が良さそうだな』
「へ、へへ……」
『……取り敢えずお前の言ってた例の職員とは接触した。……あいつ、やばいよ』
「え、そ、そうなんですか……?!」
『そう。良平が狙った通りだ。掘れば掘るほどゴロゴロ出てきたし強迫の材料は困らないだろうけど……いくつか気になることもあってな』
「気になること……ですか?」
『……ところで良平、アンタのところの部屋ってヒーローの連中が勝手に出入りできるんだっけ?』
「あ……は、はい。数名鍵を持ってる方はいて……」
『念の為扉塞いで、こっから先はまじで人に聞かれると面倒な内容になるからな』
「わ、分かりました……!」

 確かに少し毛色が違う人だと思ったが、そんなにまずい人だったのか。
 慌てて立ち上がった俺は「ちょっと待っててください」とサディークさんに声をかけ、一旦デバイスを置いて慌てて扉の施錠にかかる。
 ――とはいえ、鍵を持ってる彼らに対抗するには物理的な方法しか思いつかない。取り敢えずベッドを動かして扉を塞いだあと、俺はサディークさんと繋がったままのデバイスを手に取った。

「ふう……すみませんお待たせしました」
『なんかすげー地割れみたいな音してたけど……』
「大丈夫です、少しは時間稼ぎはできると思います……!」
『そ、それならいいけど……それじゃ、取り敢えず俺があの男と接触したときの話するからな』
「はい! よろしくお願いします……っ!」

 椅子代わりのベッドがなくなってしまったため、慌てて床の上に正座する。

 サディークさんの説明はあくまでも淡々としていた。

 道に迷ったフリして苦林に接触し、お礼の代わりに握手をする。
 その数秒の接触だけで情報を引き抜くことは通常できるらしい。

 そして実際、苦林の記憶を掘り返した。
 途中色々なノイズのような記憶があったらしいが、その一時の接触だけでも分かったことは多かった。

『苦林騙――あいつは元々俺ら側の人間だった』
「そ、それって……」
『この協会は捕縛したヴィランを施設で強制的に更生させ、職員として働かせているんだって』
「え……!」
『勿論全員が全員じゃないが、あいつのように別人としてここで暮らしている元ヴィランも多いらしい』

『もっと調べようと思ったけど、あいつの記憶領域には明らかにロックかかった場所があった。……多分それ、この施設の人間がやったんだろうな。そこに多分、この男がヴィラン時代のときの記憶やこの協会の秘密が隠されてるんだろうけど……』サディーク曰く、その施錠は鍵をかけた本人しか開くことができないらしい。
 そして苦林自身もヴィラン時代の記憶は思い出せない状態にあるというのがサディークの意見だった。

「そ、それは……じゃあ、苦林さんは過去を忘れて何も知らずにここにいるってことですか?」
『いや、どちらかというと弱味握られて脅されている状態に近いかな。本人はこの協会に不満はあるが、逆らうことは諦めて連中の言いなりになっているみたいだ。……肝心な部分はやっぱり記憶を弄られてるみたいだけど』
「そんな……」

 と、そこまで考えて初めて苦林と会った時を思い出す。あれは協会の人間への当てつけのつもりだったのだろうか。それともストレス発散か。
 どちらにせよ、安生さんの見立ては当たっているようだ。
 すっかりここにも慣れてきて絆されかけていたところ、冷や水をかけられたような気分になる。
 けれど、苦林さんが元ヴィランの方と聞いて不思議としっくりきた。だってあの人笑い方が悪かったし。

感想 74

あなたにおすすめの小説

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

平凡な俺が完璧なお兄様に執着されてます

クズねこ
BL
いつもは目も合わせてくれないのにある時だけ異様に甘えてくるお兄様と義理の弟の話。 『次期公爵家当主』『皇太子様の右腕』そんなふうに言われているのは俺の義理のお兄様である。 何をするにも完璧で、なんでも片手間にやってしまうそんなお兄様に執着されるお話。 BLでヤンデレものです。 第13回BL大賞に応募中です。ぜひ、応援よろしくお願いします! 週一 更新予定  ときどきプラスで更新します!

一度も話したことないイケメンのクラスメイトと二人組になったらめちゃくちゃ執着されてた

BL
「はい、じゃあ二人組作って」──あまり人付き合いが得意ではない夏稀(なつき)にとってそれは地獄の言葉。 けれど高校ではちがう。なぜなら新しくできた友達と『二人組』協定を結んだから。 もう二人組なんて怖くないと思っていた矢先、その友達が風邪で欠席。 ほかに組む相手が見つからず、先生と組むことも覚悟する夏稀だったが、そこで声をかけてきたのは美形の転校生──緒川聖夜(おがわ・きよや)だった。 「俺と二人組にならない?」 その一言をきっかけに聖夜は夏稀との距離を急速に縮めてきて──。 執着美形攻め×平凡受けのちょっと不穏な学園BL。 約九万字、全三十話+αの物語です。

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

バーベキュー合コンに雑用係で呼ばれた平凡が一番人気のイケメンにお持ち帰りされる話

ゆなな
BL
Xに掲載していたものに加筆修正したものになります。

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

大学一軍イケメンにいちご狩りに誘われた陰キャの俺、なぜかいちごじゃなくて俺が喰われたんだが(?)

子犬一 はぁて
BL
大学一軍イケメン×大学九軍陰キャ 喰われるなんて聞いてないんだが(?) 俺はただ、 いちご狩りに誘われただけだが。 なのに── 誘ってきた大学一軍イケメンの海皇(21)に なぜか俺が捕まって食われる展開に? ちょっと待てい。 意味がわからないんだが! いちご狩りから始まる ケンカップルいちゃらぶBL ※大人描写のある話はタイトルに『※』あり