親友がカルト因習村村長の息子だった話。

田原摩耶

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 それから約束通り三日三晩、俺は永良の別荘があるという山奥で遊んでいた。
 どこにいてもその祭囃子や人の声が聞こえてくるようで、その度に俺と永良は地下通路に探検したり気にならないくらいくだらない話をしたり、そんなガキみたいな抵抗した。

 そんな楽しい数日もあっという間に過ぎる。
 祭りの翌日。

「なあ、今日でもう四日目だよな」
「そうだね」
「祭り、もう終わったんだろ?」
「学校はまだ振替休日だよ。今日もゆっくり過ごせばいい」

 そう、和室の座敷の上。寝転がって本を読んでいた永良はこちらへと腕を伸ばす。そのまま人の膝の上に頭を乗せ、猫のように丸くなる永良。

「ゆっくりも何も、そろそろお前も飽きたんじゃないか。俺の顔を見るのは」
「いや、飽きないね。それに隣春の話を聞くのは面白い」
「その割に笑ってなかったけどな」
「興味深いって意味だよ」

 この村は娯楽に飢えていることは知っていた。
 文明レベルが遅れている、というよりも敢えてそういう仕組みになっているのだと分かったのはここへと引っ越してきたときのこと。
 スマホも繋がらない。漫画は禁止。他刺激の強いコンテンツも禁止。――最初は有り得ねえと思ったが、なぜだか父さんも母さんも不満ひとつ言わずに「そういうものだ」と受け入れた。
 入村時の手荷物検査でこの村の規則に引っかかるものは全て取り上げられる徹底ぶり。
 だからこの村で生まれ育った連中はゲーム機を触れたこともないし、SNSすら触ってない。
 永良はスマホは持っていたがそれも俺が知ってるそれとは違った。ガキ、それも小学生が持たされるようなそれを身内との連絡手段としてだけ持たされている。

 だからか、出会った時から永良は俺に興味津々だった。
 同じ年頃の価値観の違う同性というのが物珍しかったのだろう。まるで珍獣扱いだが、それでも話は通じるやつだったので聞かれるがまま色々受け答えした。

 本当は迂闊に外の話をこの村に持ち込むなだとか言われていたし、家族は熱心に村のジジババの話を聞いていたが俺にとっては興味なかった。
 だって、別に俺はここでの暮らしを求めたわけでもなかったから。
 だから、外に興味を持っていた永良と隠れて二人で過ごしては色んな話をすることになった。
 その後、永良が村長の身内だと聞いて驚いたが、「でも、君にとってはどうでもいいことだろ?」と笑う永良に「それもそうだな」と頷いたのも記憶に新しい。

「隣春、本当に帰りたいの?」
「これ以上は流石に親も騒ぎそうだからな。神隠しにあっただとか言って」

 騙されやすく、迷信深い両親の代わりにしっかりしないといけない。
 馬鹿な親だと思ってはいるが、不仲なわけでもない。永良は微笑んだまま「仲がいいんだな」と体を起こす。
 なんだか変な顔だった。普段永良が見せないような優しい笑い方だ。いつものあいつは上っ面だけの作り笑いか邪悪な笑い方しかしないくせに。

「いいんじゃないか? 俺ならその手助けしてやるよ。お前がここから出たいって言うんなら……」
「できないだろ? お前は」
「……」
「お前だって家族が大切じゃないのか」

「まあ、俺は学校卒業したら勝手に出ていくから心配すんなよ」と永良に声をかける。
 そのまま帰る準備をし、「あ、帰り道教えてくれてよ」と振り返れば、すぐ後ろに永良がいた。

「永良?」
「……案内するよ。車も出させる」
「ああ、助かる。正直自分の足でこの山降りてる最中迷子になりそうだ」
「だね」

 一瞬雰囲気が違って感じたが、それもすぐに普段の永良へと戻る。

 それから永良が呼んでくれた車に乗せられ、家の近くの住宅地へと送り届けられた。
 あれほど村全体彩られ、飾り付けられていたと言うのに既に祭りの名残もなくなっていた。
 俺たちの乗る車が通る度に村人たちは頭を深く下げる。中には拝むものもいる。永良はそれをなんとも思わない顔で無視し、そして俺を車から降ろした。

「世話になったな、永良」
「うん。――また明日」

 なんでもないやり取りを交わし、日常へと戻る。
 流石にあののほほんとした親たちも俺が無断で出かけていたら驚くだろう。念の為、部屋の机の上に『遊び行ってくる』とメモは残していたのだけれど。

 まあ、祭りの準備でそれどころじゃなかったかもしれないしな。

 そんなことを思いながら見慣れた家の群れの間を抜け、他よりもまだ新築のその家の前までやってきた。

 何も言わずに扉を開けようとして、鍵がかかっていないことに気付いた。
 が、すぐにこの村では家の扉に鍵をかけないのが当然だと言うことを思い出した。
 相変わらず不用心ではある。今みたいに鍵を持って帰りそびれたときは助かるが。

 などと思いながら扉を開いた瞬間、目の前に広がった光景に一瞬目を疑った。
 まるで強盗にでも荒らされたように荒れた玄関口、小物や靴がそこら中に転がっていた。

「……」

 酔っ払い集団でもきたのか、と思えるほどのその散らかりっぷり。
 靴の数からしてまだ家族も家にいるはずだ。

 どんだけはしゃいだんだ。
 せめて靴くらい揃えて帰れよ、と思いながらリビングへと向かう。
 そこは見慣れたリビングが広がっていた。
 多少家具やインテリアが倒れたり割れたり破片が散乱しているが、玄関口よりはマシだ。

「……」

 胸がぞわぞわする。
 別に俺の部屋もこれくらい散らかる。けれど、なんだこの胸騒ぎは。
 綺麗好きな母親たちがこの状態のまま放置してるとは思えない。
 それよりも、この時間帯いつも朝飯の準備をしているはずの母親がいない。仕事に出る支度をしてる父親の姿もない。
 浮かれすぎてまだ寝てるのかと思い、そのまま二階へと駆け足で登る。

 両親の寝室を開け、乱れひとつないそこを見て息を呑んだ。
 誰もいない。ベッドにもクローゼットにも人の気配はない。

 隣の妹の部屋の扉も叩く。けど、返答待つのも焦ったくて扉を蹴るように開ければ、そこは両親の寝室よりも荒れていた。
 開いたままのクローゼットからは妹のお気に入りの服も全て床に引き摺り出されている。

 そこに混じって赤い染みを見つけた瞬間、脳がキツく締め付けられる感覚がした。
 目眩。吐き気。嫌な思考が脳を支配する。
 ただの勘違いで、考えすぎだ。
 多分どっかの公民館とかで他の村人たちと朝まで飲んで騒いでいるだけだ。

 そう自分に言い聞かせ、念の為他の部屋も全て見て回る。
 そして自分の部屋を開いた時、その目眩は強くなる。
 ひっくり返ったベッドに千切れたカーテン。棚の中身も全て引き摺り出され、俺の残したメモすら見当たらないほど俺の自室は荒らされていた。

 強盗にでもあったのではないか。
 そう思うのが正常なほど、凄惨な有様だった。

 けれど、どこにも死体はない。村の中を探しても見当たらない。他の村人も知らぬ顔をしてまたそれぞれの日常へ戻っていく。

 その日、俺以外の家族が消えた。

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