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05※
しおりを挟む死ぬ。本当に、こいつに殺される。
痛みに混じって甘い感覚は波紋のように広がり、意識も全て性器に掻き回される。
無理やり形を作り変えるよう、先走りを塗り込むように中を摩擦される度に腰が震えて、喉の奥から出したくもない声が盛れる。
それからは激痛と違和感に慣れ始めてからが本番だった。逃げようとする体を押さえ込まれ、縛られた腕を手綱かなにかのように引っ張られたまま何度も奥まで腰を打ち付けられる。
甘い言葉も気遣いもなにもない。あるのはただ痛みとそれに似たなにかだけだ。
ただひたすら永良の全てを受け止めさせられる。
それが暴力以外のなにと呼ぶべきか。
気を失っても眠っている間に嵌められ続け、その刺激に叩き起こされる。
三日三晩再び俺はこいつと一緒に過ごすことになる。自分でも見ることのないような場所まで永良に暴かれ、犯し尽くされ、壊される。
水を飲まされ、吐く。中に射精出される。口の中に精液を流し込まれ、こぼした精液を舐め取らされる。
「なあ隣春」
何時間経過したのかもわからない俺を見下ろしたまま、永良は俺を呼ぶ。
その言葉に答える代わりに目の前の男を睨み上げれば、永良は微笑んだ。
「お前は変わらないな」
「……っ、ざけ、てんのか」
「いや? 率直に述べただけだ。お前はまだ死んでない。そうだろ?」
引き抜かれたばかりの性器を目の前に突きつけられる。『舐めろ』ということらしい。顔を逸らせば、問答無用で唇をこじ開けて口の中に亀頭が入ってきた。そのままずる、と喉の奥まで舌の上を這いずりそれは入ってきた。
「ぉ゛ご、ぼ……ッ」
「……俺は、嬉しいよ。隣春。けど、悲しくもあるんだ。なんでだか分かる? 隣春」
「ん゛、ふ、ぐ……ッ」
「……ああ、そうだね。お前が分かるわけないよな」
「ん、ぅ゛」
性急な動きで喉の奥まで入ってきたそれを咥えさせられ、喉を柔らかく締め上げられる。締まる喉の感触を楽しむように腰を埋める永良は心地良さそうに目を細め、それから俺の頭を撫でた。
瞬間。喉の奥、永良の鼓動に合わせてびく、びく、と断続的に跳ねながら溢れ出す精液を受け止めきれずに逆流し、鼻や口から溢れ出す。噎せかえることも吐き出すこともできぬまま、ただ勢いよく流し込まれるそれを胃の奥で受け止めることしかできなかった。
長い射精の末、ゆっくりと永良は俺の髪を掻き上げる。
「お前の言う通りだよ、隣春」
「――」
「無意味だな」
「っ、ぅ゛」
「けど、俺にとっては有意義な時間だ。……非常にね」
「ん゛ぉ、ごぽ……ッ」
精液と性器のせいで気管を塞がれ、窒息しかけた矢先だった。そのまま腰を引いた永良に合わせて口の中に残っていた精液が溢れ出した。
また砂利で塗れた床を舐めさせられるのではないのかと身構えたとき、目の前に翳された永良の手のひらはそれを受け皿にするように精液を受け止める。
永良は何も言わずにただ俺の目の前に手のひらを持ってくる。舐めろ、と言うかのように顔の位置まで持ってくるそれに俺は反射で舌を伸ばした。
永良はそれを見ていた。犬にでも餌をやるようにただ笑って。
摩耗する。疲弊する。肉体も粘膜もメンタルも擦り切れそうなほどだった。
何故自分がこんな目に遭ってるのかもわからなくなるほどの時間を永良と過ごした。
今思い返せば三日も経っていなかっただろう。日が昇っても沈んでも猿みたいにセックスをして、永良を受け入れさせられた。
誰も俺んちを訪ねてくる人間はいなかった。一家丸ごと行方不明になったとて、気にする人は誰もいない。学校も俺たちの席が空いていたとしてといつものことだと気にしなかっただろう。
俺も行方不明扱いになってるのかもしれない。
そんなことをぼんやりと考えながら、何度目かの気絶をした。
このまま死ねればまだマシだろう。
そんなことを考えて目を瞑る。
そして次に目を覚ましたとき、唐突に自由はやってきた。
深い眠りの底、聞こえてきたクラクションで目を覚ます。
「どうしましたか?」と覗き込んでくるのは二人組の警察官だった。
何事かと体を起こせば、どうやら俺は服を着たまま山道に転がされていたらしい。側には見覚えのない鞄が転がっていた。
その中には数日分の衣類と現金入りの財布が入っていた。
何が起きたのか分からなかった。
混乱する俺を前に家出のガキと判断したやつらは俺の家を聞き出してくる。
わざわざ財布は用意したくせに身分証らしきものは見当たらない。仕方なく村の名前を出した瞬間、警察官たちの顔色が変わった。
それから、憐れむような目の警官たちのパトカーに乗せられそのまま署で保護されることになる。
どうやらその街は、あの村からそう離れていない場所だった。
「親が行方不明になった。あの村が関わってるに違いない。あの村は、あいつらはおかしい」
そう何度も繰り返したが警察官は右から左へと聞き流すだけだ。それから、「こちらでも調査しよう」と言うが、本気ではないのは俺にでも分かった。
関わりたくない、そうありありと顔に出ていたからだ。
けれど不幸中の幸いか、身寄りのない俺に同情してくれた警察官がいた。
「君はあの村から抜け出してきたのか?」
中年の警察官に問いかけられ、ぐしゃぐしゃになった頭の中を一つずつ整理していく。
答えは、いいえだ。
俺は気付けば山道に転がされていた。
そして、ご丁寧に荷物まで用意したであろう心当たりは一人しかいない。
――嘉瑞永良。
あいつは何故俺を逃した?
あんなに好き勝手していたくせに、飽きたから?
でも都合が悪くなるのはあいつだ。それなら口封じをすべきはずだった。
それをしなかった意味はなんなのか。警察に駆け込まれたところで無駄だと永良は言っていた。
それはあのど田舎のクソ村だけではなく、この近隣の地域を指しているのか。あの村の影響力がどこにまで及んでいるのかわからない以上、下手なことを言うのがどれほど危険かを自覚する。
「……覚えてない」
「覚えてない?」
「気づいたらあそこにいた。……俺は……」
誘拐されていた。何故?
永良はああ言っていたが、そもそも俺は家族の死体も見ていない。
あまりにも欠けたピースが多すぎて、全てが憶測に過ぎない。
結局言葉に詰まる俺に「まだ混乱しているのだろう。行く宛がないなら暫く自分の家にいればいい」という警察官の好意に甘えることになる。
あの村に戻ろうと思えば戻れた。
また、両親を探しに行く。
遺体だけでも見つければ、あの村を、永良たちを訴えることができる――そう意気込んでいた。
はずだったのに。
「隣春君、落ち着いたか?」
「……すんません、お世話になります」
「構わないよ。どうせ子供の使ってない部屋が一部屋余っていたから」
「ごめんなさいね、狭いところで。……自分ちだと思ってくれて構わないから」
お世話になった警察官――橘さん夫妻はあの村のことを知っているようだ。
こぢんまりとした民家のリビング、しっかりと戸締りを確認した橘さんは俺を呼び、声を顰めた。
「悪いことは言わない。……もうあの村と関わらない方がいい」
「……」
「本来なら、あの村に入るための道は通行止めされている。ゲートを潜らなければならないんだが、そこには村の管理者の許可がなければ通行することは不可能なんだ」
「……どういうことっすか、それ」
「つまりだ、……通常ならば簡単に出入りすることはできないということだ」
「…………」
「君の話を聞くに、君は助けられたんだろう。それも、あのゲートを開くことができる相手に。……それは奇跡に等しいことだ」
新しい入村者か月一の業者を受け入れる時くらいしか開くことがないゲート。閉塞的な特有のコミュニティや世間とのズレもそのせいか。
「じゃあ、家族のことを諦めろと?」
「……君は、『スウイ会』を知ってるか?」
その名前を口にした瞬間、脳の奥が痺れる。
俺はその名前を知っている。――そうだ、永良を探しているときに見つけたあの建物。
村の片隅に佇むあの異質な建物の看板に『スウイ会』と書かれていた。
「あの村はただの村じゃない。スウイ会の総本山だ」
スウイ会は一種のカルト集団らしい。
信者は家族同然であり、助け合わなければならない。幸福を分け与え、分かち合う。もし誤ったことをしている者がいれば救い、時には痛み分けをする。それが一心同体であり家族である。孤独の人間に絆と温もりを思い出させ、一人一人を救うための団体――それがスウイ会の教えだという。
全国各地にひっそりと、確かに信者を増やしていき、近年ではスウイ会の一部の信者が暴れることもあったという。
それもあり、肩身が狭くなった穏健派の信者はスウイ会総本山があるこの近隣に特に集まっているのだと言う。
「あの村の人間は全員がスウイ会の者だということはこの辺の人間ならば大体知っている。入村許可をもらえるのは貢献度の高い信者のみだ。恐らく君の話を聞くにご両親は熱心な信者だった可能性も高い」
「……っ、そんな話、一言も聞いたことなかった」
しかも、人との繋がり?絆?
馬鹿馬鹿しい。そう思うと同時に俺が信用していないから言わなかったのか、という考えが頭を過ぎる。
孤独感を与えていた?そんなわけがない、と言い切りたいのに、どうしても入村時の手荷物検査の時の両親の従順さが引っかかった。
「わかるよ、気持ちは。私たちもそうだった」
「え……」
「私の息子も信者だったんだ」
「気づいた時には荷物をまとめてあの村へと入村したまま帰ってくることはなかった」橘さんの声のトーンが落ちる。その目が僅かに潤んでいた。
「何度も連れ戻そうとしたが――無駄だった。さっきも言っただろう、スウイ会の教えを」
「幸福がなんちゃら……ってやつですか?」
「ああ、そうだ。スウイ会は分け合うのは幸福だけではない。……一人の信者が粗相した場合、それを複数で痛み分けをすることになる」
「――え」
「私が警察に訴え、それでも動かない上に痺れを切らして殴り込みに行った時――どこにも息子の姿はなかった」
「……」
「犯罪集団なのに何故警察が動けないか、と思うだろう? やつらはなんでもする。どこに紛れ込んでどこから聞き耳を立てているかも分からない。……だから、もし。もし君が派手に動けば今度こそ君の家族の身に危険が及ぶ可能性がある」
考えたくもなかった。なにも。
俺が家族を探したせいで余計酷い目に遭ってるのではないかと思うと眩暈がした。
「……悪いことは言わない。無事を願うんだ」
「……」
「少なくとも、ご両親はあの村がなんなのかを知っていた。そして受け入れた。――そう考えれば君も楽になるはずだ」
「……」
頭の中に思い浮かぶのは家族――そして永良の顔だった。
あいつはどこまで知っていたのか。
ただの村長だと思っていたが、橘さんの話が本当だとすればあの村全体が信者の集まりで、その長ということは。
「あの、橘さん」
「どうしたんだい?」
「スウイ会の偉い奴って――教祖って、誰ですか」
「……あそこは世襲制だったはずだ。名前は確か――嘉瑞だ」
俺はただ目を瞑った。
あの村に足を踏み入れた時点できっと、俺たちはどうにもなることはなかったのだろう。
そして、恐らくそれはあいつも同じだったのかもしれない。
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