親友がカルト因習村村長の息子だった話。

田原摩耶

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 暗坂とは定期的に会い、酔い潰し、教団内部上層部の様子を探り入れる。
 けれど流石に現教祖の容態までは漏らしはしなかった。

 それからまた月日は経つ。
 二十歳の誕生日を迎える。成人式には出なかった。
 本当は家に帰って養父たちに顔を見せたかったが、区長となった今あまり身割れされることは避けたかった。
 代わりに電話した。養父は俺の様子からなにか察したのだろう。

「何か無茶な真似をしていないか?」
「心配しないで大丈夫だ、無茶はしない」
「私達は今、君が居るだけでも十分だ。それだけは分かってくれ」
「ああ、わかってるよ」

 現役の警察の勘、というやつなのか。
 それとも捜査中になにか聞いたのか。
 それでも無理に引き止めてこないのは恐らく養父自身にも身に覚えがあるからなのだろう。

 養父たちとの通話を終え、狭い自室の中横になる。

 あいつも二十歳の誕生日を迎えた頃だろう。
 今思えば俺はあいつの誕生日も本人の口から聞いたことはなかった。

 くだらない話はたくさんしたのに、あいつは自分の家族の話をしなかった。
 親父の話どころか母親の話も聞いたこともない。
 だから、聞かなかった。興味もなかった。
 あいつがどこの誰で何者だろうが、俺たちは友達になれた。

 あいつの振る舞いは頭に来たが、どうしてもずっと小骨のように喉に引っかかっていた。
 あいつも俺と同じことを考えているのではないかと。
 それを期待して俺をあの村から放り出したのではないかと。

 ……流石に自惚れか。

「……寝るか」

 明日朝から新しい入信希望者の審査をする必要がある。
 くだらねえ、全部。この教団に身を置いてから、こんなにも他人を求める連中が多いことに慄いた。

 その度に『血の繋がっただけの他人』と家族を腐した次期教祖様の顔が浮かんではすぐにどろりと睡魔で溶けていく。意識は底へ落ちていった。


 ◆ ◆ ◆


 熱心な区長として面倒くさい信者管理をしたりノルマ回収をこなしている頃だった。
 知人の信者から連絡が来た。

 カズイ様が還られた。
 そして、近々世代交代が行われると。

 別にどこの誰かも知らん爺さんが死んだところで悲しくもないが、取り敢えず適当に電話口で泣き真似をした。
 その連絡切った後、他にも複数の信者たちから悲しみのメッセージやら通話がかかってくる。
 面倒なのでいつもの集会場に暇で凹んでる区内の信者たちを集めて適当に宥めるついでに情報収集を行い、という任務を一通り終えたあと、俺は暗坂に連絡した。

 葬式はどうなるのか、新たな教祖の顔見せはいつになるのか。
 教祖になったあいつと会うために探りを入れる。
 暗坂は少し迷った後、「今は総本山の方が慌ただしいから暫くは顔合わせはないだろう」と。
 それから、「自分はまた村に戻らなければならないので暫く会えないだろう」とも。
 ただの帰省とは訳が違いそうだ。けれど、直感した。
 何かあるのだろう、と。

「なら、俺も手伝いますよ」
『……え?』
「村で暮らす方々ほど熱心な信者の方が多いんですよね? 今頃たくさんの方々が悲しまれてるのではないですか?」
『そう、だね。あの村はご年配の方も多い。先代からの熱心な信者の方もいるし、けど――』
「俺なら問題ないです。それに、近くで幹部様のお仕事をお手伝いしたいので。……若輩者の俺はこれくらいでしか貢献することはできませんので」
『そ、そんなことないよ。僕は君に助けられて――ああ、いや、そうだね。わかった、じゃあ上には僕から口添えしておくよ。……僕も世代交代を体験するのは初めてで不安だったんだ。君がいてくれて嬉しいよ』

 ぐす、と端末の向こうから鼻を啜るのが聞こえてきた。
 どいつもこいつもお優しいやつらばかりだ。俺も適当に鼻を啜りながら通話を終える。

 あとは数日後、暗坂の連絡を待つだけだ。

「……」

 またあの村に行くのか。
 下手をすればまた二度と戻れなくなるのではないか。
 いや、それだけはダメだ。……あってはならないことだ。

 全てが解決してから養父たちの元へ顔を出そうと思った。
 けれど、もしものことを考えるとどうしても手の平が熱くなる。指先が痺れ、無意識に拳を握り締めていた。

 ――少し、だけ。
 顔を出すくらいなら、許されるか。

 駄目だ。巻き込むのは。
 全てが終わった時、会いに行こう。
 正々堂々表玄関から潜って、ただいまを言えればいい。

 迷いを断ち切り、代わりに俺は手元の手帳を開いた。
 もし、万が一自分の身に何かがあった時のために遺書を書く。
 養父と養母への感謝を綴り、人目に付きにくいように机の引き出しの中にその手帳ごと放り込んだ。

 窓の外では緩やかに日常が回っている。
 俺の恐怖も覚悟も全部素知らぬ顔をして隣人たちは穏やかに笑い合っていた。
 そんな時間が、今はなぜだか愛しく思えた。

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