尻軽男は愛されたい

田原摩耶

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メンヘラ

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「お手手繋いじゃって、すっかり仲良しじゃん」

 追いかければまだ追い付ける距離にも関わらず、多治見は俺たちを追いかけるわけでもなく壁に凭れ掛かり、笑いかけてくる。
「やだな、先輩と此花先輩ほどじゃないですよ」なんて俺のお世辞にも反応するわけでもなく、ただじっとこちらを見てくるその様は不気味以外なんと言うべきか。
 俺はやすくんをそっと自分の元へと手繰り寄せ、背に隠した。振れたやすくんの体は僅かに震えてる。まあ、そりゃそうなる。

 どうやら、多治見は自分のと仲間には散々走り回させておいて自分は動くつもりはないらしい。
 どこまでも見下げた態度が気に食わないが、追いかけてこないなら寧ろ好都合だ。
 仲良くお話してる内にやつの味方がやってきても厄介だ。俺はやすくんに「行くよ」と耳打ちをし、そのまま昇降口を飛び出した。多治見はとうとう最後までこちらを見てくるだけで追いかけてくる素振りすら見せなかった。




「は……っ、なに、なんであいつ追いかけてこないの? 逆にこえー」
「あの人は……ぜぇ……っ、大体そうなんです。動くのとか、激しい運動とか嫌いらしくて」
「嫌いそ~」
「あの、これ、どこまで……っ」

 校門から飛び出して数分、後ろを気をつけつつ走り抜けているとやすくんのスピードが下がってきた。ぜえぜえと苦しげに必死にしがみついてくるやすくんに「もーちょい、がんばれ」と俺の有難いエールを送ることにした。
 その効果かどうかは知らないがやすくんは弱音を吐かずにペースを上げてくる。これなら俺が引っ張り上げる必要もないだろう、そう手を離そうとしたらそのまま転びそうになったので結局引っ張っていくことになった。

 そのまままあまあ広い公園までやってきた俺たち。生い茂った木が生え散らかされたそこは外から中の様子が見えにくい。一応入り口から中へと覗き込んでみれば、派手な連中はいない。
 ここで七緒と落ち合うことになっていたが――見たところ七緒はまだ来ていないようだ。

「ここって……」
「お疲れ、やすくん。ちょっと休んでいく?」
「え、でも……」

 もし追っ手がきたら、と言いたいのだろう。
 派手な見た目も厳つめのピアスも相俟って、やすくんの情けない顔はなんだか浮いて見える。いや、ピアスがだろうか。どっちもか。
「中いなそうだから大丈夫だよ」とやすくんを安心させ、俺はそのまま公園の敷地内へとやすくんを連れていくことにした。

 俺とやすくんはそのままの足取りで公園内へと移動し、遊具が集まる広場のその奥――並んだベンチへと腰を下ろす。

 公園には人気はなく、うちの学校の校庭で体育の授業受けているであろう声が聞こえてくる程だった。
 この時間帯にも関わらず人一人もいない公園というのは少し寂しいものがある。
 というのもこの公園、うちの生徒がここを溜まり場に使って騒いでいるせいでご近所からの評判が悪く、近所の学校でもあまり近づくなと注意喚起が回るほどだった。
 まあ、そのお陰で今こうして周りの目を気にせずにゆっくりできるわけなのだけれど。

「さっきは助けてくれてありがとう」

 ベンチに並んで座って十五秒、謎の沈黙の後恐る恐る絞り出すやすくんに思わず「助けた?」と目を向けた。

「やすくんが勝手について来たんでしょ」
「……まあ、それはそうだけど」

 お礼を言っただけなのに言い返されるとは思わなかったのだろう。「でも、助かった」と顔をうつ向かせるやすくんに、俺は「どういたしまして」とだけ返す。
 なんだかむず痒いが、悪い気はしない。ますますやすくん、あいつらと連んでる理由が謎になる。まあ、好きで仲良くしてるわけでもなさそうだけど。

「そういや……えーと、君って多治見先輩の知り合い?」
「さあ、しらね」
「いや、でも……」

 どうやらやすくんは言いたいことがあるようだったが、やがて諦めたように「そっか」と小さく頷いた。

 元々共通点もなく、つい先程知り合ったばかりの赤の他人同士な俺たちの間に弾むようなトークが繰り広げられるわけはなかった。
 暫くもしないうちに沈黙が流れる。なんともそわそわ膝を揉むやすくんをチラ見しつつ、俺は公園入り口の出入りを観察する。

 ……七緒のやつ、おっせーな。
 そんなことを思った矢先、公園入り口に人影が現れた。
 あの伸びた派手な頭とデカい影――七緒だ。その手には俺の鞄をしっかりと抱き抱えており、公園奥にいる俺を見つけるなりそれを大きく掲げる。

「大ちゃん、もって来たよー!」

 声でっか。
 ご近所さんのところに響き渡りそうなほどの声量で人を呼ぶ七緒だったが、それも一瞬。

「……誰?」

 俺の隣にいるやすくんを見つけるなり、その表情からニコニコ笑顔は吹き飛んだ。
 本当分かりやすいやつで助かる。

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