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メンヘラ
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しおりを挟む面倒くさそうな気配を察知しつつ、俺は七緒の元へと歩み寄る。
駆け寄ってくる七緒を両手を広げて迎えれば、七緒は見えない尻尾をぶんぶん振り回しながら俺へと飛びついた。そう、揶揄ではなく飛びついてきた。俺の足腰鍛えてなかったらぜってー転んで後頭部いかれてた。
「おーよしよし七緒、えらいぞ~。ハグしてやる」
「えへへ、ちゅーもして~! ……じゃなくて! 誰なの、あの人」
擦り寄ってくる七緒をハグして有耶無耶にしようと思ったが、俺が思っていたよりも七緒はチョロくはなかったらしい。残念だ。
じろ、とベンチに腰をかけたままのやすくんを睨む七緒。敵意を隠そうともしない。
誰なのと言われれば寧ろ俺が聞きたいくらいだけど。
「んー、俺にもよくわかんねえ。ちょっと色々あってさ」
「色々?」
「そ、色々」
「また隠し事~? 俺、そういうの悲しいなあ」
「七緒が心配なんだって。お前を巻き込みたくないから」
「えーっ、なにそれ。好き……大ちゃん優しい。俺のことそんな風に思ってくれてたんだね」
嬉しい嬉しい、と鼻先ぐりぐり頭部に押しつけて喜びを全身で現してくる七緒。やっぱチョロかったわ、こいつ。
ここまでだと悪い大人に騙されないか心配になるが、七緒だしな。なんて思いつつ七緒の頭を撫でているとやすくんがものすごい気まずそうな顔をしているのが見えた。
普段周りも慣れてるので一々言われはしなかったが、そうか。一応これが初見のリアクションなのか。
背中にくっついてくる七緒を引きずったまま、俺はやすくんに目を向けた。
「じゃあやすくん、俺らもう行くから」
「え? ちょっと待ってよ。じゃあ俺、これからどうすれば……」
「さあ? 好きにしたらいいんじゃない?」
その口ぶりだとこの先もついてくるつもりだったのだろうか。それもそれで楽しそうではあるが、七緒を呼んだ時点で選択肢は限られてくる。
「そーだそーだ!」と背後からやすくんを威嚇してる七緒をやんわりと宥めつつ、やすくんに視線を投げかけた。情けない顔が益々弱々しく見えた。
「好きにって……」
「俺がやすくんなら多治見の熱が冷めるまで学校行かねーけど」
「まあ、俺はやすくんじゃないからなあ」やすくんがあまりにも情けない顔をするもんだから、つい余計な一言まで添えてしまう。
口にしてから余計なお世話だったかな、と思ったが、やすくんはやすくんで何か考えているようだ。
ここから先は本人の好きにさせていいだろう。あと、ここに長居してたら多治見の追っ手が来そうだし。
「七緒、行くぞ」
やすくんと話してる時だけ分かりやすく不貞腐れた顔をしていた七緒だったが、声をかければ「うんっ」と嬉しそうにまた腕を組んでくる。
こいつの場合図体がでかいのでそうされると俺がやや傾いてることに気付いているのだろうか。気付いてなさそうだな。
俺はやすくんに手だけ振って、そのまま七緒を引き摺りつつその場を後にする。
――住宅街、公園前。
「いまからどこ行くの?」
「疲れたから休みてえんだよな」
「じゃあ俺んちきなよ」
「七緒んち? 近いの?」
「ここからそう遠くないよ」
そう、七緒は嬉しそうに破顔する。
俺が食いついてきたのがそんなに嬉しかったらしい。先程よりもやや饒舌な七緒に「七緒んちかぁ」と考える。
やることはやっていた俺たちだが、お互いのパーソナルスペースに踏み入れることはなかった。
ってのも、七緒の性格上あまり距離感を計り間違えると事故り兼ねないというのが目に見えていたからだ。
けど、今は逆に好都合か。
疲れたし、どっかでゆっくり休みたいってのもあった。
まあ、今回はイレギュラーみたいなもんか。
たまにはこいつの好きにしたってもいい。
普段から隙あらば家来て来てと言っていた七緒のことを思い出しつつ、俺は「そうだな」と頷いた。
「んじゃ、お邪魔しようかな」
「ほんとっ?」
「お前から誘って来たんじゃん。やっぱなしとかいうなよ」
「言わない、寧ろ夢見たい。大ちゃん、いっつも何かと理由つけて俺の家避けてたし」
バレてら。
「だって七緒んち行ったらそのまま一生帰れなさそうだし」
「え? 帰る気だったの?」
「……」
「じょーだんじゃん、待って大ちゃん離れないでっ!」
七緒、お前の冗談は冗談じゃねえんだわ。
あと八割くらいはガチの目をしてただろ。
「……ま、いいや。んじゃ案内頼むわ、七緒」
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