真欺君と普通じゃない人たち

田原摩耶

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真欺君は普通じゃない

01

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 高校に通うため、鮮花さんの家を離れて一人暮らしをすることになった。
 鮮花さんは「好きにしたらいい」とアパートの部屋を用意してくれた。
 その建物の名前は『コーポ・ヘブンリー』。鮮花さんの知り合いが大家さんをしているというアパートだ。
 ぱっと見古そうな風が吹けば壊れそうな建物だったが、内装工事が行われたばかりのようで綺麗で広い。
 因みに前の名前は『天国荘』らしい。鮮花さん曰くリフォームに伴い名前も変えたそうだ。

「小まめに掃除はするんだぞ。俺がいないからと言って食事を適当に済ますなよ」
「気になるなら鮮花さんも来たらいいのに」
「それも考えたが、お前ももう年頃だ。一人の時間は必要だろう?」
「……」

 とかいって、本当は俺が邪魔になっただけではないのか。
 喉まで出かけた言葉を飲み込んで、「分かりました」と頷いた。

 そんな俺を鮮花さんはじっと見て、無言で頭を撫でてくる。

「……なに?」
「多少は可愛げが出てきたなと思ってな」
「それ、多分気のせいかも」
「そうか、気のせいか」

 何故だか嬉しそうに笑って、鮮花さんは俺から手を離した。

 中学の頃から鮮花さんと俺が親子だと聞くと驚かれることが多々あった。
 そりゃあ血が繋がってないというのもあるが、鮮花さん本人にもその原因はあるだろう。
 不気味なほど整った見目は人目を引く。
 けれど、他者を寄せ付けない雰囲気を纏った鮮花さんがこうして俺以外の誰かに触れたり笑ったりしてるのは見たことがない。
 だから、人の目には冷たくて怖い人と映るようだ。
 俺も初めて会った時はそう思ったが、今は違う。
 だらしなくて、子供っぽくて、偉そうで……案外寂しがり屋。
 謎が多い人だし、実際に俺に何か隠してるのも間違いないだろう。けど、別に興味はなかった。
 俺の知ってる鮮花さんが俺にとっては全てだったから、それでよかった。

「鮮花さん」
「おう」
「寂しくなったら、遊びに来ていいから」

 予めもらっていた鍵を渡せば、鮮花さんは「そりゃどうも」と目を細める。それから俺の前髪を掻き分け、額にキスをする。

「お前も、寂しくなったら連絡寄越せよ」
「……多分ないと思うけど」
「そこは嘘でも『わかった』って言うところだぞ」

 今日から一人暮らし。
 今までだって、鮮花さんに引き取られるまでは一人だった。
 別に、不思議なことはない。けれど。



 鮮花さんを見送った後、新しい住居に一人取り残された俺は部屋の片隅に目を向けた。

『寂しくなったら連絡寄越せよ、真欺』

 顔のない子供が体操座りをしたままこちらを見ている。
 俺と鮮花さんのやり取りを見てたのだろう、そればかりを壊れたラジオみたいに繰り返していた。
 それを無視して、俺は寝室へと向かった。

 開いたままの窓の外に黒い影が一つ。先程の顔のない子供がついてきていた。

『寂しいよ、真欺』

 真新しいベッドに横になり、目を瞑る。
 軋むベッド。体が重くなる。多分腹の上にまでやってきたのだろう。ぼそぼそと囁き続ける子供を無視して俺は用意していた耳栓を両耳に嵌めた。


 “変なもの”が見えるようになったのは、物心がついた時だった。
 もっと言うと、鮮花さんに引き取られた後くらいだった気がする。
 鮮花さんの家では見かけない。鮮花さんといるときも。
 けれど、一人になった時や学校に通ってる時は目を瞑っても耳を塞いでも現れる。
 それでも、今はもう慣れてしまった。

 鮮花さんには何度か話したことがあったが、鮮花さんは「賑やかでいいじゃないか」と他人事のように笑っていた。

 だから、俺もそう思うことにした。
 少なくとも、新生活でも寂しいと思うようなことにはならなさそうだな。
 思いながら意識を手放した。






『人が無防備になる瞬間っていつだと思う?』

 頭の中、声が響く。幼い声が。
 どこかで聞いたことのある舌足らずな声。

『正解は、眠ってる間』

 真っ暗だった部屋に光が灯る。
 部屋の中には隙間ない程びっしりと無数の目が浮かんでいた。
 その全ての目が俺を見ていた。

『眠ってる間は体も脳味噌も無防備なんだ。これってどういう意味か君は分かるかな』

 部屋の中、俺は立っていた。
 無数の目に四方八方から見つめられたまま、椅子の上に立っていた。
 目の前にぶら下がっている首吊り縄が催眠術の時に使うコインのようだと思った。


「知らないし、どうでもいい」


 俺は目の前の縄に手をかけ、そのまま頭を潜らせる。
 そのまま椅子を蹴った瞬間、全体重が縄にかかった。そして縄に器官が締め上げられたと同時に俺は目を開いた。

「……」

 窓の外は明るくなっていた。
 先ほどまでいたはずの子供の姿はなくなっていて、その代わり首には何かで締められたような感覚だけが残っていた。


 鮮花さんがいなくなった途端これか。
 けれどここまで分かりやすいと逆に気が楽だった。

 悪夢を見たのは久しぶりだった。
 幼い頃は何かに追われる夢や怖い夢ばかりを見ていた。
 そして、その夢から逃れるために俺は死んでいた。
 そうしなければもっと怖い目に遭うから――そう幼かった頃の俺が学んだ結果だ。

 これが暫く続くとなると億劫だ。
 夢を見ずに済むほど熟睡するのが一番なのだろうが。

 まだぼんやりとした頭のままベッドを降り、俺はシャワーを浴びる。


 今日から学校が始まる。
 鮮花さんのいない生活が。
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