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I will guide you one person
17
今俺に出来ること、それは暫く奈都を一人にすることだった。
それから先を考えたところで問題はいくつもある。
とにかく奈都と話すためには首にぶら下げられた首輪が邪魔でしかなかった。
――屋敷内、自室にて。
「……」
「……」
「……」
上から俺、南波、仲吉である。
空気を読んだらしい南波によってついそのままの足取りで自室に戻って来てしまったものの、あんな状況から楽しげな空気になるはずもなかった。
「やっぱり俺だけでも奈都のところ行こうか?」と何度か仲吉は言っていたが、正直怖いというのが本音だった。
あの取り乱し方と俺に向ける目。俺ならまだしも、本人も仲吉に加害を加えそうだと言っていた。
そんなことがあってはならない。そう俺は仲吉を止め、こうして自室に連れ込んだわけだが……。
気まずい空気の中、先ほどからやたらと仲吉の視線を感じる。
「なんだよ」と聞き返せば、「いや」と歯切れの悪い反応とともに視線を逸らす仲吉。
なんでもないことはないだろう。
「なんだよ」と更に詰め寄れば、彷徨っていた仲吉の視線は再度俺を捉える。
そして、
「……いやお前、なんで首輪つけてんの?」
「……」
……完全に忘れてた。
「なにが……?」
「何がじゃねえって。ほら、これなんかついてるし」
「お前、いきなり引っ張んな……っ!」
「リード?」と不思議そうな顔をして南波が持つリードを掴む仲吉。南波の姿は見えてないのだろう。
ぐっと首が絞められ「んぐっ」と喉から声が漏れた。
「っおいばか! 引っ張るなって……っ!」
「ほら、やっぱり首輪じゃん。……なにこれ? 幽霊になるとこういうのオプションについてくるわけ?」
「テメェ、勝手に触ってくんじゃねえ! 準一さんの許可を得ろ!」
そう慌てて止める南波だが相変わらず仲吉には南波の姿は見えていないようだ。
興味津々になってこちらへと近づいてくる仲吉から逃げようとすれば、ついバランスを崩して尻餅をついた。その側までやってきた仲吉は俺の首に手を伸ばす。
「本物?どういう仕組みだ?」と人の首に断りもなく触れてくる仲吉。その指先がこそばゆくて、俺は慌てて仲吉の手を掴んで止めた。
「……っ、い、イメチェンだよ、ほら、もういいだろ」
「ええ? お前そういう趣味なかったろ」
「ねえよ。色々事情があるんだって、だからもう離れろ。この首輪が外れたら俺がダメージ受ける」
本当は花鶏の悪趣味な戯れなのだが、わざわざ余計なこと言ってそういう類のプレイだとか誤解されたら堪ったものではない。
興味津々のこいつを止めるには適当なことを言うしかなかった。しかしまあ、嘘ではない。俺の趣味でもないのも事実だし、心身ダメージ受けることも事実なのだから。
「ダメージ? 電気が流れるとか?」
そんなものならまだいいんだけどな。
先程の花鶏とのやり取りを思い出してしまい、顔に熱が集まりそうになるのを振り払う。そして「そんなところだ」と俺は適当に誤魔化すことにした。
流石の仲吉でも俺に進んでダメージを与えさせる真似は避けてくれたようだ。「まじか、大変だな」と憐れむような視線ともにやつは再び元の定位置へと座り直す。
「別に、この首輪が外れなかったら支障はねえから大丈夫だ。……動きにくいけど」
「リード持ってんのが南波さん、だっけ? 今ここにいるのか?」
「いる」
なんならお前のこと睨んでる。
そう告げれば、「ふーん」と仲吉は唇を尖らせる。それから「二人きりじゃねえのか」とも漏らした。
南波さんはキレると暴走しがちだが、他の連中に比べるとまだ比較的穏健派なだけいいだろう。
いや、穏健派というか幸喜に対する感情が同じと言うか敵の敵は味方みたいなそういう感じだ。だから仲吉と一緒にいても大丈夫だろうという謎の安心感はあった。
「それより、仲吉お前いつまでここにいるつもりだよ」
首に絡み付く首輪のベルトを調節しながら、俺は窓へと目を向ける。
先程まで塗り潰したような黒が広がっていた空は僅かながら明るくなっていた。つられて窓を覗き込んだ仲吉はそのまま「もうこんな時間か」と小さく伸びをする。
「いやさ、実は旅館の門限ギリギリでこっちまで来ちゃったからどうせ今戻っても六時になるまで入れないんだよね」
「じゃあ車で寝たらいいだろ」
「もし車場荒らしとかいたらこえーじゃん」
オカルトグッズで溢れたお前の車のがこえーよと言い返したくなるのをぐっと堪え、じとりと窓際に立つ仲吉に目を向けた。そして、徐に仲吉と視線がぶつかった。
その目は何かを期待するようにキラキラと輝いている。
――まさか、こいつ。
「なあなあ準一、六時まででいいからここで休ませ――」
「ダメだ」
「って、即答かよ!」
ほらみろ嫌な予感がしたそばからこれだ。
「んだよ、良いじゃんちょっとくらい」
「明るくなってきたんだから暑くなる前に戻れよ」
「ここ数日課題ほっぽいて色々調べ物してきたお陰で寝れてないんだよ。今車運転したらあぶねえかも。あーあ、もっと明るくなればまた眠気が覚めるんだろうけど」
「……ぐ……」
確かにこいつに頼んだのも、それに応えるためにわざわざ夜間車を走らせたのも仲吉だ。
万が一事故ればとなると心配だが、それ以上に恐ろしいやつらがいるこんな屋敷に仲吉を長期滞在させるのは俺も不本意ではない。
恩人であるこいつだからこそ、というのはあるのかもしれない。
「すきま風あるし、お前が寝たら足潰れるようなベッドしかないぞ」
「俺雑魚寝でもいけるの知ってんだろ」
「大体、虫とかどっから涌いてくるかわからないし」
「準一じゃないから俺虫平気だし」
「便所だって古いのやだろ」
「風情と趣があっていいじゃん」
「……」
「んで? 他には?」
なぜか勝ったような顔をして笑ってる仲吉を睨む。
こいつ、人の気もしらないで。
「……俺でも守りきれなかったらどうすんだよ」
「幸喜のことか?」
「そうだよ、あいつは何すんのかわかんねーし……俺だって死んだからって無敵になるわけじゃねえんだぞ」
「んー……でもまあ、そん時はそん時でってことで」
今まで救われてきたやつの楽天的な性格が今では腹立たしくもある。
そう「お前な」と思わず立ち上がった矢先だった。
ふわりと生暖かい風が部屋の中に吹き、その風に混じって甘い香りを感じた。その次の瞬間、気づけば部屋の中には存在しなかったはずのもう一つの影が浮かび上がった。
部屋の中央、俺と仲吉の間に音もなく現れたその男はこちらを振り返り、華のように微笑むのだ。
「おや、いいではありませんか。私は大歓迎ですよ、仲吉さん」
「あとりんさん!」
「ふふ、覚えててくださっていたんですね」
――花鶏。
仲吉にもその姿は見えているらしい。
懐いた犬のように駆け寄る仲吉にニコニコと微笑む花鶏はそのままちらりとこちらに視線を向ける。
挑発するようなその視線に警戒するなという方が難しいだろう。
何を考えているのか、この男は。
「寝床なら私が用意しましょう。ちょうど一台ベッドがあるんですよ」
「それって、前に言ってたオンボロベッドじゃないんすか?」
「ええ、そうですよ。この間いつか使う日が来るかもしれないと思って清掃していたんですよ。南波が」
静かに続ける花鶏に、後方で「あの時はよくもやってくれたな」と南波の唸り声が聞こえた。
また南波さん、コキ使われていたのか。その時の光景が目に浮かぶようだ。
思わぬ花鶏の助け舟に「まじすか」と仲吉は目を輝かせた。
「ほら準一、あとりんさんもこう言ってるじゃん」
「そうですよ、準一さん。一晩くらい良いじゃないですか」
「あなただって本当は嬉しいんでしょう。仲吉さんがいてくださるのが」含み笑いを浮かべる花鶏に、俺は顔が熱くなるのを感じた。
無意識に舌打ちが出る。
「花鶏さんには関係ないでしょう。俺たちの問題に口を挟まないでください」
「そんな寂しいこと言わないでください。せっかく生身のお方と知り合えたんですから色々話を聞きたいんですよ」
「な……」
「まあ、これは私と彼の問題なのですからもちろん貴方は口を挟まないですよね」
先回りをされ釘を刺してくる。
ああ言えばこう言うとはまさにこのことだろう。
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こうしている間にも時間は経過する。
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