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「おーい、準一どうしたんだよ。ぼんやりしちゃってさ」
「い……いや、なんでもない」
「何でもないことはないだろ? あれってなんだよ」
なんでこういう時だけしっかりと人の話聞いてんだよ。
なあなあ!と腕に絡んでくる幸喜。正直、こっちが聞きたいくらいなのだ。
「なんだよ、あっちになんかあるのか?」
すると、人の視線を辿るように共同墓地へと歩いていく幸喜にぎょっとする。
「あ、おい! 戻って来い!」
「なんだよ、もしかして準一ビビってる?」
「ビビってるとかそんなんじゃなくて……」
そもそもまだ俺達は本調子ではないというのに、と続けるよりも先に幸喜はあのぼんやりとした人影に向かって確かに近づいていく。
「っ、おい、幸喜……ッ!」
人の視線と反応を見ながら進んでいく幸喜に肝を冷やす。黒い影まで数メートル先、咄嗟に幸喜を追いかけ、肩を掴んだ。
「んだよ、邪魔すんなよな」
不貞腐れたようにこちらを振り返る幸喜の背後、ゆらりと大きく膨らむ影を見た。
え、と顔を上げる俺の視線に気付いたようだ。幸喜の倍ほどの大きさはあるのではないかという黒い靄のような物体はよく見ると巨大な赤ん坊の顔のように見えた。
開いているのかわからないほど細い目は、目の前の幸喜を見下ろしている。
「ッ、――……!」
「なんだよ、なんかいたか?」
「ば、……ッ、か、早くこっちに来い!」
相変わらず幸喜には背後にいる化け物の姿も見えていないらしい。「あえ?」と間抜けな声を上げる幸喜を無視し、咄嗟に幸喜の腕を掴んだ俺はそのままいち早く共同墓地から離れる。
背後を振り返り、確認するのも恐ろしかった。
「おい準一~! んだよ、いきなり走り出して」
「あ、赤ちゃん……っ」
「赤ちゃん?」
「お前の後ろに、赤ちゃんが……ッ!」
いたんだよ、と腕を掴んだままになってた幸喜の方を振り返ったときだ。「赤ちゃんってなんだよ」と唇を尖らせついてくる幸喜、その右肩に黒い物体が乗ってるのを見て「うお!!」って思わず声に出ていた。生まれたばかりの赤ん坊の頭、その下に繋がった太った芋虫のような体のそれはまるでストールかなにかのように幸喜の肩から首にその胴体を巻きつかせていた。
「こ、幸喜! 幸喜! おい!」
「え、なに、どうしたんだよ急に。こわ」
「いやいる! なんか乗ってるからお前の肩!」
「肩~? まじ? 確かに言われてみればなんかさっきから身体重たい気はしたけど――」
言いながら、幸喜は自分の肩を確認する。が、やはり見えてないようだ。「この辺?」と言いながら自分の肩に乗った虫を払うような素振りで手を振る幸喜。丁度赤ん坊の眼前にその幸喜の手が近付いた瞬間だった。青白い赤ん坊の口が大きく開く。そして、次の瞬間幸喜の手に食らいついたのだ。
「あ」
「え」
薄暗い樹海の中に、ぼぎりと枝を折るような音が響いた。それが骨を砕く音だと気付いたのは、そこにあるはずの幸喜の右手が手首の上から綺麗に消えていたからだ。
そして、それは幸喜も見えていたらしい。出血もなく、ただ消えている。
ぴたりと立ち止まる幸喜の肩の上、ぐちゃぐちゃと頬を膨らませ幸喜の右手を咀嚼していたその赤ん坊のサイズが一回り大きくなっていくのを見た。
「こ、うき」
「んー? あれ、もしかしてこれってまじ? 準一の幻覚とかじゃなくて?」
「だから、ちげえって――」
言ってんだろ、と言いかけたとき。水膨れのように膨張した赤ん坊が今度は幸喜の頭に狙いを定めているのを見て、言葉を飲んだ。
幸喜を説得するよりも、この化け物の食事を止めるのが先決だと判断する。
「っ、幸喜、頭下げろ!」
これがただの俺の幻覚ではないと分かった以上、見過ごすわけにはいかない。
足元に転がっていた手頃な石を拾い上げ、俺は思いっきり化け物の口目掛けてぶん投げた。そして、見事的中する。
大きくバランスを崩したその化け物はそのまま幸喜の肩から落ち、そのままぼてりと地面に転がった。
「うお、なんか急に頭が軽くなった気が」
「幸喜、こっちだ!」
今のうちに逃げるしかない。バリバリと岩にかじりついている化け物を一瞥し、そのまま幸喜の左手を掴んだ俺は急いでその場から逃げ出した。
俺の気のせいでもなんでもないとようやくわかったようだ、今度は幸喜も素直についてきてくれた。
「い……いや、なんでもない」
「何でもないことはないだろ? あれってなんだよ」
なんでこういう時だけしっかりと人の話聞いてんだよ。
なあなあ!と腕に絡んでくる幸喜。正直、こっちが聞きたいくらいなのだ。
「なんだよ、あっちになんかあるのか?」
すると、人の視線を辿るように共同墓地へと歩いていく幸喜にぎょっとする。
「あ、おい! 戻って来い!」
「なんだよ、もしかして準一ビビってる?」
「ビビってるとかそんなんじゃなくて……」
そもそもまだ俺達は本調子ではないというのに、と続けるよりも先に幸喜はあのぼんやりとした人影に向かって確かに近づいていく。
「っ、おい、幸喜……ッ!」
人の視線と反応を見ながら進んでいく幸喜に肝を冷やす。黒い影まで数メートル先、咄嗟に幸喜を追いかけ、肩を掴んだ。
「んだよ、邪魔すんなよな」
不貞腐れたようにこちらを振り返る幸喜の背後、ゆらりと大きく膨らむ影を見た。
え、と顔を上げる俺の視線に気付いたようだ。幸喜の倍ほどの大きさはあるのではないかという黒い靄のような物体はよく見ると巨大な赤ん坊の顔のように見えた。
開いているのかわからないほど細い目は、目の前の幸喜を見下ろしている。
「ッ、――……!」
「なんだよ、なんかいたか?」
「ば、……ッ、か、早くこっちに来い!」
相変わらず幸喜には背後にいる化け物の姿も見えていないらしい。「あえ?」と間抜けな声を上げる幸喜を無視し、咄嗟に幸喜の腕を掴んだ俺はそのままいち早く共同墓地から離れる。
背後を振り返り、確認するのも恐ろしかった。
「おい準一~! んだよ、いきなり走り出して」
「あ、赤ちゃん……っ」
「赤ちゃん?」
「お前の後ろに、赤ちゃんが……ッ!」
いたんだよ、と腕を掴んだままになってた幸喜の方を振り返ったときだ。「赤ちゃんってなんだよ」と唇を尖らせついてくる幸喜、その右肩に黒い物体が乗ってるのを見て「うお!!」って思わず声に出ていた。生まれたばかりの赤ん坊の頭、その下に繋がった太った芋虫のような体のそれはまるでストールかなにかのように幸喜の肩から首にその胴体を巻きつかせていた。
「こ、幸喜! 幸喜! おい!」
「え、なに、どうしたんだよ急に。こわ」
「いやいる! なんか乗ってるからお前の肩!」
「肩~? まじ? 確かに言われてみればなんかさっきから身体重たい気はしたけど――」
言いながら、幸喜は自分の肩を確認する。が、やはり見えてないようだ。「この辺?」と言いながら自分の肩に乗った虫を払うような素振りで手を振る幸喜。丁度赤ん坊の眼前にその幸喜の手が近付いた瞬間だった。青白い赤ん坊の口が大きく開く。そして、次の瞬間幸喜の手に食らいついたのだ。
「あ」
「え」
薄暗い樹海の中に、ぼぎりと枝を折るような音が響いた。それが骨を砕く音だと気付いたのは、そこにあるはずの幸喜の右手が手首の上から綺麗に消えていたからだ。
そして、それは幸喜も見えていたらしい。出血もなく、ただ消えている。
ぴたりと立ち止まる幸喜の肩の上、ぐちゃぐちゃと頬を膨らませ幸喜の右手を咀嚼していたその赤ん坊のサイズが一回り大きくなっていくのを見た。
「こ、うき」
「んー? あれ、もしかしてこれってまじ? 準一の幻覚とかじゃなくて?」
「だから、ちげえって――」
言ってんだろ、と言いかけたとき。水膨れのように膨張した赤ん坊が今度は幸喜の頭に狙いを定めているのを見て、言葉を飲んだ。
幸喜を説得するよりも、この化け物の食事を止めるのが先決だと判断する。
「っ、幸喜、頭下げろ!」
これがただの俺の幻覚ではないと分かった以上、見過ごすわけにはいかない。
足元に転がっていた手頃な石を拾い上げ、俺は思いっきり化け物の口目掛けてぶん投げた。そして、見事的中する。
大きくバランスを崩したその化け物はそのまま幸喜の肩から落ち、そのままぼてりと地面に転がった。
「うお、なんか急に頭が軽くなった気が」
「幸喜、こっちだ!」
今のうちに逃げるしかない。バリバリと岩にかじりついている化け物を一瞥し、そのまま幸喜の左手を掴んだ俺は急いでその場から逃げ出した。
俺の気のせいでもなんでもないとようやくわかったようだ、今度は幸喜も素直についてきてくれた。
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