112 / 128
No Title
28
しおりを挟む
花鶏から解放されたあと、意識を丸ごと放り投げだされたかのような感覚とともに俺は目を覚ました。視界いっぱいに広がるのは空を覆い隠すように連なった木々。
それから――。
「あ、起きた」
にゅっと視界の端から顔を覗かせた幸喜に一瞬驚きにあまり思考停止しそうになったが、すぐに自分たちが置かれた状況のことを思い出した。
そうだ、俺、こいつと行動してんだった。
辺りは先ほどと変わらず樹海が広がっており、どうやら俺はその地面の上に転がされていたらしい。気怠い体を起こせば、なあなあと幸喜が群がってくる。
「どうだった? りんたろーは元気だった?」と興味津々になってこちらを覗き込んでくる幸喜。その近さにうっとなりつつ、俺は言葉を探した。
が、言葉の選びようがない。
「……凛太郎とは会えなかった」
「会えなかった?」
「――代わりに、花鶏さんが出てきた」
そうとしか言えない。
そんな俺の言葉に驚くわけでもなく、「ふーん、良かったじゃん」と相変わらず他人事のように応える幸喜に「お前な」と思わず突っ込みそうになる。……いや、待て。確かに手間が省けたという分にはラッキーだったのだろうか。
「で、花鶏さんはなんて?」
「なんか、……よくわからなかった」
「まああの人がよくわかんねーのはいつものことだしな」
「……幸喜、お前は……」
「ん?」
「…………いや、」
寧ろ、一緒にいたのが幸喜で良かったのかもしれないとすら考え始めている自分に苦笑してしまう。
俺に足りないのは楽観的思考、まあ早い話ポジティブさだ。ようやく亡霊という体にも慣れてきたというところ、ここにきて色々おかしな目に遭って不安定になっていた俺にとって幸喜の言葉に肩から力が抜けそうになる。
「花鶏さん自身、この樹海で何が起きてるかわかんねえってさ。……多分、屋敷の方がなにか関係してるのかもな」
「だから地上もめちゃくちゃになってきてるってわけだ。丁度飽きてきてたから丁度いいじゃん、スリルがあってさ」
「一応お前も死にかけてんだけどな」
「そんときはそんときだろ、現に俺は残ってんだし」
「……」
こういうやつが長生き(死んでるけど)するんだろうなと思いながら、先程のやり取りで花鶏が気になることを言っていたのを思い出す。
俺が花鶏を助ける理由がどうたらこうたら、とあの人は言っていた。
「……そういえば、俺が花鶏さんのところに言ってた間、なにか変わったことはなかったか?」
「変わったこと? ああ、そういやさっきの化け物が来てたな」
「……えっ? こ、この辺にか?」
大丈夫なのかそれ。というかそういうことは先に言ってくれ。とか、あとせめて場所をもっと木陰とか身を隠せる場所に移動するとかしてくれ。だとか、つられて辺りを見渡しだが、今のところはその影は見当たらない。一先ずほっとする。
「大丈夫大丈夫。どっか飛んで行ったから」
「ああ、そうか……。って、待てよ、飛んで行ったって……」
先程の花鶏の言葉からしてみれば、あの化け物も花鶏の精神が作り出したものの一部ということになる。だとすればだ、あの化け物たちが彷徨うのは俺達の生気を匂いにしてるというわけで――。
「……っ、幸喜、その飛んで行った先ってわかるか?」
「えー? 急に言われてもなあ、どうだっけ?」
「思い出せよ、もしかしたら――」
もしかしたら、この樹海のどこかに俺達よりも生気のある誰かがいるかもしれない。
そう幸喜を問い詰めようとしたときだった。
どこからともなく悲鳴が聞こえてきた。
聞き慣れた南波の悲鳴とは違う、――男の悲鳴だ。何故、誰だ。とか考えるよりも先に体が動いていた。声のする方向へと向かって駆け出せば、そのままずしりと背中になにかがのしかかってきた。
「なーなー、どこいくの?」
「なっ、おい……っ! 自分で走れよ!」
「俺もついてくっ」
「だったら、自分の脚で……くそ!」
こんなやり取りして無駄に体力削っている場合ではない。諦めた俺はおんぶされたがる幸喜を背中に乗せたまま悲鳴のする方へと向かった。
昼なのか朝なのか分からない樹海の奥、俺はすぐに悲鳴の主を見つけることになった。
「あ、れは……」
くっきりと色濃く浮かんだ影。そして、その人物は坂から足を滑らせたようだ。幸い背負っていたリュックがクッションになったらしい。落ち葉のマットの上、呻いてるそいつを見て俺は目を疑った。
名前は忘れたが、あの顔には見覚えがあった。
確か、最初に仲吉が連れてきた集団の中にいた内の一人だ。
もしかして化け物に襲われたのだろうかと危惧したが、見たところ一人のようだ。足を滑らせただけならばよかった、と安心したのもつかの間か。坂の上、落ちた青年を覗き込むように巨大な影が動くのを見て血の気が引いた。
「危ない……っ!」
「え」
隠れなきゃ、だとか行ってる場合ではない。そいつの腕を掴み、立ち上がらせる。何事かとぎょっとしたその青年を引っ張り、その場から駆け出した。
「あ、あの……っ! 貴方は……」
「説明は後からするから……取り敢えず、逃げるぞ!」
「頑張れ頑張れ」と背中に乗ったままエールを送ってくる幸喜を無視し、俺は青年の手を掴んだままその場を離れることにした。
それから――。
「あ、起きた」
にゅっと視界の端から顔を覗かせた幸喜に一瞬驚きにあまり思考停止しそうになったが、すぐに自分たちが置かれた状況のことを思い出した。
そうだ、俺、こいつと行動してんだった。
辺りは先ほどと変わらず樹海が広がっており、どうやら俺はその地面の上に転がされていたらしい。気怠い体を起こせば、なあなあと幸喜が群がってくる。
「どうだった? りんたろーは元気だった?」と興味津々になってこちらを覗き込んでくる幸喜。その近さにうっとなりつつ、俺は言葉を探した。
が、言葉の選びようがない。
「……凛太郎とは会えなかった」
「会えなかった?」
「――代わりに、花鶏さんが出てきた」
そうとしか言えない。
そんな俺の言葉に驚くわけでもなく、「ふーん、良かったじゃん」と相変わらず他人事のように応える幸喜に「お前な」と思わず突っ込みそうになる。……いや、待て。確かに手間が省けたという分にはラッキーだったのだろうか。
「で、花鶏さんはなんて?」
「なんか、……よくわからなかった」
「まああの人がよくわかんねーのはいつものことだしな」
「……幸喜、お前は……」
「ん?」
「…………いや、」
寧ろ、一緒にいたのが幸喜で良かったのかもしれないとすら考え始めている自分に苦笑してしまう。
俺に足りないのは楽観的思考、まあ早い話ポジティブさだ。ようやく亡霊という体にも慣れてきたというところ、ここにきて色々おかしな目に遭って不安定になっていた俺にとって幸喜の言葉に肩から力が抜けそうになる。
「花鶏さん自身、この樹海で何が起きてるかわかんねえってさ。……多分、屋敷の方がなにか関係してるのかもな」
「だから地上もめちゃくちゃになってきてるってわけだ。丁度飽きてきてたから丁度いいじゃん、スリルがあってさ」
「一応お前も死にかけてんだけどな」
「そんときはそんときだろ、現に俺は残ってんだし」
「……」
こういうやつが長生き(死んでるけど)するんだろうなと思いながら、先程のやり取りで花鶏が気になることを言っていたのを思い出す。
俺が花鶏を助ける理由がどうたらこうたら、とあの人は言っていた。
「……そういえば、俺が花鶏さんのところに言ってた間、なにか変わったことはなかったか?」
「変わったこと? ああ、そういやさっきの化け物が来てたな」
「……えっ? こ、この辺にか?」
大丈夫なのかそれ。というかそういうことは先に言ってくれ。とか、あとせめて場所をもっと木陰とか身を隠せる場所に移動するとかしてくれ。だとか、つられて辺りを見渡しだが、今のところはその影は見当たらない。一先ずほっとする。
「大丈夫大丈夫。どっか飛んで行ったから」
「ああ、そうか……。って、待てよ、飛んで行ったって……」
先程の花鶏の言葉からしてみれば、あの化け物も花鶏の精神が作り出したものの一部ということになる。だとすればだ、あの化け物たちが彷徨うのは俺達の生気を匂いにしてるというわけで――。
「……っ、幸喜、その飛んで行った先ってわかるか?」
「えー? 急に言われてもなあ、どうだっけ?」
「思い出せよ、もしかしたら――」
もしかしたら、この樹海のどこかに俺達よりも生気のある誰かがいるかもしれない。
そう幸喜を問い詰めようとしたときだった。
どこからともなく悲鳴が聞こえてきた。
聞き慣れた南波の悲鳴とは違う、――男の悲鳴だ。何故、誰だ。とか考えるよりも先に体が動いていた。声のする方向へと向かって駆け出せば、そのままずしりと背中になにかがのしかかってきた。
「なーなー、どこいくの?」
「なっ、おい……っ! 自分で走れよ!」
「俺もついてくっ」
「だったら、自分の脚で……くそ!」
こんなやり取りして無駄に体力削っている場合ではない。諦めた俺はおんぶされたがる幸喜を背中に乗せたまま悲鳴のする方へと向かった。
昼なのか朝なのか分からない樹海の奥、俺はすぐに悲鳴の主を見つけることになった。
「あ、れは……」
くっきりと色濃く浮かんだ影。そして、その人物は坂から足を滑らせたようだ。幸い背負っていたリュックがクッションになったらしい。落ち葉のマットの上、呻いてるそいつを見て俺は目を疑った。
名前は忘れたが、あの顔には見覚えがあった。
確か、最初に仲吉が連れてきた集団の中にいた内の一人だ。
もしかして化け物に襲われたのだろうかと危惧したが、見たところ一人のようだ。足を滑らせただけならばよかった、と安心したのもつかの間か。坂の上、落ちた青年を覗き込むように巨大な影が動くのを見て血の気が引いた。
「危ない……っ!」
「え」
隠れなきゃ、だとか行ってる場合ではない。そいつの腕を掴み、立ち上がらせる。何事かとぎょっとしたその青年を引っ張り、その場から駆け出した。
「あ、あの……っ! 貴方は……」
「説明は後からするから……取り敢えず、逃げるぞ!」
「頑張れ頑張れ」と背中に乗ったままエールを送ってくる幸喜を無視し、俺は青年の手を掴んだままその場を離れることにした。
40
あなたにおすすめの小説
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい
椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。
その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。
婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!!
婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。
攻めズ
ノーマルなクール王子
ドMぶりっ子
ドS従者
×
Sムーブに悩むツッコミぼっち受け
作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが
松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。
ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。
あの日までは。
気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。
(無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!)
その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。
元日本人女性の異世界生活は如何に?
※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。
5月23日から毎日、昼12時更新します。
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~
無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。
自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる