亡霊が思うには、

田原摩耶

文字の大きさ
113 / 128
No Title

29

 どれくらい走っただろうか、ここまでくれば多少は……大丈夫だろうか。
 息を整えながらも周辺を見渡す。
 そもそももうこの樹海自体安全な場所ではない、化け物がいなくなっただけでもよしとしよう。
 そう俺は青年を見た。
 ぜえぜえと息を切らし、汗だくになっていたその青年は「はは」と笑う。

「……なに、笑ってんだよ」
「貴方、準一さん、ですよね。爽先輩のお友達の」
「お前は……」
「あ、僕は紀野きの佑太です。先輩にはよくお世話になってます」

 どうも~と呑気に頭を下げてくるそいつにただ驚いた。
 無論俺を認識してることも、それでいて当たり前のよう俺を受け入れてること――そしてこの緊張感のなさ。
 仲吉の後輩らしいな、と思いながらもあまりの毒気のなさに「ああ」と釣られる。

「あ、あのさ……ちょっと、色々聞きたいことはあんだけど……俺達のこと見えてるのか?」
「ええ、まあ。はっきりと……確かによく見たら青白くはありますけど」
「こいつは?」

 そう背負ってた幸喜を指差せば、そのまま噛みついてくる幸喜。やつを背中から慌てて引きずり下ろしていると、「こいつ?」と佑太は小首を傾げた。

「もう一人どなたかいらっしゃるんですかぁ?」
「いる。けど、見えねえならいいや」

「なーんだ、つまんねえの」とそのまま佑太の周りをちょろちょろする幸喜を慌てて捕まえる。今は本調子ではないとは言え危険なやつには違いない、気軽に近づけるべきではないだろう。

「お前、なんでここにいるんだ? 仲吉は……」
「あー……はは、やっぱそれ気になりますよねえ」
「え?」
「僕、個人的にちょっと調べたいことあって……けど、皆に止められたんですよねえ。あ、因みに皆とは今旅行で来てたんですけど」
「旅行……」
「本当は一泊二日だったんですけど、ちょっと爽先輩体調壊しちゃって……」
「――は?」
「それで、熱が収まるまでもう少し休ませてもらおうかってなって。んで、その間暇だから僕はこっちに来たんです。あ、因みに僕は単独です」

 悪びれもせず、ペラペラと聞かれてもないことまで口にする佑太。
 仲吉の体調不良のことを聞いた瞬間全ての音が一瞬遠くなり、その後のことは頭に入ってこなかった。

「……っ、体調不良って……大丈夫、なのか」
「はは、幽霊のくせに心配するんですね」

 一瞬馬鹿にされたのかと思って思わず睨めば、佑太は両手を上げた。「ああ、ごめんなさい。いい意味で、ってことです」とへらりと笑う。

「先輩の言った通りだ。全部あの人の妄言だと思ってたんですけど……いや、もしかしたら僕の脳が夢でも見てる可能性もあるのかな。それか僕の死期が近付いて魂のフォルムが死者に近付いているか、僕も先輩みたいに霊格が上がってきたのかな?」

 後半は最早独り言のようにぶつぶつと何かを呟きながら手を撫でる佑太に俺は気圧される。仲吉の仲間ならばまともなやつではないと思っていたが、なんか危ねえやつだな。

「お、おい……」
「そういえばさっきの大きな化け物、あれも準一さんたちの仲間ですか?」
「違う、俺達にもよくわからない。けど、多分お前は狙われてる」
「なぜ?」
「生きてるからだ。あれは、生気を集めるための道具みたいなものらしいから」
「あれに襲われたら僕、死んじゃうんですかね?」
「あ、当たり前だ! だから、悪いこと言わねえからさっさと仲吉たちんところに戻れ。道分かんねえなら俺たちも手伝うから」

 そう佑太を説得するが、佑太の反応はまるで手応えがない。んー、と唇を尖らせる佑太はこちらを見ていない。

「あの、準一さん」
「……なんだよ」
「僕、調べ物があってここに来たんです」
「だから、何だよそれ」
「爽先輩の体調悪いのって、もしかしてここで何かあったのかなって思って」
「……っ!」
「よくある話じゃないですか、よからぬ何かを持って帰ってきてしまったり、或いは本人が見えない魂の部分を人ならざるものに傷付けられたりしたせいで肉体の方に不調が出るなんて話」
「……そ、れは」
「爽先輩は何も教えてくれなかったんで僕は探しに来たんです。……が、やっぱり大正解でしたね。準一さんにも出会えたし、この鳥肌と嫌な感じ……瘴気って実際に存在するんですね」

 先程までのやや間延びした口調とは打って変わって、興奮したようにやや早口になる佑太にただ俺は呆気取られていた。
 俺が生きてる人間ならば「馬鹿なこと言ってないでさっさと帰れ」と追い返していたのだろうが、今の俺にとって佑太の話はあまりにも鋭く、納得してしまう部分が多すぎたのだ。
感想 8

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科 空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する 高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体 それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった 至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する 意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク” 消える教師 山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話

みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。 数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品