G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第11章 希望を手に 絶望を超える

133話 最終決戦 清雅市 其の2

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 悪化し続けるかに思えた情勢は開戦から約2時間で一気に好転、戦いを望むのは清雅修一だけとなった。23代目清雅源蔵の仮面を投げ捨てた男は、偽りの仮面に隠し続けた願いの為に暴走を続ける。その願いの根幹、ツクヨミの言葉すら届かない程に。

 正しく歪んだ意志、真っ直ぐで純粋でまっさらな狂気。ツクヨミの為、邪魔をする全ての排除を決断した清雅修一は無差別に攻撃を行うマジンを量産し続ける。彼が独自に改良を施したナノマシンと専用端末はツクヨミの手を離れ、清雅修一の意を汲み、暴走を続ける。アベルはその光景をただ見つめるばかり。

 天与の才はあった。だが、間違った方向で開花した。正しく開花し、清雅を導いた過去は己が見たいように見ていた幻想でしかなかった。惨状を目の前にアベルは己の過ちをはっきりと認識する。

「人を道具と見下していた、のか」

 苦悶と共に吐き出した本音は、しかし誰にも届かない。間違っていようが、認めようが、目の前の現実が全て。ハバキリと言う極めて危険な希望。それを扱う者を選定する為に生み出されたツクヨミ。そして、※※の意志――

 アベルが見つめる映像の向こうでは、己と違い一切の迷いも澱みもなく、孤独に戦い続ける清雅修一の姿が映る。清雅一族の長にはそれだけの力がある。この地球で最も長く濃くホムラを浴びる清雅一族の更に頂点ともなれば、地球上において最も強くその力を行使できる存在。

 本来ならば誰にも止められない。オロチは鎖の行使によるスサノヲの介入に止まらず、更にその先――連合全戦力の介入をも見越して製造を指示した。本来の標的は旗艦。圧倒的、桁違いの浸食能力を用いて超広大な旗艦と動力源を速やかに制御下に置き無力化後、アラハバキとスサノヲに降伏を迫る為。

 故に、誰にも止められない。仮に、例え連合全戦力が総力を上げようが――その筈だった。

 地上の様子に目を向けると大きな変化が起きていた。カグツチの白光現象を目の当たりにした事で正気に戻り、更に離反したクズリュウの一部とスサノヲが合流、独自に行動を取るアスクレピオス私設部隊員と戦闘を始めた。

 傍から見れば同士討ち、混乱するのも無理はない。挙句に清雅修一が切り札を切った。地球の混成軍は余計な犠牲を避ける為、指示に従い再度撤退を始めた。

 だが、その歩みは非常に遅い。時折、誰かが視線を空に向ける度に歩みが止まり、数名、多ければ全員が同じ行動を取る。見上げた。空を、好天の空を飛びまわる影を、撤退を援護する為に出鱈目な火力でマジンを薙ぎ倒す銀髪の女を見た。

 視認不可能な速度で、慣性を無視して飛び回る彼女を捉えるなど人間には到底不可能。だが、空には確かに彼女が存在した証が残る。カグツチを利用して空を蹴り飛ばす度に粒子の残光が、閃光が走ったかと思えば竜が両断され、抉られ落下する竜が確かに彼女が存在する証として残る。

 彼女が姿を現すのは破損した武器を取り換える僅かな瞬間だけ。伊佐凪竜一を除いた全員が、その一瞬だけ彼女を目で捉える。当然、オロチも。

「チィ、何時まで抵抗を!!」

「お前こそ、いい加減に止まれッ」

 互いが叫んだ瞬間、ルミナが全員の視界に映った。時を同じく、無数の竜が取り囲む。

 彼女は足元に転がる刀を拾い上げ、軽く振り回しつつカグツチを流し込んだ。鈍色の美しい刀身が淡い光に包まれ消失し、代わりに光の刃となる。彼女は瞬時に作り上げた刀を目にも留まらぬ速度で横凪に振り抜きながら、そのまま時計回りに一回転した。次の瞬間、襲撃した竜の群れは全てが一刀の元に両断され消滅、青い光へと変わった。

 再び、ルミナが視界から消え失せた。後に見えるのは剣閃とカグツチの残光のみ。何時の間にか化け物共はルミナだけを狙い始めた。現状において清雅修一の脅威はルミナのみ。より正確には2人だが、伊佐凪竜一は地球にカグツチを引き寄せる役割を担う為に動けない。

 だから彼女は自らを囮とした。より目立ち、より派手に戦闘する事でマジンを引き寄せ、一体残らず葬り去る。清雅修一もまた囮を承知でルミナの力を削り取る為にオロチをけしかける。

 上空のオロチが一際不気味に胎動した後、今度は巨大な球体から滴が一滴零れ落ちた。雫は周囲の物質を取り込みながら一際巨大で一際歪んだ竜を作り出した。巨大な咆哮を上げ、ルミナへと襲い掛かる竜。

 直後に彼女の姿が消失した。竜は倒すべき相手を一度は見失ったが、モーフィング映像の様に前後を入れ替えながら即座に背後へと向き直った。その先には抜き身の刀を納刀、居合の構えを取るルミナ。

 刹那、竜が両断された。誰も瞬きさえしていない。そのわずかな時間に攻撃は終わり、竜は斬り捨てられた。続けて、無数の剣閃が走った。またしても、誰一人視認できなかった。何時の間にか抜刀し、振り抜いた刀を納刀する彼女の姿を全員が目撃した。巨大な竜は無数に切り刻まれ、霧散消滅した。

「しつこい奴ッ!!」

「ソレをお前がッ!!」

 目の前で起きる光景に誰一人思考が追い付かない。満身創痍まんしんそうい。彼女のボロボロの身体を見た誰もが同じ評価を下した。もう真面に動けない程の手傷を負っている、だというのに彼女の力は底なしに膨れ上がる。身体能力は既にスサノヲを超え、それどころか物理法則さえ超越し始めた。

 しかし、誰もその理由に気付かない。規格外の力を実現するその源を知るのは、現時点でアベルのみ。アベルはルミナの姿を拡大し、はっきりと確信した。彼女の美しかった青色の虹彩は血よりも濃い赤へと変化していた。伊佐凪竜一から力を受け取った彼女も、彼と同質の存在に変異した。

 幸か不幸か、その事実は戦場を煌々こうこうと照らす桁違いに高濃度のカグツチに紛れた。よって、まだ誰も気づいていない。故に、誰もが畏敬いけいの念で戦場を駆け抜けるルミナと、遥か先から地球にカグツチを引き寄せる伊佐凪竜一を見つめる。

 光りが溢れる。戦場を照らす白い輝きが渦を巻く。意志に反応する力はとても強く、恒星よりも眩く2人を照らす。今や伊佐凪竜一に止まらず、数多の願いを受けるルミナの銀髪が、カグツチの光に照らされ、より一層美しく輝く。
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