210 / 273
第11章 希望を手に 絶望を超える
133話 最終決戦 清雅市 其の2
しおりを挟む
悪化し続けるかに思えた情勢は開戦から約2時間で一気に好転、戦いを望むのは清雅修一だけとなった。23代目清雅源蔵の仮面を投げ捨てた男は、偽りの仮面に隠し続けた願いの為に暴走を続ける。その願いの根幹、ツクヨミの言葉すら届かない程に。
正しく歪んだ意志、真っ直ぐで純粋でまっさらな狂気。ツクヨミの為、邪魔をする全ての排除を決断した清雅修一は無差別に攻撃を行うマジンを量産し続ける。彼が独自に改良を施したナノマシンと専用端末はツクヨミの手を離れ、清雅修一の意を汲み、暴走を続ける。アベルはその光景をただ見つめるばかり。
天与の才はあった。だが、間違った方向で開花した。正しく開花し、清雅を導いた過去は己が見たいように見ていた幻想でしかなかった。惨状を目の前にアベルは己の過ちをはっきりと認識する。
「人を道具と見下していた、のか」
苦悶と共に吐き出した本音は、しかし誰にも届かない。間違っていようが、認めようが、目の前の現実が全て。ハバキリと言う極めて危険な希望。それを扱う者を選定する為に生み出されたツクヨミ。そして、※※の意志――
アベルが見つめる映像の向こうでは、己と違い一切の迷いも澱みもなく、孤独に戦い続ける清雅修一の姿が映る。清雅一族の長にはそれだけの力がある。この地球で最も長く濃くホムラを浴びる清雅一族の更に頂点ともなれば、地球上において最も強くその力を行使できる存在。
本来ならば誰にも止められない。オロチは鎖の行使によるスサノヲの介入に止まらず、更にその先――連合全戦力の介入をも見越して製造を指示した。本来の標的は旗艦。圧倒的、桁違いの浸食能力を用いて超広大な旗艦と動力源を速やかに制御下に置き無力化後、アラハバキとスサノヲに降伏を迫る為。
故に、誰にも止められない。仮に、例え連合全戦力が総力を上げようが――その筈だった。
地上の様子に目を向けると大きな変化が起きていた。カグツチの白光現象を目の当たりにした事で正気に戻り、更に離反したクズリュウの一部とスサノヲが合流、独自に行動を取るアスクレピオス私設部隊員と戦闘を始めた。
傍から見れば同士討ち、混乱するのも無理はない。挙句に清雅修一が切り札を切った。地球の混成軍は余計な犠牲を避ける為、指示に従い再度撤退を始めた。
だが、その歩みは非常に遅い。時折、誰かが視線を空に向ける度に歩みが止まり、数名、多ければ全員が同じ行動を取る。見上げた。空を、好天の空を飛びまわる影を、撤退を援護する為に出鱈目な火力でマジンを薙ぎ倒す銀髪の女を見た。
視認不可能な速度で、慣性を無視して飛び回る彼女を捉えるなど人間には到底不可能。だが、空には確かに彼女が存在した証が残る。カグツチを利用して空を蹴り飛ばす度に粒子の残光が、閃光が走ったかと思えば竜が両断され、抉られ落下する竜が確かに彼女が存在する証として残る。
彼女が姿を現すのは破損した武器を取り換える僅かな瞬間だけ。伊佐凪竜一を除いた全員が、その一瞬だけ彼女を目で捉える。当然、オロチも。
「チィ、何時まで抵抗を!!」
「お前こそ、いい加減に止まれッ」
互いが叫んだ瞬間、ルミナが全員の視界に映った。時を同じく、無数の竜が取り囲む。
彼女は足元に転がる刀を拾い上げ、軽く振り回しつつカグツチを流し込んだ。鈍色の美しい刀身が淡い光に包まれ消失し、代わりに光の刃となる。彼女は瞬時に作り上げた刀を目にも留まらぬ速度で横凪に振り抜きながら、そのまま時計回りに一回転した。次の瞬間、襲撃した竜の群れは全てが一刀の元に両断され消滅、青い光へと変わった。
再び、ルミナが視界から消え失せた。後に見えるのは剣閃とカグツチの残光のみ。何時の間にか化け物共はルミナだけを狙い始めた。現状において清雅修一の脅威はルミナのみ。より正確には2人だが、伊佐凪竜一は地球にカグツチを引き寄せる役割を担う為に動けない。
だから彼女は自らを囮とした。より目立ち、より派手に戦闘する事でマジンを引き寄せ、一体残らず葬り去る。清雅修一もまた囮を承知でルミナの力を削り取る為にオロチをけしかける。
上空のオロチが一際不気味に胎動した後、今度は巨大な球体から滴が一滴零れ落ちた。雫は周囲の物質を取り込みながら一際巨大で一際歪んだ竜を作り出した。巨大な咆哮を上げ、ルミナへと襲い掛かる竜。
直後に彼女の姿が消失した。竜は倒すべき相手を一度は見失ったが、モーフィング映像の様に前後を入れ替えながら即座に背後へと向き直った。その先には抜き身の刀を納刀、居合の構えを取るルミナ。
刹那、竜が両断された。誰も瞬きさえしていない。そのわずかな時間に攻撃は終わり、竜は斬り捨てられた。続けて、無数の剣閃が走った。またしても、誰一人視認できなかった。何時の間にか抜刀し、振り抜いた刀を納刀する彼女の姿を全員が目撃した。巨大な竜は無数に切り刻まれ、霧散消滅した。
「しつこい奴ッ!!」
「ソレをお前がッ!!」
目の前で起きる光景に誰一人思考が追い付かない。満身創痍。彼女のボロボロの身体を見た誰もが同じ評価を下した。もう真面に動けない程の手傷を負っている、だというのに彼女の力は底なしに膨れ上がる。身体能力は既にスサノヲを超え、それどころか物理法則さえ超越し始めた。
しかし、誰もその理由に気付かない。規格外の力を実現するその源を知るのは、現時点でアベルのみ。アベルはルミナの姿を拡大し、はっきりと確信した。彼女の美しかった青色の虹彩は血よりも濃い赤へと変化していた。伊佐凪竜一から力を受け取った彼女も、彼と同質の存在に変異した。
幸か不幸か、その事実は戦場を煌々と照らす桁違いに高濃度のカグツチに紛れた。よって、まだ誰も気づいていない。故に、誰もが畏敬の念で戦場を駆け抜けるルミナと、遥か先から地球にカグツチを引き寄せる伊佐凪竜一を見つめる。
光りが溢れる。戦場を照らす白い輝きが渦を巻く。意志に反応する力はとても強く、恒星よりも眩く2人を照らす。今や伊佐凪竜一に止まらず、数多の願いを受けるルミナの銀髪が、カグツチの光に照らされ、より一層美しく輝く。
正しく歪んだ意志、真っ直ぐで純粋でまっさらな狂気。ツクヨミの為、邪魔をする全ての排除を決断した清雅修一は無差別に攻撃を行うマジンを量産し続ける。彼が独自に改良を施したナノマシンと専用端末はツクヨミの手を離れ、清雅修一の意を汲み、暴走を続ける。アベルはその光景をただ見つめるばかり。
天与の才はあった。だが、間違った方向で開花した。正しく開花し、清雅を導いた過去は己が見たいように見ていた幻想でしかなかった。惨状を目の前にアベルは己の過ちをはっきりと認識する。
「人を道具と見下していた、のか」
苦悶と共に吐き出した本音は、しかし誰にも届かない。間違っていようが、認めようが、目の前の現実が全て。ハバキリと言う極めて危険な希望。それを扱う者を選定する為に生み出されたツクヨミ。そして、※※の意志――
アベルが見つめる映像の向こうでは、己と違い一切の迷いも澱みもなく、孤独に戦い続ける清雅修一の姿が映る。清雅一族の長にはそれだけの力がある。この地球で最も長く濃くホムラを浴びる清雅一族の更に頂点ともなれば、地球上において最も強くその力を行使できる存在。
本来ならば誰にも止められない。オロチは鎖の行使によるスサノヲの介入に止まらず、更にその先――連合全戦力の介入をも見越して製造を指示した。本来の標的は旗艦。圧倒的、桁違いの浸食能力を用いて超広大な旗艦と動力源を速やかに制御下に置き無力化後、アラハバキとスサノヲに降伏を迫る為。
故に、誰にも止められない。仮に、例え連合全戦力が総力を上げようが――その筈だった。
地上の様子に目を向けると大きな変化が起きていた。カグツチの白光現象を目の当たりにした事で正気に戻り、更に離反したクズリュウの一部とスサノヲが合流、独自に行動を取るアスクレピオス私設部隊員と戦闘を始めた。
傍から見れば同士討ち、混乱するのも無理はない。挙句に清雅修一が切り札を切った。地球の混成軍は余計な犠牲を避ける為、指示に従い再度撤退を始めた。
だが、その歩みは非常に遅い。時折、誰かが視線を空に向ける度に歩みが止まり、数名、多ければ全員が同じ行動を取る。見上げた。空を、好天の空を飛びまわる影を、撤退を援護する為に出鱈目な火力でマジンを薙ぎ倒す銀髪の女を見た。
視認不可能な速度で、慣性を無視して飛び回る彼女を捉えるなど人間には到底不可能。だが、空には確かに彼女が存在した証が残る。カグツチを利用して空を蹴り飛ばす度に粒子の残光が、閃光が走ったかと思えば竜が両断され、抉られ落下する竜が確かに彼女が存在する証として残る。
彼女が姿を現すのは破損した武器を取り換える僅かな瞬間だけ。伊佐凪竜一を除いた全員が、その一瞬だけ彼女を目で捉える。当然、オロチも。
「チィ、何時まで抵抗を!!」
「お前こそ、いい加減に止まれッ」
互いが叫んだ瞬間、ルミナが全員の視界に映った。時を同じく、無数の竜が取り囲む。
彼女は足元に転がる刀を拾い上げ、軽く振り回しつつカグツチを流し込んだ。鈍色の美しい刀身が淡い光に包まれ消失し、代わりに光の刃となる。彼女は瞬時に作り上げた刀を目にも留まらぬ速度で横凪に振り抜きながら、そのまま時計回りに一回転した。次の瞬間、襲撃した竜の群れは全てが一刀の元に両断され消滅、青い光へと変わった。
再び、ルミナが視界から消え失せた。後に見えるのは剣閃とカグツチの残光のみ。何時の間にか化け物共はルミナだけを狙い始めた。現状において清雅修一の脅威はルミナのみ。より正確には2人だが、伊佐凪竜一は地球にカグツチを引き寄せる役割を担う為に動けない。
だから彼女は自らを囮とした。より目立ち、より派手に戦闘する事でマジンを引き寄せ、一体残らず葬り去る。清雅修一もまた囮を承知でルミナの力を削り取る為にオロチをけしかける。
上空のオロチが一際不気味に胎動した後、今度は巨大な球体から滴が一滴零れ落ちた。雫は周囲の物質を取り込みながら一際巨大で一際歪んだ竜を作り出した。巨大な咆哮を上げ、ルミナへと襲い掛かる竜。
直後に彼女の姿が消失した。竜は倒すべき相手を一度は見失ったが、モーフィング映像の様に前後を入れ替えながら即座に背後へと向き直った。その先には抜き身の刀を納刀、居合の構えを取るルミナ。
刹那、竜が両断された。誰も瞬きさえしていない。そのわずかな時間に攻撃は終わり、竜は斬り捨てられた。続けて、無数の剣閃が走った。またしても、誰一人視認できなかった。何時の間にか抜刀し、振り抜いた刀を納刀する彼女の姿を全員が目撃した。巨大な竜は無数に切り刻まれ、霧散消滅した。
「しつこい奴ッ!!」
「ソレをお前がッ!!」
目の前で起きる光景に誰一人思考が追い付かない。満身創痍。彼女のボロボロの身体を見た誰もが同じ評価を下した。もう真面に動けない程の手傷を負っている、だというのに彼女の力は底なしに膨れ上がる。身体能力は既にスサノヲを超え、それどころか物理法則さえ超越し始めた。
しかし、誰もその理由に気付かない。規格外の力を実現するその源を知るのは、現時点でアベルのみ。アベルはルミナの姿を拡大し、はっきりと確信した。彼女の美しかった青色の虹彩は血よりも濃い赤へと変化していた。伊佐凪竜一から力を受け取った彼女も、彼と同質の存在に変異した。
幸か不幸か、その事実は戦場を煌々と照らす桁違いに高濃度のカグツチに紛れた。よって、まだ誰も気づいていない。故に、誰もが畏敬の念で戦場を駆け抜けるルミナと、遥か先から地球にカグツチを引き寄せる伊佐凪竜一を見つめる。
光りが溢れる。戦場を照らす白い輝きが渦を巻く。意志に反応する力はとても強く、恒星よりも眩く2人を照らす。今や伊佐凪竜一に止まらず、数多の願いを受けるルミナの銀髪が、カグツチの光に照らされ、より一層美しく輝く。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
蒼穹の裏方
Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し
未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる