G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第11章 希望を手に 絶望を超える

134話 最終決戦 清雅市 其の3

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「いい加減にィ、しろォ!!」

 低く、重い声が上空から降り注ぐ。

「だから、お前が諦めるまではッ!!」

 ルミナが空に咆える。ボロボロになった刀を投げ捨て、今度は手近に転がる大型の銃と大砲を拾い上げ、空を蹴り、瞬時に空へと躍り出た。オロチは新たに生み出した数多の竜をけしかける。

 が、近づく間もなく消滅。轟音を伴う凄まじい銃撃――と、呼ぶには余りにも桁違いな攻撃が続けざまに発射された。弾丸に直撃した竜は巨大な大穴を穿たれ、行動不能となり、地上へ落ちながら霧散消滅した。

 ルミナは破損した銃を投げ捨て、次に大砲に力を籠めた。放熱機能を兼ねたとカグツチ吸収機構が全て展開し、周囲のカグツチを吸い上げながら砲身内部で生成された光弾を即座に発射した。

 無骨な砲身から巨大な咆哮と共にが撃ち出された白い球状の弾丸は、唸りを上げながら巨大な青い球体へと一直線で突き進む。が、歪んだ竜が阻む。何体もの竜が折り重なり、弾丸を受け止めた。

「潰れろ」

 ルミナが呟いた。白く輝く弾丸に不規則な紋様が浮かび上がり、極限まで圧縮した。一方、まるで取り残された様に空中に残る紋様は白光と共に周囲諸共に竜を引き寄せし始めた。直径数センチにも満たない小さな白い輝きは重力崩壊の様におぞましく歪んだ竜達を引き寄せ続け、紋様の中心に全てを吸い込み、消失した。

 スサノヲは呆然と見つめる。カグツチの弾丸に特定の指向性を与える事自体は不可能ではない。事実、スサノヲは好んで誘導性を付与している。が、彼女は撃ちだした弾丸は超重力の様に周囲の全てを引き込む力を起こした。実際に重力崩壊が起った訳ではない。カグツチを通して周囲の空間を強引に変質させた。よって崩壊と消滅による影響は出ない。

 彼女はただの新人。戦闘に一切出ず、訓練だけを愚直ぐちょくにこなしていた。だというのに、まるで熟練者と差し支えないレベルで使いこなしている。が、スサノヲ達が驚いたのはそれだけではない。寧ろ、その程度など些末。

 今しがた彼女が発現させた力はスサノヲが持ちえない戦闘技術。幾つかの振動パターン|(※一般的に呪文や言霊、詠唱などと呼ばれる)に特定の紋様を組み合わせる事でカグツチを別のエネルギーに変換する戦闘技術。

 連合では魔導と呼称された技術は解析され、武器と防壁に転用された。その源流を彼女は極めて高い精度で使いこなしている。魔導は生まれに起因する才能が必須だというのに――

 誰が、何時、どの段階で教えた?何故使える?そんな疑問が戦場は元より艦橋のオペレーターからアマテラスオオカミに至るまでを駆け巡った。が、答えなど出ない。ただ、使えるという事実を受け入れるしか出来ない。原理が不明であろうが、使える彼女にしか事態を打開できないのだから。

 ルミナは役目を終え損壊した大砲を手放すと足元の銃を拾い上げ、正面目掛け弾丸をばら撒いた。発射されたその小さく光る弾丸は戦場を縦横無尽に飛び交い、美しい軌跡を残しながら敵を追跡し、凄まじい勢いと威力で歪んだ竜を抉った。

 誘導弾。カグツチを媒体に付与される追跡機能。しかし、本来ならば威力と速度を引き換えにする弾丸は寧ろ加速し続け、挙句に威力も非常識なレベルで強化され、触れるや数十倍の穴を穿ちながら数体の竜を薙ぎ倒し、白い粒子へと変わり消滅する。出鱈目にばら撒かれる弾丸の嵐により、オロチが生み出した竜はその数を瞬く間に減らす。

 圧倒的以外に評しようがない戦果。だが、それは彼女だけの力ではない。奇跡を可能とするだけの力を引き寄せる存在なくして彼女は戦えない。

 伊佐凪竜一。僅か数日前までは平凡な、ごく普通の地球人だった。彼はまだその力を万全に使いこなせてはいないというのに、自らの意志一つでここまでの奇跡を起こしている。

 片方が引き寄せ、もう片方がその力を十全に使い、敵を叩き潰す。理解がもたらした意志の共鳴が起こす奇跡――いや、必然。人が持つ本来の力が今この戦場で花開いた。かつて神話に語られた英雄、あるいは神そのもの。超常的な力を持ち、カグツチを操ったとされる存在と同等の力が現代に蘇った。

 アベルは過去を、主の言葉を思い出す。

 カグツチを従える意志と言う力は、誰もが持つ力。人が本来持つ力。だが、人は生まれ、育ち、次世代へ繋ぐ内にその力を弱めてしまった。いや、次世代へと力を継承することが出来なかった。意志の脆弱化は他者への無理解を引き起こし、加速させた。

 人は誰もが弱くなった事に気付かず、認められない程に弱くなった。人の心に再び強い意志を、その目的の為にハバキリは存在する。いや、正確には――

 その願いが、紆余曲折を経て人の手に渡った。ホムラ|(=ハバキリ)に適性を持つ伊佐凪竜一とカグツチを制御する術を持つルミナは互いを縛る過去が生む恐怖を乗り越えた。2人の願いは互いの救済。それ以外に何もなく、その為ならば何をしてでも成し遂げる。

 同じ願いを持つ。ただそれだけでは奇跡を起こし得ない。だが、2人の意志は覚醒させるに足る程に強かった。その強力な意志が共鳴を起こし、また力もその意志に応えた結果、力の融合という奇跡を実現させた。2人の意志がハバキリの浸食能力を融合に変化させ、カグツチとの相乗効果で神の如き力を生み出す。

 この2人でなければ成しえなかった。特に伊佐凪竜一の出自は極めて平凡で清雅一族との関わりはなく、先祖の誰かに抜きんでた成果を残した者もいない。幼少時から蓄積され続けたあらゆるデータを参照したが彼が特別であると言う根拠は見つからず、強いてあげればホムラへの適性が高い程度。

 ルミナも同じく、特例でスサノヲとなっただけ。しかも特例を理由に実戦経験を積めず、長い時間を無駄とも思える訓練に費やし続けただけだった。敵地を生き抜ける程に高い能力は持っていたが、それが出自によるものかは不明。

 アベルは主の最期の言葉を思い出す。ツクヨミに託された願いを体現する者、人を導く存在、より強い意志を他者の中に目覚めさせる者をこう呼んだ。

「希望」

 と。感極まったアベルの言葉が、闇に支配された聖域に木霊した。
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