G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

文字の大きさ
212 / 273
第11章 希望を手に 絶望を超える

135話 最終決戦 清雅市 其の4

しおりを挟む
 遥か上空でマジンと戦闘を繰り広げるルミナの動きが僅かずつ鈍り始める。

 奇跡は完全無欠と同義ではなかった。誰もが精彩を欠き始める動きにルミナの限界を感じとったが、さりとて何も出来ず。ダメ押しにオロチが生み出した竜はその数を一向に減らさない。否、減らせない。浸食の為の物質は周囲に幾らでも存在する。物量を前に徐々に抑え込まれる中、一体の竜がルミナへと肉薄、彼女の華奢きゃしゃな身体を引き裂こうと詰め寄ったその瞬間――

 僅かな爆風とおびただしい数の弾丸がマジンを襲った。竜が僅かに怯む。時間にして1秒未満。当然、お察しの威力では攻撃阻止など不可能。が、彼女が離脱するには十分過ぎる。苛立つ清雅修一、何が起きたか分からず困惑するルミナ。対照的な両者の視線は竜を怯ませた攻撃の射線をさかのぼり、見た。

「今のうちに早く!!」

 撤退した筈の地球の混成軍が援護する光景を。

「な、無謀だ!!」

「異教徒共がァ!!」

 言わずとも無謀。地球側も、旗艦側も無謀を称賛しなかった。ルミナも口にこそ出さなかったが、表情が心情を雄弁に語る。

 対照的にアベルは歓喜に震えた。希望が、託された願いの一端が今、目の前で起きている。地球と宇宙の間にあった筈の壁が、溝が消えている。

「邪魔をするなァ!!」

 一方、孤独の中で戦う清雅修一は怒りで冷静さを失う。絶叫が戦場を震わせると同時、無謀を承知で援護に入った地球の混成軍の元に無数の竜が出現した。成す術なく肉片となる運命――は、訪れず。混成軍から武器を受け取ったルミナが竜を片っ端から始末した。

 霧散する青い粒子の中に銀色の光が踊り、次の瞬間には姿を消す。誰もが上空にその姿を探すが物理法則を無視した機動に誰もついていけない。視界に映るのは、彼女が確かに存在した痕跡が光の粒子として青い空をほんの僅かだけ白く染める光景。

 しかし、そんな圧倒的な力でも彼我戦力差を覆せない。地球が対旗艦用の切り札として用意したオロチは彼女の攻撃でもその質量を殆ど減らせていない。圧倒的な質と量の前に、希望が再び絶望に塗り潰されようとしている。

「ヒルメちゃん、聞こえるか!!ジャンジャン武器転送してくれや、使える武器なくなりそうだ」

「駄目です」

「オイオイオイ、なんでだよ!?」

 自身もオロチと戦闘しながら、同時に戦場全体を俯瞰ふかんしていたタガミがアマテラスオオカミに支援を要請した。言葉通り、地上に打ち捨てられた武器の多くは彼女の力を受け止めきれず、数回の使用で損壊する。彼女の戦闘能力を維持しようと思うならば現状では余りにも足らない。その考えは間違ってはいない。

「持ちません」

 アマテラスオオカミは理由を端的に語った。神はルミナの規格外の力の影響を予測していた。彼女が出せる力は余りにも強すぎる。希望は、身体と命をむしばむ絶望と紙一重だった。

「あ?って、まさか!?」

 タガミを始めとした多くは、絶望を照らす希望の光の中にある事実を失念していた。力と武器が無尽蔵でも、肉体は一つだけ。

「地球にカグツチを引き寄せている地球人の男も、その力を受け取り使っているルミナも、双方高濃度のカグツチが出す力に肉体が耐えきれません。武器は転送します。ですが、皆様で決着を付けてください」

「せめてムラクモさえあれば……」

「無い物を強請ねだるな」

「奴を追えればいいが今からでは……何より余裕も、な。空に浮かぶあの青い球から生み出されるアレに手一杯だ」

「クソッ!!後……後、どれ位なのでしょうか。あと何分で彼女はッ!!」

「分かりません。ですが、もう限界以上まで身体を酷使していると見て良いでしょう。3分、あるいは2分か、もっと少ないかもしれません」

「承知した、それまでにカタを付ける」

 誰もが理解した。今、オロチと戦う2人は激痛に耐え、命を削りながら戦っていると。同時、荒唐無稽こうとうむけいな光景を前に思考停止に陥っていた事実を後悔した。

 が、直ぐに投げ捨て、無謀な戦いへと戻った。奇跡に惹かれる訳ではない。その苦痛を僅かでも早く止める為、後悔よりも行動を選んだ結果。しかし、その程度ではオロチには勝てない。

 アベルとツクヨミが必勝を見込んで製造した切り札は、万全の状態で戦場に現れるスサノヲ、及び連合各惑星の最高戦力に勝利する想定で作られた。疲弊しきった状態では太刀打ちなどできないし、仮に勝ったとしても遥か先の宙域にはおぞましい数のマガツヒがうごめく。

 地球にも宇宙にも逃げ場はない。特に現状で唯一太刀打ちできるスサノヲ達は痛感している。その経歴が長いほど、恐怖が肉体と精神に刷り込まれている。意志が曇ればカグツチの変換効率が落ち、何れは敗北、死を迎える。ただ存在するというそれだけで、マガツヒは意志をむしばむ。

 故にマガツヒの行動が理解出来ない者から見ればその存在はただ恐怖でしかない。彼らの記憶と心に刻まれたマガツヒという忌まわしい敵の記憶が行動する意志を阻害する。必死で戦う彼らの精神を、マガツヒは只存在すると言うだけで蝕む。ジワリと、少しずつ、再び絶望が押し寄せる。

 だが、誰も知らない。マガツヒが集った理由を。戦う為、人を滅ぼす為に集まってなどいない。その理由はアベルしか知らず、その彼は一切を黙して語らない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

蒼穹の裏方

Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し 未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。

処理中です...