G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第11章 希望を手に 絶望を超える

138話 最終決戦 清雅市 其の7

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「やはり運命は私を選んだ!!貴様ら、後どれだけ生きられる?」

「平然としているが激痛で身体が動かないんじゃないか?」

「どうした、動きが鈍っているぞ!!」

 オロチの顔という顔が一斉に挑発を始めた。饒舌じょうぜつな口調は己の勝利を確信して疑わない。対してボロボロの身体を押す2人は何も言い返せない。限界が近い、あるいは既に超えたのか。伊佐凪竜一は激痛から立ち上がる事すら出来ず、膝を付く。カグツチの勢いは一向に衰えてはいない。意志は挫けていないが、身体が持たない。顔色も苦悶に満ちる。

「クソ……痛てぇ。もう少し、もう少しだけ……貴様……ら?」

 挑発を聞いた彼の顔から、一瞬で苦悶が消えた。視線が動き、ルミナを見る。再び絡まる視線。たったそれだけで彼は理解した。再び、苦悶する。身体の痛みではなく、心をむしられる。彼女も又、自身と同じく激痛に苛まれている事に――自分だけではなかった事に気付いた。身体以上に、心が軋む。

 が、何も出来ず。程なく遂に両膝を折った。破壊され、剥き出しとなったコンクリートの壁にもたれ掛かる形で辛うじて膝立ちを維持しているが、既に虫の息。激しい呼吸と心音で耳が塞がれ、朦朧とした意識はもはや周囲の景色すら見えていない。時間がない。そんな焦りが内側から生まれ、徐々に身体中を蝕む。だが、何も出来ない。

「そんな……クソッだけどまだ、もう、少し……」

 声はもう誰にも届かない。しかし、届かずとも悲壮な姿にスサノヲは一層奮起する。伊佐凪竜一とルミナにこれ以上の力を使わせる訳にはいかない。

 そう、分かっている。分かっていて、だが誰の実力もオロチに遠く及ばない。旗艦から見守る神も同じく。後方にはマガツヒの群れが控え、早急に地上から部隊を撤収させたいがオロチが暴れ回る状況では不可能。さりとて、旗艦の現在地からオロチだけを消滅させる手段はない。自衛用の艦砲はあるが、最大の敵となるマガツヒに無力という理由でデブリを破壊する程度の威力しかなく、しかも主戦力のスサノヲの避難も完了しておらず、駄目押しに狙撃するには余りにも距離が離れすぎている。

「おしまいだッ、何もかも終わらせる!!そしてッ、私はツクヨミと宇宙へ上る!!」

 清雅修一が叫ぶ。己の目的を。彼の思いはやはり変わらず、ただ一つだけ。ツクヨミを故郷に帰す、彼女に宇宙を見せる。幼少時から始まり清雅源蔵の名を襲名した青年時代、そして今現在に至るまで彼の心の中に刻まれたたった一つの願い。彼はその願いだけを頼りに今まで生きてきた。

 地球という範囲であれば叶えられない願いはほぼない。その特権は地球の頂点に立つ清雅一族の更に頂点に立つ者として当然の権利。が、そんな彼にも唯一手に入れられないモノがあった。彼はその例外であるたった一つ、ツクヨミの心を手に入れるという叶わない願いに身を焦がした末に狂気へと至った。

 地球にある全てを手に入れる事が出来る男が唯一願い、望み、求め、焦がれ、何としても欲しかったモノ。しかしそれがどうしても手に入れられない。神が心を許さなかった絶望が清雅修一を変えてしまった。

「ふざ……けるな!!地球が、こうなったのはお前が……お前が原因だろ!!何勝手に逃げようとしてるんだ!!」

 洗浄に別の叫びが木霊す。伊佐凪竜一の声だ。清雅修一の狂気にたまらず言い返した。が、彼の様子は相変わらず悲惨そのもの。息も絶え絶えで、苦悶にのたうっている。当然、叫ぶなど出来ない。だというのに、声は不思議とよく通っていた。まるで直接耳に届いたような感覚はハバキリの力によるもの。

 直に耳に届いた声に戦場も、地球全土も、遠く離れた旗艦の艦橋に止まらず、居住区域の全市民達も何処からか聞こえてきた叫びに反応すると、全員が一斉に地球を、戦場を、伊佐凪竜一に注がれる。全ての視線が一か所に集まる。

「地球に争いが絶えないのは私のせいでもなければ神でもない!!火種を抱えていたのも、簡単に燃え上がったのも同じだ!!」

「私達が何かをしたわけではない!!寧ろ、何もしなかった!!全て、人間共ヤツラが勝手に引き起こした事だ!!勘違いするな!!」

「本来はこんな目的ではなかった。人をあまねく繋ぐ道具が生まれた理由はただ人の未来の為、幸福の為、ただその為だけだった!!」

「だがコイツ等は、神が与えたもうた願いを踏みにじった。神の意に反し、自らの内にある矮小な悪意だけを繋いだ!!」

「その結果が今の世界だ!!一人一人の中にある悪意はそれだけでは大した力を持たないが、幾つも集まれば人も社会も秩序も、そして世界さえも容易く壊す!!」

「貴様の祖父が死んだ事もそうだ。私達ではないッ。そんなクズ共が寄り集めた小さな悪意の集積に殺されたのだ!!」

「無駄死になんだよ。その男も!!人はいつか理解し合えると夢想し、無駄に足掻き、周囲から責められ続けた!!だが、そんなモノはこの世界の何処にも存在しないッ!!」

「初めからそうだ!!誰も彼も理解し合わず理解しようともせず、そのくせ理解してもらえないと嘆き、怒り、自分の考えを一方的に押し付け、受け入れないと容赦なく責める!!」

「それだけに止まらず、傷つけ殺しあう!!残酷な選択肢を平然と選ぶ、どれだけ傷つこうがお構いなし、それもそうだ!!傷つき失うのは自分達ではないからな!!」

「「「「宇宙キサマラもそうだった筈だ!!」」」」

 青い球体に浮かんだ泥人形の様な顔達は口々に攻めながら、同時にルミナを睨みつけた。その言葉に、地上でマジンと戦うスサノヲ達の手が止まった。

 ルミナにも、スサノヲ達にもアマテラスオオカミにも責任はない。全ての責はアラハバキが負うべき。が、どう取りつくろおうが地球側から見れば旗艦側が一方的に戦争を仕掛けたという真実は変わらない。それを痛感しているからこそ手が止まる。事実で、だから誰も反論など出来なかった。清雅修一はオロチの中から尚も言葉を続ける。
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