G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第11章 希望を手に 絶望を超える

137話 最終決戦 清雅市 其の6

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「死にぞこないがァ!!」

 戦場に降り注ぐ清雅修一の怒声――に、呼応し無数の竜が開口した。奥に不気味な光が明滅する。今度は無数の光弾による遠距離攻撃。直後、青天よりも濃い青が薄暗い曇り空を埋め尽くした。伊佐凪竜一だけを葬り去るには余りにも多すぎる量の光弾。

 が、それでも怯まない。再び彼の目が一瞬、怪しく危険な赤い色に染まった。彼はポケットから取り出した銃を左手に握り締め、引き金を引いた。光弾の量と質に対し余りにもか細い一発の弾丸は戦場の何よりも強く光り輝き、周囲のカグツチを巻き込んだ。弾丸の後には螺旋状に渦を巻く巨大な竜巻が生まれ、光弾諸共に竜を巻き込み、破壊しながら空の彼方へと消え去った。

 役目を終えた銃は幾つもの部品に分解されながら彼の手を滑り落ち、足元へと落下すると粉々に砕け散った。

 尚も伊佐凪竜一は止まらず。手を固く握り締める。瞳が、再び赤く染まった。直後、遥か遠くに離れた一体の竜目掛けて拳を振り抜いた。拳を握った左手が美しい直線を描くと、直線状に存在した竜がまるで直に殴られたかのように吹き飛び、やはり消滅した。

 誰もが目を奪われた。ただ引き寄せるだけ、そう思っていた伊佐凪竜一は何をどうしてかカグツチを完全に使いこなしている。あり得ないと、そんな呟きが戦場の彼方此方から上がる。

 が、その声は竜の咆哮にかき消された。様子を窺っていた残りの竜が一斉に襲い掛かる。疲労か、隙を突かれたのか、伊佐凪竜一は竜の群れから体当たりを受け、強靭な顎による噛み砕きを受けた。

 誰もが目を背ける。

 が、現実は再び悲観的な想像を嘲笑あざわらう。伊佐凪竜一の肉体は健在だった。直撃すれば跡形も残らない攻撃をを受けながら、彼は傷を負うどころかどころか微動だにしていない。凄まじいエネルギー量を持つ竜の攻撃をまるでそよ風の如く受け止める様に、誰もが人知を超越するという神の姿を垣間見た。

 伊佐凪竜一は襲い掛かった竜を殴り、蹴り飛ばした。その度に竜は分解、消滅する。やがて、伊佐凪竜一の周囲から全ての竜が一掃された。恒星の光を受けて輝く青いナノマシンが、まるで雪の様に周囲を舞う。その中に立つ伊佐凪竜一の雄姿は、おぞましいまでい雄々しかった。

「何処までも私の……邪魔をする気かぁ貴様ぁ!!」

 怒りに任せ叫ぶ清雅修一。

「オレに気を取られていいのかッ!!」

 叫び返す伊佐凪竜一。

「何ッ!?」

 傍と我に返る清雅修一。しかし、僅かに遅かった。ほんの僅かの時間だが、彼女には十二分だった。伊佐凪竜一の対面のビルの屋上にルミナが立つ。攻撃の準備は既に終わっていた。

 彼女は両手に長い銃身の銃を一丁ずつ握っている。一呼吸置き、右足を踏み出し、右腕を前に伸ばした。銃と右手と身体が綺麗に一直線となった姿勢の先、水平に上げた右手に握った弐式の銃口の遥か先にはオロチから新たに生み出され、伊佐凪竜一に再攻撃しようとひしめく無数の竜。彼女はその姿勢のまま銃身に自身のカグツチを大量の流入させ、引き金を引いた。

 轟音と共に発射された白く輝く弾丸の群れは渦を描きんがら周囲のカグツチを吸収、肥大化、凄まじい貫通力を持った一つの巨大な弾丸へと姿を変え、竜の群れを容易く貫通、薙ぎ倒しながら半数以上を一気に撃墜した。

 まばらに残った竜に対し、反対側の銃の引き金を引くルミナ。銃口から大量の弾丸が吐き出され、今度はまるで弾丸一つ一つに意志があるかの様に正確に残った竜へと誘導、撃墜した。必死に距離を離そうが、余りの誘導性能と速度の前には全く無意味。まるで猟犬の如く追いかけ、撃ち抜き、抉り取り、全てを破壊した。

 瞬く間に竜は一体残らず消え失せた。ルミナは役目を終えた銃を投げ捨てると、空中を舞いながらバラバラに砕け、地上へと落下していった。

 遠く離れた2人の目が合った。声は届かず、顔も分からない程に離れているが、それでも互いに通じ合う。再び白む戦場。伊佐凪竜一がカグツチを引き寄せると、ルミナは足元に置いてあった刀をつま先で蹴り上げ、右手で受け止めと、空を蹴り、清雅修一へと突撃していった。

「しぶといッ!!だが貴様らの負けだッ!!」

 負け惜しみ――否、清雅修一は勝利への道筋を描き切った。再びオロチを生み出し、大量の竜で彼女の行く手を阻む。

 行動の変化に誰もが清雅修一の思惑を悟った。時間稼ぎ。肉体が耐え切れない程の力を使い続ければ何時かは限界が訪れる。特に伊佐凪竜一の状態は悲惨そのもの。誰が見ても死ぬ一歩手前の状況。凄まじい力でオロチから生み出された竜を仕留めた彼は再び膝を付いた。強烈な力、奇跡の如き力の代償は確実に2人をむしばむ。

 力の代償が命と気付いた清雅修一は時間稼ぎへと舵を切った。竜の行動が更に変化する。オロチから生み出された凄まじい数の竜全てが時間稼ぎの為に一切の攻撃を行わず、ただ壁の様に防御に徹し始めた。

 上空へと蹴り上がったルミナを待ち構えたのは分厚い壁。桁違いの攻撃を受け、消滅してもその度に補充し、傷を塞ぐ無数の竜。彼女の顔に初めて苦悶の表情が浮かぶ。もうどれだけ耐えてきたのか分からない痛みが原因ではない。時間。ここまで良く耐えたが、やはり限界は訪れた。

 刀で斬り捨てようが銃を乱射しようが道は開けず。竜で出来た壁は破壊消滅されるや即座に別の竜で穴を埋める。徹底した防御による時間稼ぎを前にすれば、さしもの彼女であっても思うように進めず。

 ルミナに焦りが浮かぶ。対照的に余裕を取り戻す清雅修一。地球側が、ツクヨミが最後の切り札として用意したオロチが彼女の希望を打ち砕く。
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