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第11章 希望を手に 絶望を超える
136話 最終決戦 清雅市 其の5
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その先に死が待つと知って尚、伊佐凪竜一もルミナも行動を止めない。
ハバキリはその強固な意志――互いを助けるという両者の意志に共鳴する形で本来の力の一つを完全開放、距離を無視して銀河中のカグツチに2人の意志を届けた。意志に導かれたカグツチは2人の体内へと引き寄せられ、超高濃度状態となった。正しく、神の如き力。
だが、余りにも強力な力に肉体が耐えられない。その兆候が表出し始めた。ルミナの動きが露骨に鈍り始め、伊佐凪竜一は立つ事さえままならないと片膝をつき、更に息も上がっている。
限界が死が近い。瀕死の2人を見たスクナが支給された武器を手に空を蹴り上げ清雅修一へと向かうと、それ以外の全員が補佐に回る。
対する清雅修一は、周辺の物質を侵食し取り込みながら異形の竜を量産する。オロチ直下に青い雨が降る。地上へ落ちた雨は異形の竜を大量に生み出し、舞い上がり、万全の布陣を敷く。
「貴様は随分と強いな、貴様はな。だが、もう片方はどうだ?」
オロチに浮かび上がる無数の顔の一つが眼下の光景に嘲笑した。同時にカグツチを引き寄せる伊佐凪竜一目掛け、大量の歪んだ竜を差し向けた。彼の目は青い球体オロチを睨み上げる。意志は挫けていないが、片膝を付き、息は絶え絶え、その目は朦朧としており意識を保っているかすら危うい。
大量の力を引き寄せるには、人の身体は余りにも脆い。既に限界。危険域。だが、死が間近に迫っているであろう身体を押して、それでも伊佐凪竜一はカグツチを、勝利を引き寄せ続ける。
その彼目掛け、歪な竜が迫り来る。
次の瞬間、戦場周辺のカグツチが急激に渦を巻き始めた。更に大量のカグツチが地球に引き寄せられる。さながら暴風、竜巻、台風。白く輝く粒子の渦は桁違いの物理的エネルギーを生み出し、竜を悉く弾き飛ばすに止まらず、迂闊にも近づきすぎた数体を白い渦に呑み込んだ。粒子の奔流に巻き込まれた竜はバラバラに砕け、粉々になりながら霧散消滅した。
だが、それでもまだ何体もの竜が残っている。踏みとどまった竜は周辺の竜を取り込み肥大化、巨大な咆哮を上げながら中心目掛けて突撃した。その光景は台風を突き抜ける巨大な青い矢。巨体が繰り出す原始的な体当たりは、生身で受け止めれば肉片一つ残らないのは明白な程の力が籠る。
誰の目にも明らかな死。が、あろうことか伊佐凪竜一は立ち上がり、一度目を閉じ深呼吸を行い、再び目を見開き、竜を見据え、右の拳を握り締めた。一連の行動から誰もが次の行動を予測した。彼は生身であの攻撃を押し返すつもりだ。
「無茶だ!!」
「頼む、逃げてくれ!!」
「オイ何してんだよ、死ぬぞ!!」
無茶、無理、無謀。そんな声が戦場から上がる。しかし、止まらない。粒子の渦は伊佐凪竜一の周囲を舞い踊る。その中で彼の瞳の色が再び変わった。ほんの一瞬、だが確実に日本人特有の黒から真っ赤に染まった。山県大地戦で見せたハバキリの力が再び発現した。
その変化は粒子が生みだす輝きに消失し、誰も認識さえ出来なかった。いや、認識できたとて誰の結論も変わらない。誰もが悲痛な思いで見守る中、無言のまま迫りくる竜を睨み付ける伊佐凪竜一は、凄まじい勢いで突っ込んでくる10メートル以上はあろうかという巨体目掛け拳を振り抜いた。誰もが最悪の結末を脳裏に描く。拳は竜の質量と勢いに押し負け、へし折れ、肉体は粉々に砕け散り、辛うじて彼が生きていた証が周囲に飛び散った血痕と肉片として残る。
結果に誰もが唖然とした。
誰もが自分達の浅はかさ、間抜けさを思い知る。所詮、想像は想像。現実は時に容易く想像を超える。頭の中で描いた凄惨な予測は現実のものとならず――
ドォン
爆発に似た桁違いの衝撃と共に竜が吹き飛ばされた。まるで紙切れの如く、盛大に。想像と現実の乖離に目撃した全員が夢か幻かと目を丸くする中、更に有り得ない光景が続く。圧倒的な質量の竜を拳で殴り飛ばすだけでも異常だというのに、殴り飛ばされた竜が拳が触れた部分を起点にまるで波が広がるかのように粉々に砕け散った。
スサノヲは唖然とする。自分達が武器を持って漸く互角と言う相手を伊佐凪竜一は素手で、しかも一撃で葬り去った。
伊佐凪竜一は消滅した竜から撒き散らされるホムラに侵食された青いナノマシンの輝きと、それ以上に眩く輝くカグツチの光の中で拳を握りしめたまま、頭上のオロチを睨みつけた。その目には迷いも怯えもなく、怒りや憎しみもない。何処までも澄んでいた。
「これが希望、これが」
一連の光景をアベルは複雑な感情で見つめる。彼は地球を監視する者。地球と地球人類の特性を何よりよく理解している。地球人類は意図して戦闘能力を落とされた。だというのに伊佐凪竜一は対旗艦用の切り札オロチをまるで寄せ付けない。
希望。待ち焦がれた希望。人を超え、神へと至る力。しかし、その力は同時に希望を苛む。アベルは祈る。矛盾を承知で、それでも祈る。どうか、このまま無事に希望が生き延びる様に、と。敵対する清雅修一とオロチを生み出した己を顧みることなく、祈る。
ハバキリはその強固な意志――互いを助けるという両者の意志に共鳴する形で本来の力の一つを完全開放、距離を無視して銀河中のカグツチに2人の意志を届けた。意志に導かれたカグツチは2人の体内へと引き寄せられ、超高濃度状態となった。正しく、神の如き力。
だが、余りにも強力な力に肉体が耐えられない。その兆候が表出し始めた。ルミナの動きが露骨に鈍り始め、伊佐凪竜一は立つ事さえままならないと片膝をつき、更に息も上がっている。
限界が死が近い。瀕死の2人を見たスクナが支給された武器を手に空を蹴り上げ清雅修一へと向かうと、それ以外の全員が補佐に回る。
対する清雅修一は、周辺の物質を侵食し取り込みながら異形の竜を量産する。オロチ直下に青い雨が降る。地上へ落ちた雨は異形の竜を大量に生み出し、舞い上がり、万全の布陣を敷く。
「貴様は随分と強いな、貴様はな。だが、もう片方はどうだ?」
オロチに浮かび上がる無数の顔の一つが眼下の光景に嘲笑した。同時にカグツチを引き寄せる伊佐凪竜一目掛け、大量の歪んだ竜を差し向けた。彼の目は青い球体オロチを睨み上げる。意志は挫けていないが、片膝を付き、息は絶え絶え、その目は朦朧としており意識を保っているかすら危うい。
大量の力を引き寄せるには、人の身体は余りにも脆い。既に限界。危険域。だが、死が間近に迫っているであろう身体を押して、それでも伊佐凪竜一はカグツチを、勝利を引き寄せ続ける。
その彼目掛け、歪な竜が迫り来る。
次の瞬間、戦場周辺のカグツチが急激に渦を巻き始めた。更に大量のカグツチが地球に引き寄せられる。さながら暴風、竜巻、台風。白く輝く粒子の渦は桁違いの物理的エネルギーを生み出し、竜を悉く弾き飛ばすに止まらず、迂闊にも近づきすぎた数体を白い渦に呑み込んだ。粒子の奔流に巻き込まれた竜はバラバラに砕け、粉々になりながら霧散消滅した。
だが、それでもまだ何体もの竜が残っている。踏みとどまった竜は周辺の竜を取り込み肥大化、巨大な咆哮を上げながら中心目掛けて突撃した。その光景は台風を突き抜ける巨大な青い矢。巨体が繰り出す原始的な体当たりは、生身で受け止めれば肉片一つ残らないのは明白な程の力が籠る。
誰の目にも明らかな死。が、あろうことか伊佐凪竜一は立ち上がり、一度目を閉じ深呼吸を行い、再び目を見開き、竜を見据え、右の拳を握り締めた。一連の行動から誰もが次の行動を予測した。彼は生身であの攻撃を押し返すつもりだ。
「無茶だ!!」
「頼む、逃げてくれ!!」
「オイ何してんだよ、死ぬぞ!!」
無茶、無理、無謀。そんな声が戦場から上がる。しかし、止まらない。粒子の渦は伊佐凪竜一の周囲を舞い踊る。その中で彼の瞳の色が再び変わった。ほんの一瞬、だが確実に日本人特有の黒から真っ赤に染まった。山県大地戦で見せたハバキリの力が再び発現した。
その変化は粒子が生みだす輝きに消失し、誰も認識さえ出来なかった。いや、認識できたとて誰の結論も変わらない。誰もが悲痛な思いで見守る中、無言のまま迫りくる竜を睨み付ける伊佐凪竜一は、凄まじい勢いで突っ込んでくる10メートル以上はあろうかという巨体目掛け拳を振り抜いた。誰もが最悪の結末を脳裏に描く。拳は竜の質量と勢いに押し負け、へし折れ、肉体は粉々に砕け散り、辛うじて彼が生きていた証が周囲に飛び散った血痕と肉片として残る。
結果に誰もが唖然とした。
誰もが自分達の浅はかさ、間抜けさを思い知る。所詮、想像は想像。現実は時に容易く想像を超える。頭の中で描いた凄惨な予測は現実のものとならず――
ドォン
爆発に似た桁違いの衝撃と共に竜が吹き飛ばされた。まるで紙切れの如く、盛大に。想像と現実の乖離に目撃した全員が夢か幻かと目を丸くする中、更に有り得ない光景が続く。圧倒的な質量の竜を拳で殴り飛ばすだけでも異常だというのに、殴り飛ばされた竜が拳が触れた部分を起点にまるで波が広がるかのように粉々に砕け散った。
スサノヲは唖然とする。自分達が武器を持って漸く互角と言う相手を伊佐凪竜一は素手で、しかも一撃で葬り去った。
伊佐凪竜一は消滅した竜から撒き散らされるホムラに侵食された青いナノマシンの輝きと、それ以上に眩く輝くカグツチの光の中で拳を握りしめたまま、頭上のオロチを睨みつけた。その目には迷いも怯えもなく、怒りや憎しみもない。何処までも澄んでいた。
「これが希望、これが」
一連の光景をアベルは複雑な感情で見つめる。彼は地球を監視する者。地球と地球人類の特性を何よりよく理解している。地球人類は意図して戦闘能力を落とされた。だというのに伊佐凪竜一は対旗艦用の切り札オロチをまるで寄せ付けない。
希望。待ち焦がれた希望。人を超え、神へと至る力。しかし、その力は同時に希望を苛む。アベルは祈る。矛盾を承知で、それでも祈る。どうか、このまま無事に希望が生き延びる様に、と。敵対する清雅修一とオロチを生み出した己を顧みることなく、祈る。
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