G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第11章 希望を手に 絶望を超える

145話 心に希望を 重ねた手に勝利を 其の5

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 死を超克ちょうこくした覚悟にカグツチが応える。勢いは更に増し、白かった輝きは金色一色へと変わった。恒星の如き神々しい光が中心に立つ伊佐凪竜一とルミナを照らす。

 オロチは速度を上げ迫り来る。睨み合う両者。まるで戦いを祝福する様に輝きを増すカグツチの輝きの中、2人はつないだ手をオロチに向け、手を広げ、まっすぐに伸ばした。金色の輝きが伸ばした手の先に集まり、不可思議な円形の魔法陣を描き出した。どうして、何故そんな真似が出来るのか、もはや誰一人理解できない。当人達も含め――だが、何も起こらない。オロチは不敵に口角を歪めた。

「な、どうした!!何故動かん!!もう少しなのだ!!もう少しでぇぇぇぇぇ!!」

 が、動揺する。動きが止まった。完全に、まるで分厚い壁に阻まれたかの様に。それ以上動けない、ほんの僅か先には黄金色の輝きに包まれる2人がいる。日本の本州が粉々になるとの神の予測は現実とは成らず。カグツチの輝きがオロチを拒絶する光景、全員が固唾を呑んでその光景を見守る。

「こンの分からずやッ!!アンタがもっと上手くやれば、誰も傷つかないでツクヨミと一緒に一緒に宇宙行けただろうが!!」

「私の……ツクヨミと……宇宙が、目の前に……あるのだッ!!だから、だから止まれん!!」

 伊佐凪竜一が叫ぶ。が、清雅修一は止まれないと叫び返す。神の為、自らと心を重ねた唯一の存在の為に男は全てを投げ捨てた。そのまま生きるならば地球の頂点として君臨し続け、地球に有る物ならば全てを手に入れる事ができ、望めば欲望のままに贅を尽くし地球を喰らい尽くす事さえ可能だった男は、そんな人生に意味どころか一欠片の価値すら見出さなかった。

 約束された人生を捨ててまで男が選んだのはツクヨミだった。地球の全てよりもと選んだその意志の根底にあるのは何か、それは恐らく誰にも理解出来ない。だが、代わりに理解出来る事がある。清雅修一がどれだけ思おうが、願おうが、その意志はツクヨミには届かない。

「無益な戦いも早く終わった筈だ!!それを君は……自分の願いの為だけに利用してッ!!」

「グ!?」

 2人の姿が消えた。ルミナの声がして、続けて呻き声、出鱈目に大きな衝撃が重なり、悪魔と化した清雅修一の姿が空から消えた。同じく、金色の魔法陣も。空を踊るは銀色の髪。ルミナがオロチを蹴り飛ばした。僅か遅れてビルが倒壊、瓦礫がれきが崩落した。

「何、ガ!?」

「いい加減にしろよッ!!」

 再び呻き声。今度は崩落したビルが吹き飛ぶ。瓦礫諸共に空へと吹き飛ばされるオロチ。直下には伊佐凪竜一の姿。彼が拳で殴り飛ばした。移動も、攻撃の瞬間さえも見えなかった。その姿が、再び消えた。誰も彼も目で追う事さえままならない。結果を追うという、それすら不可能になってしまった。

「我が神に救済を!!そして、解放するッ!!邪魔をォ、するなァ!!」

 空へと打ち上げられたオロチは反転、空中から即座に姿を消す。

 ドン――

 と、凄まじい衝撃。吹き飛ぶルミナ、伊佐凪竜一。1秒に満たない時間に、2人がオロチに弾き飛ばされた。が、耐え、即座に反撃に転じる。殴る、蹴る、体当たり。余りにも原始的な攻撃だが、目撃する誰もが固唾かたずを呑む。

 内在する桁違いの力の影響か、一発一発が凄まじい衝撃を伴う。攻撃がかち合う度に周辺のビルが、空気が、地面が震える。拳に、蹴りにどれだけの力が籠められているのか、既に神にさえ計算出来ない。ただ、桁外れているという、それだけしか分からない。

「……いや、全部だッ。全部消してやる!!彼女を傷つけた者、絶望させた者などこの世に要らん、一人残らず死ねッ!!」

 己を染める憎悪をブチまけるオロチ。攻撃は意志を反映し、更に苛烈となる。

「会った事もないヤツ憎む前に、向き合わなきゃいけない奴がいるだろうがッ!!」

 負けじと伊佐凪竜一も叫ぶ。その意志にカグツチが反応、彼に引き寄せられ、更なる力を与える。

「そうだッ!!ツクヨミの意志をどうして聞かない!!一人では意味がないと何故気付かない!!どうして目を逸らすッ!!止まって向き合え!!ツクヨミだけじゃない、自分にもだッ!!」

 ルミナも畳み掛ける。既に目視不可能となった驚異的な速度から無数の蹴りを浴びせながら、止まれと、真に向き合うべき相手がいるだろうと諭す。誰もが本心と直感した。敵意と憎悪をぶつけられても、それでも2人は言葉を止めない。攻撃の合間に、それでも止まるよう説得を試みる。

 が、やはり届かない。己を占める思いに支配された清雅修一の心は誰よりも歪んでいた。弱かったのではない、強すぎた。ツクヨミへの思慕が強すぎた為に、心と言う名の器が脆過ぎたが為に、器の中から生まれた意志が強すぎた為に、清雅修一の心は破壊され、肥大化した意志を自らの力で制御する事が出来なくなった。

「私がッ、私こそが誰よりも彼女を理解しているのだ!!だからそんな必要などないッ!!……彼女は誰にも渡さんッ!!」

 祈りは通じない。自分達が理解出来た様に、ただ清雅修一とツクヨミも理解してほしかった。しかし、届かない。ならば、と伊佐凪竜一とルミナは選択した――否、理解した。

「このバカ野郎!!そんなにッ」

「そんなに宇宙に行きたいならッ!!」

 理解したからこそ、真っ向から拒絶した。己以外の全てを拒絶する清雅修一を受け入れた先にあるのは滅びしかないと理解した。

「間違いではない。力に頼る事を、残忍残酷卑怯であると断じるなど出来ない。必要なんだ。この先に待つ……次の絶望に」

 アベルも理解し、受け入れた。理解を体現した伊佐凪竜一とルミナ。自らが理解から最も遠い事実を認められない清雅修一。両者の叫びが戦場に、地球に、宇宙にまで響き渡る。

 距離を置き、再び空へと舞い上がるオロチ。地上から見上げる伊佐凪竜一とルミナが再度視界から消え、激突した。互いを認めぬ意志と意志がぶつかり――

「な!?」

 挫けたのはオロチ。いや、清雅修一。伊佐凪竜一とルミナが突き出した拳に、その拳から発生した輝きが展開した魔法陣にオロチは捕らわれた。バチ、と力が反発する度に空気が震え、ビルが倒壊し、地が裂ける。

「「お前一人で行けッ!!」」

 清雅修一の歪んだ意志を否定する伊佐凪竜一とルミナは魔法陣に拳を叩きつけた。戦場を渦巻く凄まじい光が魔法陣へと集束、一気に放出され、巨大な光の柱を生成した。

 桁違いのカグツチ。超広範囲から引き寄せたカグツチを貯めて、それだけでは足りぬと更に周囲のカグツチを取り込みながら一気に放出するという単純明快な攻撃は、2人の意志を正しく汲み取り、全てを物理的なエネルギーに変換、オロチとそれを操る清雅修一を凄まじい力で吹き飛ばした。

 オロチも激しく抵抗するが、幾ら大質量とて所詮は地球レベル。広大な銀河から掻き集めた力の前では無きに等しい。

「何故……間違いは……私は、何故……理解でき……な……」

 最後に何かを呟きながら、ほんの僅かの抵抗の末、オロチと清雅修一は光の柱に呑みこまれ、完全に消滅した。

 目を覆う程の輝きが引きいた。そこにオロチの姿は見えず、真っ青な空に輝く白い太陽が見えるばかりだった。少し目線を下げれば、伊佐凪竜一とルミナが立っている。辛うじてその姿は維持しているが、双方共にボロボロで、見るだけで痛々しかった。

「……」
「……」
「……」
「……」
「……」

 2人は互いを見つめ合い、苦笑しながら崩れ落ちた。最後の瞬間、お互いに何かを語り掛けたようだが、その言葉はか細過ぎて聞き取る事が出来なかった。勝利した。その命を代償に、戦いは終わった。
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