G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第12章 魔女と神父

157話 極秘データ 其の2

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 清雅が収集したデータを凝視するミルヴァとアイビス。目を引いたのは秘匿情報と題された項目。世界の中心、清雅の更に選らばれた一部しか閲覧を許されない秘匿情報は、当人以外に知り得ないような情報以外にも奇妙なデータが幾つも記されていた。

 それは個人評価の様にも見えるが、耐侵食など一般生活では聞き馴染みのない単語から、危険度といった正確な意味は分からずとも何となく察する項目までが並ぶ。

「個人情報、はともかくこの妙な項目は何だ?見たことも聞いた事もないんだが」

 ようやくミルヴァが口を開いた。

「奇妙だろう?特に一番奇妙なのは最下段の奇妙な測定データ。全てに目を通した訳ではないが、恐らく地球に住む全員分がこんな風に評価されていると思われる。私も自分の情報を見て驚いたよ。健康診断なんかを利用したのだと思うが、何とも不気味さを感じるね」

「しかし、こんな情報を一体どうして?」

「さて、ね。だが管理に限れば500年前に清雅一族と関わり合いを持ったツクヨミならば造作もなく行えただろう。何せ地球の数千年先を行く文明の落とし物だ。さて、君達コレを見てどう思う?何か気になるところはないかね?」

「ウーン。特に……ないなァ」

「僕も同じ」

 気になるか、と問われた2人は即断した。奇妙な測定データを見ても何ら異常な部分はない、というよりも何なのか理解出来ない。よって判断できる部分を元に答えるしかなく、そうなれば身長体重に始まり略歴から犯歴までと見知ったデータばかりとなる。何ら間違いもなければ違和感もない。率直な感想だ。

「そうか。確かに危険度とストレートに記された場所を見れば誰が危険人物としてマークされているかなど一目瞭然なのだが、君達の想像する通り依頼人が清雅の相当重要な位置にいる内部関係者ならば当然このデータも閲覧出来る。となれば、依頼人が君達を選ぶ理由もない。何せ危険だからね」

「まぁ、確かにそうだね。ところでこの意味不明な評価項目は何なんだい?」

「あぁ……まぁ、そう言うと思ってね。清雅の関係者に尋ねたんだよ。うん、だがね」

 ミルヴァの追及にカートは急に口ごもり、遂には言葉を止めた。先を濁す口調は余りにも不自然で、困惑と混乱を隠せない顔色も加われば嫌でも先が気になり――

「何かあったの?」

 アイビスが目を輝かせながら追及を重ねた。

「ん、あぁ。評価項目については聞きだせたよ。信じ難いだろうが、ホムラに対する適性だそうだ。数人に同じ質問をしたが全員全く同じ回答だったから間違いない」

「ホムラって、通信に使用している粒子だよね?」

「そう。だが、私を含む極一部しか知らないのだが、実はそのホムラは同時にツクヨミ清雅が実現にこぎつけたナノマシン兵器のエネルギー源でもあるらしいのだ」

「冗談でしょ!?だって、通信に使うだけの粒子だよ?あんな化け物みたいな力を出せるワケ」

「そうそう。もしそれが本当なら世界中がもっとこう……世紀末みたいになってない?」

 ミルヴァとアイビスが仲良く語気を荒げた。言葉に出しこそしないが、傍に控える隊員達も困惑した。どうやら彼等も初耳だったらしい。

「私も信じられなかったよ。だが、次の情報はもっと驚くぞ。そのホムラなる粒子はツクヨミが作りだしていたのだが、ソイツは実はかなり危険な代物だと言う事だ。何でも高濃度になると人体に悪影響がでるらしい。恐らくホムラ中毒なる症状がそうなのだろう」

「なら、この耐侵食というのがその抵抗値みたいなモンか」

「恐らく。そして、そんな危険な代物が1930年代後半辺りからばら撒かれていた。地球内部から放出されているなんてカバーストーリーで誤魔化してね」

「成程、ソイツは確かに言い辛いでしょうな」

「いや、実はそれは大した問題では……いやコレも大した問題なのだが、実は他にもあってね」

「え、まだ何かあるの?」

「これ以上の情報が、ですか?」

「そうだよ。まぁ、私もどう受け止めていいのか分からない情報があって。先程、この情報は人類管理部門-秘匿情報管理課が管理していると言ったのだが、だが拘束したツクヨミ清雅の社員全員、誰一人として課の名前は知っているが在籍する社員の名前も、何なら姿さえも知らないと言っていたんだよ」

「ハァ?ジョーダンでしょ!?」

「本当かよオイ?」

 またしても2人は仲良く驚き、揃って素っ頓狂な声を上げた。話を聞いていた隊員達も異口同音に疑問を口に出した。流石に言葉にせずにはいられなかったようで、誰の顔も疑問と混乱一色に染まっている。

「だって有り得ないよ、地球人全員分だよ?そんな膨大で重要な情報を管理する人の顔も知らないって……あ、もしかしてツクヨミだけで管理したとか?」

「ならそんな大仰な課を作る意味はないだろ?確かに数十億人の情報を管理するならツクヨミが適任だけどさ。だが、彼女は清雅から出られない。指示を出すだけなら中からでもできるけど、外部システムの構築と維持とか、そういった現地で行う仕事は不可能だから誰かが補佐をしなきゃならない。つまりツクヨミ単独ではない。だけど社長は既に死んで……ならNo.2はどうなんです?」

「あ、あぁ。そう、白川水希ならば知っている可能性もあるが、しかし今は……ねぇ」

 と、ミルヴァの質問にカートは右手で上を指差した。釣られる様に全員が天井を見つめる。勿論、彼の言動は天井を指している訳でもなければ天国を指している訳でもない。

 白川水希がハイドリという遠く離れた空間同士を繋ぐ灰色の門を使い、旗艦アマテラスという地球人が想像すら不可能な程に巨大な艦に殴り込みをかけたのは周知の事実。終戦後、彼女を含めた清雅の戦闘加担者、協力者は巨大な艦内の犯罪者収容施設に集められ、大人しく拘束されていると言う話も同じく。

 ミルヴァとアイビスはやはり仲良く上を見上げた後に互いを見合わせると、なら暫くは無理だな、と同じ言葉を吐き捨てた。

「そうだね。この情報はこれから宇宙に上がるであろう代表者に共有するつもりだが、何方にせよ管理する情報量から見ても管理者の存在を清雅社員の誰一人として知らないという話は異常だ」

「あぁ、だから大統領は三番目の派閥なんて突拍子もない理論を出せたのか」

「正直、この情報がなければそんな事を考えもしなかったよ。だが君の話を聞いて確信に変わった。清雅にはツクヨミ派、反ツクヨミ派とは違う考え方を持つが居た。恐らくツクヨミ直轄ちょっかつか、もしくは彼女が同等と認めた誰かだ」

「で、アタシ達の依頼人もソイツだと?」

「あぁ、どう考えてもそうとしか思えない。ツクヨミ派でしか知り得ない情報を持ちながら、その行動はツクヨミ派とも反ツクヨミ派とも違う。だが、今は想像上の人間を探す意味はない。さて、続きを聞かせて貰えるか?」

「アレ以後なんだけど、実は依頼がぱったりと途絶えたんだよ。連絡が来たのはあのド派手な宣戦布告の翌日だったな」

「内容は?」

「依頼自体は何時もの通り唐突に来たが、内容は今までとは明らかに違った。『清雅市中央区にて荷物の到着を待て』、そんな内容だった」

 カートの言葉に促される様にミルヴァは最後の話を始めた。時は清雅と旗艦アマテラスが戦いを始める前日の話となる。
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