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第12章 魔女と神父
158話 過去の記録映像 其の7
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映像が映る。時刻は20XX/12/21、朝霧が晴れようかという早朝。
「クッソクソクソクソクソクソ、ついてねぇ!!」
「わわわッ、追い付かれちゃうよ!!」
「分かっちゃいるがアタシゃプロじゃねぇんだぞ!!自慢じゃねぇが反則切符食らった事がねぇ位だよ!!」
「ソレ安全運転してるだけじゃない!?」
始まりは最悪の状況から。揺れ動く映像がミルヴァが運転する車内が必死の形相でハンドルを握るミルヴァの顔を切り取り、音声は明らかなトラブルを匂わせる両者のやり取りを流し続ける。その映像が背後、リアウィンドウへと移ると――
「ンもう、何なのあいつ等ぁ!!」
アイビスの一際大きな叫び声が耳をつんざく。映像が、遠くへと流れ行く風景の奥から迫る無数の車を捉える。時期的に関宗太郎が独自に避難勧告を発令した辺りで、清雅市と周辺区域からは絶賛人が流出中。事実、映像の端には清雅市を離れる車が何台も通り過ぎる。
依頼内容と総合すれば清雅市に向けて移動中。だというのに逆行していて、更に明らかに日本人ではないドライバーが運転しているとなれば嫌でも目立つ。アクセルは既に全開、エンジンはひっきりなしに唸り、カーブを曲がる度にスキール音が悲鳴を上げる。が、一向に距離を離せない。
「危険度ゼロのミルヴァ=ウィチェットだとッ!!ならば相棒のアイビス=ローウェイもいるのか!!」
「馬鹿な!!どうやってここに侵入……いやそれよりもッ!?」
「なんでこんな超特大の大物が、よりによってこんな時期にこんな場所をうろついてるんだッ!!」
「コチラ第二偵察部隊、至急応援求む!!……そうだ、相手は『灰色の雲』だ!!は?見間違いな訳あるかッ!!」
「手の空いてる奴はコッチに回れッ、あン時のリベンジだ!!」
傍受した通信から聞こえる声は剥き出しの敵意を隠さない。元赤い太陽という肩書だけではなく、個人的な恨みが募った声。不幸にも彼女の顔をはっきりと覚えている特殊部隊員がいたようだ。
「ンもう、こんなに恨まれるって一体何したのさ!?」
「お前を助けたんだよ!!」
「あぁ、そうでした」
どうやら清雅の特殊部隊を一方的に叩きのめしたのは、何かの切っ掛けでアイビスが清雅と接触した際だったようだ。とは言え、例え接点がなくとも過去赤い太陽に所属していたというだけで追われるには十分。何れにせよ、彼女達はこの状況をどうにかしなければ最悪は殺される危険性さえあった。
「有名になりかった訳じゃねぇし、ぶっ飛ばしたくてした訳でもねぇんだよ!!」
「ま、通じないだろうけどね。あーもぅ、運が悪い運が悪い運が悪い!!」
ミルヴァはひたすらに文句を、アイビスは現状を嘆き続ける。が、追跡の手は止まない。最初の宿泊先は目の前を一級河川が流れる大きなホテル。依頼人の依頼に不安を感じたミルヴァは次はもう少し目立たたない場所にと、次の宿泊先を選んだ。判断は間違いなかった、と2人共に確信している。
問題はアイビスが何度も呟く通り、運が悪かった。依頼を受け、潜入しやすい位置に移動しようとした矢先に一番会ってはならない連中と鉢合わせた。図らずも目的地へと向かうルートだが、殊更に警備厳重な中央区に無策で突っ込むなど自殺行為以外の何でもない。
「聞こえますか?これからミルヴァの追撃に入ります」
最悪が更に重なる。どうやら追加で何者かが援護に入ったようだ。アイビスが口を閉ざし、運転席のミルヴァの眉が一層吊り上った。
「え……?おお、現人偽神の……アレ?でも、アナタは行方不明だった筈では?」
「僕の方も色々ありまして。で、戻るには手土産が必要なんですよ。事情、分かってくれると助かります」
「承知しました」
「あぁ、ソレからもう一つ……」
「えぇ?……ですけど……でも後でちゃんと説……ルティ喰らうのコッチな……」
後半から通信の一部が不鮮明になり、程なく途切れた。映像が小刻みに震える。間近に迫る死を感じ取り、思考と行動が完全にマヒしたようだ。
対するミルヴァは必死にハンドルを握り締めながら、チラとバックミラーを覗いた。直後、彼女の顔が豹変した。微かに映るミラーにキラキラと青く輝く何かが見えた。
清雅が対旗艦用に作り上げた切り札、マジンと察したミルヴァの表情が恐怖に染まった。追手に加わったのは清雅の精鋭。しかも魔の悪い事に対向車線の車もドンドンと減り始めている。ミルヴァの顔が今度は焦りに染まる。
人目がなくなれば使わない理由がなくなる。敵は容赦なくマジンを使うだろう。如何に際立って高い身体能力を持つとは言え、所詮は人類の範囲内。人知を超えた力の前には無力だと彼女は結論した。エンジンが更に唸りを上げる。甲高いスキール音が響き、車外の景色は目まぐるしく変化する。
その映像が、小刻みに震えた。遠くから鈍く重い振動が響いた。映像が前方から急激に車の後方を映す。無数にそびえる巨大なビル群の影から青い恐竜が姿を見せた。
「馬鹿野郎ッ!!」
バックミラー越しに見た光景にミルヴァが堪らず叫ぶ。同時、映像が急激に動いた。映像が大通りを外れ、裏道を映し出す。反射的に巨体が入れない細道へと入るミルヴァの判断は吉と出るか凶と出るか。捕まれば確実に死ぬ逃避行は未だ終わらない。
「クッソクソクソクソクソクソ、ついてねぇ!!」
「わわわッ、追い付かれちゃうよ!!」
「分かっちゃいるがアタシゃプロじゃねぇんだぞ!!自慢じゃねぇが反則切符食らった事がねぇ位だよ!!」
「ソレ安全運転してるだけじゃない!?」
始まりは最悪の状況から。揺れ動く映像がミルヴァが運転する車内が必死の形相でハンドルを握るミルヴァの顔を切り取り、音声は明らかなトラブルを匂わせる両者のやり取りを流し続ける。その映像が背後、リアウィンドウへと移ると――
「ンもう、何なのあいつ等ぁ!!」
アイビスの一際大きな叫び声が耳をつんざく。映像が、遠くへと流れ行く風景の奥から迫る無数の車を捉える。時期的に関宗太郎が独自に避難勧告を発令した辺りで、清雅市と周辺区域からは絶賛人が流出中。事実、映像の端には清雅市を離れる車が何台も通り過ぎる。
依頼内容と総合すれば清雅市に向けて移動中。だというのに逆行していて、更に明らかに日本人ではないドライバーが運転しているとなれば嫌でも目立つ。アクセルは既に全開、エンジンはひっきりなしに唸り、カーブを曲がる度にスキール音が悲鳴を上げる。が、一向に距離を離せない。
「危険度ゼロのミルヴァ=ウィチェットだとッ!!ならば相棒のアイビス=ローウェイもいるのか!!」
「馬鹿な!!どうやってここに侵入……いやそれよりもッ!?」
「なんでこんな超特大の大物が、よりによってこんな時期にこんな場所をうろついてるんだッ!!」
「コチラ第二偵察部隊、至急応援求む!!……そうだ、相手は『灰色の雲』だ!!は?見間違いな訳あるかッ!!」
「手の空いてる奴はコッチに回れッ、あン時のリベンジだ!!」
傍受した通信から聞こえる声は剥き出しの敵意を隠さない。元赤い太陽という肩書だけではなく、個人的な恨みが募った声。不幸にも彼女の顔をはっきりと覚えている特殊部隊員がいたようだ。
「ンもう、こんなに恨まれるって一体何したのさ!?」
「お前を助けたんだよ!!」
「あぁ、そうでした」
どうやら清雅の特殊部隊を一方的に叩きのめしたのは、何かの切っ掛けでアイビスが清雅と接触した際だったようだ。とは言え、例え接点がなくとも過去赤い太陽に所属していたというだけで追われるには十分。何れにせよ、彼女達はこの状況をどうにかしなければ最悪は殺される危険性さえあった。
「有名になりかった訳じゃねぇし、ぶっ飛ばしたくてした訳でもねぇんだよ!!」
「ま、通じないだろうけどね。あーもぅ、運が悪い運が悪い運が悪い!!」
ミルヴァはひたすらに文句を、アイビスは現状を嘆き続ける。が、追跡の手は止まない。最初の宿泊先は目の前を一級河川が流れる大きなホテル。依頼人の依頼に不安を感じたミルヴァは次はもう少し目立たたない場所にと、次の宿泊先を選んだ。判断は間違いなかった、と2人共に確信している。
問題はアイビスが何度も呟く通り、運が悪かった。依頼を受け、潜入しやすい位置に移動しようとした矢先に一番会ってはならない連中と鉢合わせた。図らずも目的地へと向かうルートだが、殊更に警備厳重な中央区に無策で突っ込むなど自殺行為以外の何でもない。
「聞こえますか?これからミルヴァの追撃に入ります」
最悪が更に重なる。どうやら追加で何者かが援護に入ったようだ。アイビスが口を閉ざし、運転席のミルヴァの眉が一層吊り上った。
「え……?おお、現人偽神の……アレ?でも、アナタは行方不明だった筈では?」
「僕の方も色々ありまして。で、戻るには手土産が必要なんですよ。事情、分かってくれると助かります」
「承知しました」
「あぁ、ソレからもう一つ……」
「えぇ?……ですけど……でも後でちゃんと説……ルティ喰らうのコッチな……」
後半から通信の一部が不鮮明になり、程なく途切れた。映像が小刻みに震える。間近に迫る死を感じ取り、思考と行動が完全にマヒしたようだ。
対するミルヴァは必死にハンドルを握り締めながら、チラとバックミラーを覗いた。直後、彼女の顔が豹変した。微かに映るミラーにキラキラと青く輝く何かが見えた。
清雅が対旗艦用に作り上げた切り札、マジンと察したミルヴァの表情が恐怖に染まった。追手に加わったのは清雅の精鋭。しかも魔の悪い事に対向車線の車もドンドンと減り始めている。ミルヴァの顔が今度は焦りに染まる。
人目がなくなれば使わない理由がなくなる。敵は容赦なくマジンを使うだろう。如何に際立って高い身体能力を持つとは言え、所詮は人類の範囲内。人知を超えた力の前には無力だと彼女は結論した。エンジンが更に唸りを上げる。甲高いスキール音が響き、車外の景色は目まぐるしく変化する。
その映像が、小刻みに震えた。遠くから鈍く重い振動が響いた。映像が前方から急激に車の後方を映す。無数にそびえる巨大なビル群の影から青い恐竜が姿を見せた。
「馬鹿野郎ッ!!」
バックミラー越しに見た光景にミルヴァが堪らず叫ぶ。同時、映像が急激に動いた。映像が大通りを外れ、裏道を映し出す。反射的に巨体が入れない細道へと入るミルヴァの判断は吉と出るか凶と出るか。捕まれば確実に死ぬ逃避行は未だ終わらない。
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