G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第12章 魔女と神父

161話 過去の記録映像 神の懺悔 其の1

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 神が姿を見せた。誰も、何も言えなかった。地球も、旗艦も。ゾッとする程に美しく、まるで人形の様な無機質な美しさを宿した神は死亡した伊佐凪竜一とルミナの傍に出現すると動かない2人の頬を軽く撫でた。周囲を青い粒子が舞い始める。奇跡の力、ハバキリに彼女を維持する高性能ナノマシンを組み合わせた救済。ほんの僅かずつだが、ボロボロになった2人の身体から傷が消え始めた。

「私はツクヨミ、今から500年以上前にカガセオ惑星連合に存在した独立研究艦で生まれ、旗艦アマテラスから差し向けられたスサノヲ達の殺戮さつりくから逃げ延び、この星に辿り着いた式守シキガミだ」

 神はそう自己紹介をした。反応は対象的だった。固有名詞の意味を理解出来なかった地球側は呆然とし、地球の現状が500年前とは言え自分達にあると突きつけられた旗艦側の誰もが苦悶を浮かべた。

「言い訳をするつもりではありませんが、私の指示ではありませんでした。当時のスサノヲ達は貴方達を自分達の代わりとなる新たな戦力と誤解し、無用の烙印を押される屈辱と処分される恐怖から先走った行動を起こしました。申し訳ありません。それが今回の悲劇の幕開けになるとは、予測出来ませんでした」

「そんなつもりはない。私は君が不在の旗艦の様子を見てきた。そこで起きた混乱も、今回の戦いに発展するまでの経緯も知っている。だから君を責める気にはなれない、幾度と無く思ったよ、君も随分と苦労しているようだ、と」

「君も、ですか」

 神同士の対話は悲壮に満ちる。互いが人により良き道を示そうと試み、しかし失敗した。機械の様な、能面の様な表情が悲嘆に暮れる。その顔に誰もが理解した。

 あれは神ではない。少なくとも神話に伝わる全知全能の存在ではない。神であってほしいと言う願いを押し付けられ、仕方なくその役割を演じていただけの人形なのだと。願いを押し付けたのは言わずもがな人間。人が神を望んだから、だから神ではない機械は神を演じていたのだと。

「人の意志、感情は制御し難い。過去、戦争が起きた。些細な切っ掛けで多くの国が巻き込まれた。僅か数年の戦争は、その間に機関銃を、塹壕を超える戦車を、化学兵器を、飛行技術を発展させて空爆を……と、際限なく新しい技術を生んだ」

 神が語る戦争とは世界大戦。わずか数年の激動は、その間に人を殺す為の手段を凄まじい勢いで先鋭化させた。開戦当初の騎兵による突撃が花形だった極めて前時代的で古風だった戦いの在り様は激変した。

「凄まじい死者と傷跡、憎悪と悲嘆ひたんを残して戦争は終わった。なのに、僅か20年足らずで次の戦争の足音が世界中に響き始めた。戦争の傷が癒えぬ間に、記憶が薄れぬ内に人は次の戦争を起こそうとした。技術は更に進み、遂には禁忌の領域にまで踏み込んだ。核分裂反応の発見。人類は、自分達を滅ぼし得る兵器を作り出してしまった」

 ツクヨミは語る。過去を、核心を。何故、人類の歴史に介入したのか。話を聞く地球側に変化が訪れた。誰もが頭を抱え、困惑した。神の話が正しいならば、清雅修一の話が正しかったのならば、神が介入した理由は地球人類を二度目の世界大戦から救済する為だという。

「一度目の世界大戦で起きた戦争技術の異常発展を見れば、核分裂技術を兵器として実戦投入するなどは容易に想像できた。次の戦争、私の計算では最大で総人口の5%以上の死傷者を出し、核兵器が本格運用されれば最低でもその3倍以上を犠牲にし、更に消えぬ傷跡と禍根かこんおぞましい程の負の連鎖を生み出すと予測した。私と、私の為に全てを捧げる清雅一族も区別なく飲み込む。戦いへと至る理由は世界中に吐いて捨てるほど存在した。世界中を巻き込んだ経済恐慌、対策が生む孤立と飢餓きが、世界大戦後にくすぶっていた憎悪の爆発、戦争特需への期待、それ以外にも無数に。誰かが火を付ければ、その瞬間に世界中が業火に包まれるあろう事実を知っているのはその時点で私だけだった」

 神の顔に暗い影が落ちる。誰もが知りたかった「神が歴史に干渉した理由」は知ってしまえば単純、ただの善意だった。誰もが夢想した。噂に聞く清雅の神が清雅一族に寵愛ちょうあいを授けなければ、地球は今と違う姿だったのでは、と。そして、その世界は今よりは素晴らしい筈だと何の根拠もなく思っていた。が、容易く崩れ落ちた。

「私は、死を見たくなかった、戦争を見たくなかった。その時は理由が分からなかったが、今にして思えば戦争という行為は私の願いの対極だと無意識ながらに理解していたのだろう。二度目の世界大戦を起こさせない為、私は地球の歴史に干渉した。先ずは日本が巻き込まれない価値を生み出し、次に真の目的……全ての人類を戦争の監視者にする為。清雅一族に指示を出し、地球の技術と資源で作れるよう簡略化した携帯通信端末の雛型ひながたを作り、世界中に輸出させた。併せて情報交換用の仮想世界を構築し、当時の清雅一族の長に管理を任せた。旅行ですら一般的とは言い難かった娯楽に乏しい時代、人々は必ず求めると予測した」

 淡々と語る神の告白に誰もが慈愛を感じた。話を聞く地球側の混成軍から、清雅への怒りが消失した。人の死を見たくない、二度目の世界大戦を阻止したい、だから数千年先の技術を用いた携帯端末を世界中にばら撒き、人類を監視役とする事で阻止を試みた。その行動理念に偽りはない。

 現に、と誰もが数時間前の絶望的な戦力差を思い出す。その力と知識を用いれば世界の支配さえ可能だった。だが、選ぶことはなかった。
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