G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第12章 魔女と神父

162話 過去の記録映像 神の懺悔 其の2

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 ツクヨミの告白に異を挟む声は上がらない。誰も分からなかった。神の決断が正しかったのか、間違っていたのか。桁違いの演算能力を持つ神でさえ分からないのだから、人に分かる道理はない。

「オイオイオイ、惑星保護条例知ってんのか?違反しまくりじゃねーか。つーかこの時点で幾つ違反してんだよ」

「だが、情状の余地は十分にある。スサノヲの暴挙から逃れる為、銀河の端にまで追われた前提で未探査区域の未開惑星で生き延びる為という理由で連合の技術を使用したのならば正当防衛、緊急避難が適用される可能性は十分にあり得る」

「まぁ……でも助け位は」

「神が暴走を止められなかったとなれば、無許可で強襲した可能性が高イ。となれば状況把握どころか真面な準備さえ出来なかったのでは?」

「あぁ、そっかぁ」

 高性能で、かつ翻訳まで完璧に行う集音マイクが男達の声を拾った。映像は相変わらずツクヨミだけを映していて声の主は不明だが、惑星保護条例という単語から旗艦側の一団だろう。

 映像がアチコチを彷徨さまよい、やがて会話する2人の男を見つけ、拡大した。一人はスキンヘッドの厳つい男、もう一人はツクヨミと同じく不自然なまでに整った容姿の男。

 男達の顔は苦悶に満ちていた。2人だけではない。映像が再び目まぐるしく動く。旗艦側の誰の顔も酷く曇っていた。終戦の余韻も当然ない。

 誰も知らなかった。自分達の文明が作りだしたツクヨミが地球に逃げてきた事も、その理由も、地球に介入した理由も、何一つ知らなかった。知ったところでどうにもならない程度は彼等も良く知っている。

 何せ500年も前、生まれる前に起きた事件が原因なのだから。だが、だからと言って無責任に逃げるなど出来ない。もう少し穏便な出会い方をしていれば、こんなこじれた事態になどなっていなかったのは火を見るよりも明らか。

「これじゃあどっちが蛮族か分かったモンじゃない」

「蛮族、散々言われた言葉だが……クソッ」

 マイクが再び違う声を拾った。旗艦側の誰かが自嘲じちょうしたが、切っ掛けだけを見ればそう評されても仕方がない。事実、地球側の誰もが映像が捉えたアラハバキ達の傲慢ごうまんな交渉に閉口した。

「なんで、止めてくれなかったんだ」

 明瞭な、怒りを含んだ声がした。声の主はアイビス。時折小刻みに揺れ動く映像が、やるせない怒りに支配される彼の心情を雄弁に語る。

「戦いを仕掛けたのは上層部だけ。逆らえない、従わされた。だが、なぁ。大勢が死んで、しかも本来なら死ななくて良かった奴等だ。納得なんてしたくても」

 ミルヴァもたまらず本音を零す。2人共に分かっている。恨んでも仕方がないなど頭で、常識で理解している。だが、それでも抑えきれない感情が言葉に乗る。

 止めたくても止められない事もあると知っていて、権力者の横暴を止めようと思うならばそれこそ神の如き力が必要だと知っていて、だが誰もが普通の人間で、そんな事が出来ないと知って、それでも吐き出さずにはいられなかった。理屈は正しくとも、納得出来るかはまた別の問題。

「世界中の誰もが、国に居ながら、家に居ながら世界を監視する社会が突如として到来した。戦争の火種を見つけ、それを広める世界。極少数が戦争を望もうが、圧倒的大多数はそれを望まない。その圧倒的大多数を監視者とする事で多くの虚構が暴かれた。とある国の不都合な事実が暴露され、またある国では条約を反故にし戦争を行う準備をしている事が明るみになり、更に別の国では戦争による特需を狙い世論を誘導している事が判明し、それとは別のある国では世界に喧伝した内容と実情の乖離かいりが暴かれた。戦争の目は潰され続け、戦火へと至る火種は消えた。表面上の平和が訪れた。たった一つの国を除いて……圧倒的多数の国は、当時の技術水準では絶対に製造出来ない高性能携帯端末を発売した極東の小さな島国への関心、恐怖、憎悪、不信を膨らませていった」

 神は世界大戦を止めた。結果、世界はその姿を変えた。世界の頂点に躍り出た日本を、清雅一族を、己を憎む世界に作り替えた。全て、承知の上だろう。

「だが、圧倒的な利便性の前に屈した。作ろうとしても作れず、工作員を派遣しても誰一人戻ってこなかった。あらゆる工作は全て私が指示を出し、清雅一族が潰した。業を煮やした先進国の一部が行った恫喝には、もし戦争を起こしたら技術全てを闇に葬ると逆恫喝を行うよう指示を出した。結果、戦争は起こらず、全ては私の思惑通りに進んだ。1945年8月31日、新製品を世に送り出した。最初に作った端末は当初の目的を果たすには十分だったが、急造品故に不具合や故障が多かった。より洗練された機能と耐久性を備えた新製品は旧端末の機能を全て備えた上で、更に私が制御しなければ動かない様に仕様変更した。私の存在を知らねば仮に解析と複製に成功しようが動かない。全ては清雅以外に技術を使わせない為、世界の歪みを最小限に止める為。現に複製は生まれなかった。更に駄目押しで大量生産を行い、短期間で独占状態に持っていった。少々の誤算はあったが、問題はなかった」

 続けて語ったのは独占理由。技術は解析されるが、動かなければそれ以上の進展はない。清雅独走を阻止する為とは言え、延々と失敗する解析と模倣に費用を出し続けるなど不可能。結果、どの国家も連合の技術解析を放棄した。

 選択は正しく、異を唱える声は上がらなかった。地球全体が連合の技術を解析、発展させた未来は余りにも不透明だが、軍事転用されれば一度防いだ世界大戦が再来する可能性は否定できない。

 ただ、当時の地球は納得しなかった。少々の誤算、とは清雅製の携帯端末の所持から使用に至る一切を法で禁止する強硬策。反日本条約。先進各国が中心となり、先ずは輸入禁止を正式に表明、書面で約束した。

 条約発効に関わった先進各国の首脳達がどのような意図で行動に移したか定かではないが、少なくともその中に日本への危機感が含まれていた点は疑いようない。誰もが分かっていた。桁違いの性能を持つ高性能な携帯端末に依存すれば抜け出せない事に、日本の専横を許すどころか支配される事に。

 だが、結果はやはり無駄に終わった。条約は破棄され、世界は清雅の専横を許した。当然、恨まれる。だが、その覚悟で神は突き進んだ。世界から、憎まれる、呪われる。神は世界を救ったが、人は神様を救わなかった。歪な世界は、こうして幕を上げた。
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