G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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神魔戦役篇 エピローグ

180話 苦難 未だ終わらず

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「どうした?ボケっとして?」

「「え?」」

「もしかして、疲れた?」

 またしても意識外からの声。驚きながら意識を声に向ける伊佐凪竜一とルミナ。つい今しがたまで会話していた少女は消え、休憩フロア入り口に立つ数人の人影が視界を占拠する。反応は対照的。伊佐凪竜一は全員の顔を知らず驚きと困惑が入り混じった顔のまま固まり、ルミナは見知った顔に強張った表情を僅か崩した。

 が、心中は未だ謎の少女に釘付け。少女は忽然こつぜんと姿を現し、姿を消した。同時に時が止まったかの様な静寂が破られ、喧騒を伴う何時もの空間へと戻った。目まぐるしい変化と異変の連続に思考が追い付かない。

「何が?」

「分からない」

 共に揃って少女が立っていた場所にもう一度視線を送った。が、やはり痕跡は影も形もない。

「もしや、まだ身体の調子かが悪イのか?もしくは記憶障害の影響か?」

「起きただけでも奇跡って話だし、無理せず休んだら?」

「だな。今日だって顔を見たかったってだけだしなァ」

 一方、見舞いに来たであろうスサノヲ達は何もない空間を茫然と見つめる2人を怪訝けげんそうに見つめる。見舞い姿を見せ、声を掛けたのに全く反応がないのだから無理もない。

「いえ、大丈夫です。それより、今そこに人が居ませんでした?10代前半位の女の子みたいな姿の」

 正体不明の少女への困惑と疑念が未だ渦巻くルミナは彼等ならば、と先程まで確か言葉を重ねた少女について尋ねた。少女が夢や幻の類でなければ確実に仲間達も見ていると彼女は考えたが、反応は芳しくない。訪れた全員は揃って互いを見合わせ、次に周囲を見回した。

 VIP専用の病棟に作られた休憩スペースは殊更に大きく、特に入り口から少し進んだ場所は大きく開けていて視界良好。よって不審な人影があれば見逃すなどあり得ない。

「女の子?いなかったわよ、ねぇ?」

「そもそも今日の面会はワシ等だけじゃぞ」

「外の警備だって厳重で、俺達ですら入るのに苦労する位だぞ?」

「それらしイ反応は俺のセンサーも拾ってイなイ。もしや幻覚か?やはり面会は早計だったか」

「何ィ!?折角こうして来たのに……」

「黙れイズナ。そもそも生還すら奇跡という話なのだから無理はさせられん。コノハナ女史には私から話を付けておく」

「むぅ、致し方ない」

 伊佐凪竜一とルミナ以外に誰も少女を見ていない。となれば幻覚で話が纏まるのは必然。面会に来た面々は踵を返し、休憩室を後にする。

「それにさぁ……邪魔しちゃぁ悪いでしょ、ネ?」

「「え?」」

 最後に誰かが爆弾を落とした。仲良く驚く伊佐凪竜一とルミナ。本日三度目だ。

「え、いやあの違うと思いませんか?」

 落とした張本人クシナダを問い質す伊佐凪竜一。

「報道の情報はちょっと誇張が過ぎる」

 ルミナもやんわりと否定する。が、当人はしたり顔。噂に振り回されている、という訳ではない。彼女はまだ年若く、恋愛感情に人一倍敏感なだけだ。

「えー、だって……ねぇ?」

「噂の件か。まぁ真偽はともかく、今はゆっくりとしたかろう。地球と言う惑星で苦楽を共にしたのならば尚のことじゃな」

 クシナダの見解にスクナも同調する。2人に関する噂は当然ながらスサノヲにも届いており、既に周知の事実として受け入れた。事実と違うなどと思いもしないスクナも、それ以外も盛大に勘違いしているなど考えもしない。

「ウワサ?ウワサとは何だ?」

 但し、タケルを除く。彼は意志や感情を理解したばかりで、情報はあれども実経験なく、観測もしていない恋愛を理解するのは困難を極める。だから伊佐凪竜一とルミナの噂話を正しく認識出来ない。

「ホラ、報道で熱愛とか何とかって聞いたでしょ?」

「ネツアイ?ねつあい、熱愛……」

 クシナダの回答とデータベースに記録された情報、散々報道された噂を何度も反芻はんすうするタケルは混じりっ気一切ない純粋な視線を伊佐凪竜一とルミナに向ける。が、程なくあぁ、と何か納得すると――

「俺達がこの部屋に来る少し前、2人が横になって身体を重ねていた事と関連があるのか?」

 落としてはならない特大の爆弾を落した。高性能であるが知識が戦闘関連に偏る彼は、戦闘方面に反して一般常識には全く疎い。それがこの場にで仇となった。熱源反応により壁を隔てた向こう側で起きていた出来事を把握していても、熱愛、愛情を理解出来ず、よってその行為が持つ意味にまでは理解が至らなかった。

 口に出したのは純粋な疑問。邪推、悪意は一切ない。無垢で無知、それ以上に純粋であるが故の疑問だった。非常に不味い。空気が明らかに一変した。伊佐凪竜一とルミナの表情が一気に強張った。誤解だと叫ぼうとするも、唐突な暴露に思考が追い付かない。

「オイオイオイ。何だ何だよ、やっぱり間違ってねぇじゃねぇか」

「ほぉ。つまり噂流したのはお前かタガミィ」

「全く。コイツはホントに」

「いやそれよりもォ!!」

 反応は様々。タガミは驚き、スクナとワダツミは荒唐無稽こうとうむけいな噂の出処に怒りを滲ませ、イヅナは盛大にキレる。クシナダは未だ空気を読めず一人涼しい顔をするタケルに近寄り、何事かを耳打ちした。程なく、タケルは彼女から教えられた|(やや誇張が含まれた男女の仲に関する)情報に無言で頷き――

「頑張ってください」

 と、また盛大にズレた台詞をぶちまけた。やはり悪意一切なし。これ以上ない満面の笑みには純粋な応援以外の感情は存在しない。

 違う、と言い訳をしなければならない。しかし、理解しつつも未だ思考と身体が硬直する伊佐凪竜一とルミナを他所に話しは勝手に進み続け、4人が揃って踵を返し部屋を後にした。

 その場に残ったのはイヅナだけ。が、直後にワダツミに肩を掴まれた。酷く狼狽し、説得し、反論するイヅナ。が、自分よりも一回り以上大柄な男を懐柔する事は叶わず、そのまま担ぎ上げられた。非常に情けない姿に、かつて旗艦を守り抜くために奔走した過去の精粋さは見る影もない。視界から消え去る直前に見せた姿は、まるで駄々を捏ねる子供の様に情けなさで溢れていた。

「まぁまぁ、そうねるなって」

「そーよ。それに後でまたタガミが奢ってくれるってさー」

「オイふざけんな!!これ以上奢れるか!!寧ろ奢れよ!!」

 彼の残した悲鳴に近い何かと、仲間達が楽しそうに慰める台詞が入口から余韻の様に響く中、勘違いを正す機会を完全に失った2人は呆然自失とする。

 程なく、伊佐凪竜一とルミナのあらぬ噂は地球と旗艦アマテラス中を駆け巡り、晴れて公認の恋人|(但し当人達だけ非公認)として広く認識される事となった。

 この後、地球ではこの話題を元にした作品が雨後の筍の様に製作され、旗艦アマテラスではタブーに近かった自由恋愛の波が若年層を中心に一気に押し寄せ、旧態依然とした見合いを駆逐していく事になるが、2人が知るのは当分先の事となる。

「どうする?」

「あぁ……」

「誤解、解かないと不味いと思うんスけど?」

 伊佐凪竜一がそう言葉を掛けるが、しかし気のない返事しか聞こえない。

「あの。おーい、聞いてます?」

「あぁ……」

「駄目だなこれは」

 何度かの応答の末、諦めた伊佐凪竜一は項垂れ、今後の検査の為に休憩フロアを後にした。彼の背に気付いたルミナも一歩遅れる形で続く。

「地球も宇宙もその中心に居た神が不在となりました、我々は神無き世界に取り残されました」

 背後の巨大ディスプレイが講和会議の会場を繋いだ。通信不能となった地球の事情を汲む形で早期に実施された会議は問題なく条約締結を迎え、両者の代表が互いの認識を再確認すべく、世界に向けて次の言葉を共同で発信した。

「嘆く事は許されません、神は己の庇護ひご下に人を置いた事を後悔し、自ら世界を去りました。しかし、それは決して無責任からではありません。我々の為です、我々がこの世界で強く生きる事を願ったのです。今後、我々は二柱の神の意志を継がねばなりません。即ち、自らの足で歩かねばならないのです。ですが、既にそれを体現した者がいます。神と引き換えに誕生した新たな光、英雄と共に……」

 神と引き換えに誕生した新たな英雄と声は評した。この瞬間、伊佐凪竜一とルミナは神に代わり人を先導する英雄としての地位が確固たるものとなった。

 新たな英雄の自覚は未だない。去り行く背が物語るのは勘違いを正せなかった憔悴。英雄を賛美する中継映像の音声は未だ流れ続け――不意に消失した。無音の空間に、少女の声が語り掛ける。

『さぁ、頑張ってくれ。次の絶望が訪れる前に』

 誰にも聞こえないささやきが、英雄に祭り上げられた伊佐凪竜一とルミナの苦難が終わらない事を暗示する。
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