G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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序章

0話 はるか遠い 昔の話

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 約500年前――

静寂せいじゃくを破り大きな衝撃と音が辺りを引き裂く。どれだけ眠っていただろうか。酷い揺れにより調整槽が不調をきたし、私は予期せず目覚める事となった。静かに開く扉を視線で追いながらゆっくりと起き上がる。

 どうやら身体に異常はなく、私と接続するシステムは正常に働いている事を確認した。いや――

 私は、何者だ?

 記録を呼び出してみるが強制的に落とされた節があり、私に関する全ての情報が欠落していると気付いた。随分と酷い揺れが起きていた事を考えれば、大きな衝撃が原因と考えるのが妥当か。何が起きたのか、いや今考えても仕方がない。

 それ以外は大丈夫だろうか。私は視界の端に映る円筒状の何かの端に手を伸ばし、ゆっくりと起き上がる。周囲を見回してみた。掴んでいた物は調整槽らしい。続いて正面、左右を軽く一瞥した私の視界、真っ暗な部屋を僅かに照らす光の中に現状が浮かび上がって来た。

 周囲の壁は破損し内部を露出させており、更にその奥からはパチパチと嫌な音を出している。剥き出しになった配線や組み立て途中と思しき用途不明の機器などの他に衝撃で飛び散った工具や部品、破損した天井や壁面の一部が彼方此方に飛散していた。

 何か事故が起きたのは確実。だがもう一つ、明らかに衝撃とは違う不自然に剥き出しとなった周囲の機器の状況を見るに、この場所は明らかに急造で作られたらしいと理解した。

 その理由を求め、先ずは手近な機器を起動、先ずここがどこなのか確認した。程なく一枚の画像が表示された。小型艦の全体図だ。急造で作られたと思しき小型艦の調査を更に行う為に操作を続けると、艦の全体図に一つの白い点と無数の赤い点が表示された。白い点は私が居る場所。ならば、小型艦の至る所に広がる無数に赤い点は破損部分だろう。困った。これを修理するとなるとどれだけ時間が掛かるか想像も出来ない。

 機能低下ないし異常を告げる警報が今も尚、けたたましく鳴り続き、鳴りやむ気配を全く見せない状況と併せれば、艦の破損は予想以上に酷く、複数の機能が復旧見込みの立たない状態である事がわかった。起きて早々に前途多難ではあるが、しかし愚痴をこぼす暇はない。

 続けて艦外の様子を確認すれば、鬱蒼うっそうとした木々が茂る森の中に記録に存在しない様々な植物が自生している様子が映し出され、更に遠方を観察すると微かな灯りの中に整然と並ぶ建物が見えた。一際大きく、且つ目立つ建物の特徴から恐らくこの星の原生生物はそれなりに知能が高い事が窺える。

 状況から考えれば相当以上の音と衝撃が発生しており、彼らの元に届いたと考えて良い筈だ。ならばこの場所を見つけるのは時間の問題。

 どうするべきか。私は必至で思考を巡らせる。だがデータベースに有益な情報はなかった。辛うじて、私が所属する船団は調査目的の為に多くの星を巡っているという程度が残されているだけ。残りはすべて破損しており、復旧は不可能、出来ても相当の時間を要する事しか分からなかった。自然と、口から溜め息が零れ落ちた。

「お目覚めのようですね」

 今後の指標さえ立てられない私に、突如として何者かが語り掛けてきた。機械的で抑揚の無い低い声から男だと分かるが、周囲を見渡せどもそれらしい存在は見当たらない。

 そんな折、私の目の前にあった幾つかの機器に光が灯った。同時に幾つものディスプレイが空中を淡く彩り、やがて一際大きなディスプレイが私の眼前に浮かび上がった。艦の制御システムと思われる名前しか記載されていない、なんとも味気ない画面から再び男の声が聞こえてきた。

「おはようございます。私、貴方を補佐するシステム、アベルと申します。何なりとご命令を」

 流暢りゅうちょうで淀みない挨拶が聞こえてきたが、しかし私は相変わらず状況の判断に思考を割いていた為に返答が遅れてしまった。私がそんな有様だったからだろうか、そのシステムは私を気遣うように先んじて自己紹介をしてくれた。

 自らすら頼れない。そんな状況において私が頼れる相手は私を補佐すると名乗ったアベルだけ。不幸続きだが、彼が無事だっただけでも良しとしよう。何せ私は情報の大部分が欠落しているのだから。

 自らの置かれた状況と頼るべき相棒の存在が明らかになった事で、私の意識は狭く乱雑な艦内では無くその外へと向かった。中の状況も気になるし、私達がどうしてこんな状況に陥ったのかも気になるが、それを考えたところで今私達が置かれた状況は改善しない。

 色々と気にはなるが先ず優先するべき事がある、この小さな艦の状態と外界の様子を確認しなければならない。私は極めて事務的な印象を持つその声にこの星の情報を集めるよう指示を出した。

「かしこまりました。しかし詳細な情報の収集は不可能です。現在可能な事と言えば極限られた範囲の天候や地形などといった軽微な観測、及び当艦が保有するデータベースの閲覧程度です。本格的な調査を行うならば破損したシステム部分の修復が必須となりますが、ナノマシン生成機能、及び制御プログラム破損により自動修復機能が働いておりません」

「修復可能になるまでの時間は?」

「約24時間程です。本船はこの星への降下前に接触した小型隕石の影響により……」

 アベルの言葉で私達がこの星へ降り立った理由を知る事となった・・・不慮の事故、か。だが不幸を嘆く暇は無い。簡単な情報しか集められないならば、せめて復旧するまでの間は自身で情報を集めるべきだろう、止まっていたところで状況は好転しない。

 漆黒の空に僅かずつ光が差し込み大地を照らす光景が見えた。夜が明ける。例外もあるが大半の生物は活発に活動しだす時間だとデータベースに記録されていた。24時間。だがこうしていて何かが解決するわけではない、それに彼には自由に動ける体躯が無さそうだ。私はアベルに外に出て情報を集めると伝える。

「かしこまりました。幸い艦外の環境に問題はありません。ですが未探査地域の更に未開惑星となる為、連合法第6章55項から76項までの全21条245項に及ぶ未踏区域に存在する惑星保護に関する法律が適応されます。知的生命体と接触の際はくれぐれも対応にご注意を。とは言え、不慮の事故に加え、船団から追われ、逃げ延びた身。律儀に守らなければいけない理由もありません。生身ではない貴方であっても自己保存の為の防衛は認められておりますので、最終的な判断はお任せ致します」

 逃げた、か。相変わらず記録は欠落しているが、何か重大な理由でこの星に逃げ延びた事は分かった。

 だが、生身ではない、か――

 冷淡に放たれたその一言に現しようのない感情が沸き立った、だがそれがなんであるかは私には理解できなかった。説明し辛い、まるで胸に穴があいたようなそんな感覚に陥る。とても不思議だった、私自身は過去の記録の大半を失っているというのに、どうしてそのような感情を持つのだろうか。
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