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序章
1話 開幕
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約500年後
世界は順調に、異常な発展を遂げた。特に通信分野の発展は目覚ましく、リアルタイムでの大規模無線通信が一切の遅延なく、標高数千メートルの山岳から海底一万メートルに至る世界中のあらゆる場所で行えるようになった。しかも、それ程の性能を与えられた通信機器は手に収まる程にまで小型化された。
その原動力となったのが日本。否。その中心に座すG県、清雅市。地球で最も発展した日本の中心に存在する大都市、灰色の無味乾燥とした都市は今や世界の通信関連事業を一手に担う。よって、当該都市の存在を抜きには世界そのものが立ち行かない。いわば、世界の中心。
そして、文字通り世界の中心に座すのが清雅一族、及び一族が興した超大企業「ツクヨミ清雅」。世界の中心に座すとの評価を世界の誰一人として疑わない大企業。同時に、最も謎多き企業。1900年代、それまで沈黙を守って来た一族は突如として表舞台に登場するや、破竹の勢いで世界の中心に躍り出た。
「あーあー、A-24からE-12へ。聞こえますかね?」
その中でもひときわ高い本社屋上に人影が踊る。影の前には「画像無し」と表示されたディスプレイが浮かび上がる。眼下から遥か遠くを眺めれば、白い街灯、赤い航空障害、ネオンその他、雑多で統一性のない淡い輝きが闇に沈む灰色のコンクリートジャングルの輪郭を描き出す。
「E-12からA-24へ。聞こえますが、その砕けた喋り方を止めてもらっていいですか?」
それは何者かから別の何者かへの通信。だが最初に声を掛けた側、A-24と呼ばれた者の口調や声のトーンが気に入らなかったのか、もう片方、E-12は露骨露骨な不満を隠そうともしない。
「フフ」
「何が可笑しいんですか?」
「いえ、失礼。もうすぐ血生臭い戦いが始まると言うのに、何とも呑気だと思いましてね」
その言葉に声は一旦途切れる。A-24は"またか"と愚痴りながら、同時に僅かに出来た時間に安堵すると大きく溜息をついた。冬の夜空を何者かの吐き出した息が白く染めるが、ソレはすぐに霧散してしまった。何者かはその様子を何とも悲し気に見つめている。
「申し訳ない……我らは最善を尽くしました」
埒が明かない、A-24はそう判断すると話のきっかけを作る為だけに上辺の謝罪を口に出す。そうすれば直ぐに相手は何らかの反応を示す筈だと、そう考えての判断だ。
「知っています」
ディスプレイから聞こえる甲高い声を聞いたA-24は予想通りの反応に苦笑すると何気なく夜空を見上げた。その意識は分厚い雲のその先、真っ暗な闇の中に浮かぶ無数の星々、肉眼では見えない彼方に思いを馳せる。
「しかしE-12、アナタは本当にそう言い切れますか?」
A-24が再び切り出した。
「私は私に与えられた任務を忠実に実行しています」
「つまり……傍観するだけで何もしていないと?」
「我々に与えられた役目です。寧ろA-24、アナタの方が間違っているのです」
「知っていますよ。しかし、だからと言って、この状況を許すのもどうかと思いますがね?これでは地球と地球人類の存在意義が消えてしまう」
「ではどうしろと?まさか、介入しろと言うつもりですか?」
「さて、どうでしょうね。しかし結果次第ではこの銀河から一つの文明が消え去ります。E-12、アナタは自らの選択に覚悟を持っていますか?」
「は?何を」
「そうですか、ではもうお話しする事はありませんね。御機嫌よう」
「えぇ、持っています。持っているに決まっているじゃないですか!!」
通信相手の語気が急に荒っぽくなった。「図星か」と、A-24は相手に聞こえない様にそう呟くと、今度ははっきりとした口調で相手に語り掛ける。
「違いますね。E-12、アナタは何も知らない。我らがどんな思いでこれまでの時間を過ごしてきたか、どんな覚悟で今日この日を迎えたかッ」
急に、A-24が声を荒げた。一変した口調、言葉尻には通信相手への苛立ちと不快感が滲む。
「それは……」
突然の変化に戸惑うE-12。覚悟。その単語に酷く心が揺さぶられている様子は音声だけで十二分に伝わる。
「アナタはきっと笑うでしょうが、それでも断言します。地球は、勝ちますよ」
「無謀とは思っていないんですか?」
「アナタが最善を尽くしてくれたならばもっと別の未来もあったかもしれない。でもそうならなかった、そうしなかった。ですのでもう終わりです」
もう終わりだと、A-24一方的に切り上げた。再び両者の間に無言と沈黙が横たわった。A-24は空を見上げる。分厚い雲の隙間から覗く青い月、そしてその向こうに輝く星々。だが灰色と青と黒の三色の景色に白色が加わり始める、夜が明け始めた。
「後数時間もしない内に戦いが始まります。規模自体は大したことはないでしょうが、それでも結果次第では何れかの文明が滅びかねない」
「知っています」
「もし再び話し合う事が出来るならば、それは奇跡の様な確率でしょう」
「確率……宇宙を作り広げる力……」
「だから、諦めません。そうするなど、出来ませんでした。だから敗北が確定していると知りながら、それでもあらゆる犠牲の上に勝利があると信じて、今日この日まで研鑽を重ねてきたのです」
「本当に……負けると思っていない?いや、ま……まさか、まさか!!アナタ、まさかアレを!!"欠片"を使ったんじゃないでしょうね!?」
それまで漠然と会話をしていたE-12。が、何かに気付くや声を荒げた。動揺する声色が、完全な想定外を告げる。
「欠片はソチラにもあるでしょう?さようなら。次があれば、その時を楽しみにしていますよ」
「アレとは違いすぎる!!そもそも制御……ってちょっと待ちなさい!!それは、アレがどれだけ危……」
通信はそこで途切れた。A-24は地平線に浮かぶ恒星の光を見つめ、「夜が明ける」と一言呟くと、今度は眼下を眺めた。無人の街を照らす光は恒星の光に呑まれ徐々に消失していく。何者かはその光景を眺めながら、次の瞬間にはその場から姿を消した。
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序章終了
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世界は順調に、異常な発展を遂げた。特に通信分野の発展は目覚ましく、リアルタイムでの大規模無線通信が一切の遅延なく、標高数千メートルの山岳から海底一万メートルに至る世界中のあらゆる場所で行えるようになった。しかも、それ程の性能を与えられた通信機器は手に収まる程にまで小型化された。
その原動力となったのが日本。否。その中心に座すG県、清雅市。地球で最も発展した日本の中心に存在する大都市、灰色の無味乾燥とした都市は今や世界の通信関連事業を一手に担う。よって、当該都市の存在を抜きには世界そのものが立ち行かない。いわば、世界の中心。
そして、文字通り世界の中心に座すのが清雅一族、及び一族が興した超大企業「ツクヨミ清雅」。世界の中心に座すとの評価を世界の誰一人として疑わない大企業。同時に、最も謎多き企業。1900年代、それまで沈黙を守って来た一族は突如として表舞台に登場するや、破竹の勢いで世界の中心に躍り出た。
「あーあー、A-24からE-12へ。聞こえますかね?」
その中でもひときわ高い本社屋上に人影が踊る。影の前には「画像無し」と表示されたディスプレイが浮かび上がる。眼下から遥か遠くを眺めれば、白い街灯、赤い航空障害、ネオンその他、雑多で統一性のない淡い輝きが闇に沈む灰色のコンクリートジャングルの輪郭を描き出す。
「E-12からA-24へ。聞こえますが、その砕けた喋り方を止めてもらっていいですか?」
それは何者かから別の何者かへの通信。だが最初に声を掛けた側、A-24と呼ばれた者の口調や声のトーンが気に入らなかったのか、もう片方、E-12は露骨露骨な不満を隠そうともしない。
「フフ」
「何が可笑しいんですか?」
「いえ、失礼。もうすぐ血生臭い戦いが始まると言うのに、何とも呑気だと思いましてね」
その言葉に声は一旦途切れる。A-24は"またか"と愚痴りながら、同時に僅かに出来た時間に安堵すると大きく溜息をついた。冬の夜空を何者かの吐き出した息が白く染めるが、ソレはすぐに霧散してしまった。何者かはその様子を何とも悲し気に見つめている。
「申し訳ない……我らは最善を尽くしました」
埒が明かない、A-24はそう判断すると話のきっかけを作る為だけに上辺の謝罪を口に出す。そうすれば直ぐに相手は何らかの反応を示す筈だと、そう考えての判断だ。
「知っています」
ディスプレイから聞こえる甲高い声を聞いたA-24は予想通りの反応に苦笑すると何気なく夜空を見上げた。その意識は分厚い雲のその先、真っ暗な闇の中に浮かぶ無数の星々、肉眼では見えない彼方に思いを馳せる。
「しかしE-12、アナタは本当にそう言い切れますか?」
A-24が再び切り出した。
「私は私に与えられた任務を忠実に実行しています」
「つまり……傍観するだけで何もしていないと?」
「我々に与えられた役目です。寧ろA-24、アナタの方が間違っているのです」
「知っていますよ。しかし、だからと言って、この状況を許すのもどうかと思いますがね?これでは地球と地球人類の存在意義が消えてしまう」
「ではどうしろと?まさか、介入しろと言うつもりですか?」
「さて、どうでしょうね。しかし結果次第ではこの銀河から一つの文明が消え去ります。E-12、アナタは自らの選択に覚悟を持っていますか?」
「は?何を」
「そうですか、ではもうお話しする事はありませんね。御機嫌よう」
「えぇ、持っています。持っているに決まっているじゃないですか!!」
通信相手の語気が急に荒っぽくなった。「図星か」と、A-24は相手に聞こえない様にそう呟くと、今度ははっきりとした口調で相手に語り掛ける。
「違いますね。E-12、アナタは何も知らない。我らがどんな思いでこれまでの時間を過ごしてきたか、どんな覚悟で今日この日を迎えたかッ」
急に、A-24が声を荒げた。一変した口調、言葉尻には通信相手への苛立ちと不快感が滲む。
「それは……」
突然の変化に戸惑うE-12。覚悟。その単語に酷く心が揺さぶられている様子は音声だけで十二分に伝わる。
「アナタはきっと笑うでしょうが、それでも断言します。地球は、勝ちますよ」
「無謀とは思っていないんですか?」
「アナタが最善を尽くしてくれたならばもっと別の未来もあったかもしれない。でもそうならなかった、そうしなかった。ですのでもう終わりです」
もう終わりだと、A-24一方的に切り上げた。再び両者の間に無言と沈黙が横たわった。A-24は空を見上げる。分厚い雲の隙間から覗く青い月、そしてその向こうに輝く星々。だが灰色と青と黒の三色の景色に白色が加わり始める、夜が明け始めた。
「後数時間もしない内に戦いが始まります。規模自体は大したことはないでしょうが、それでも結果次第では何れかの文明が滅びかねない」
「知っています」
「もし再び話し合う事が出来るならば、それは奇跡の様な確率でしょう」
「確率……宇宙を作り広げる力……」
「だから、諦めません。そうするなど、出来ませんでした。だから敗北が確定していると知りながら、それでもあらゆる犠牲の上に勝利があると信じて、今日この日まで研鑽を重ねてきたのです」
「本当に……負けると思っていない?いや、ま……まさか、まさか!!アナタ、まさかアレを!!"欠片"を使ったんじゃないでしょうね!?」
それまで漠然と会話をしていたE-12。が、何かに気付くや声を荒げた。動揺する声色が、完全な想定外を告げる。
「欠片はソチラにもあるでしょう?さようなら。次があれば、その時を楽しみにしていますよ」
「アレとは違いすぎる!!そもそも制御……ってちょっと待ちなさい!!それは、アレがどれだけ危……」
通信はそこで途切れた。A-24は地平線に浮かぶ恒星の光を見つめ、「夜が明ける」と一言呟くと、今度は眼下を眺めた。無人の街を照らす光は恒星の光に呑まれ徐々に消失していく。何者かはその光景を眺めながら、次の瞬間にはその場から姿を消した。
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