G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第1章 月の夜 出会い

3話 これが 運命の出会い 其の2

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 気が付くと眠っていたようだった。微睡まどろんだ目が捉えたのは、寝る前と同じようにネオンと街灯の煌びやかな光が太陽と同じかそれ以上に街を照らす光景。霞む目が辛うじて捉えた時刻は20時30分辺り。

 寝覚めは酷く悪い。夢。昔の夢を見ていた。嫌な、思い出したくもない悪夢だ。

「アイツ等の何がいいんだよ!!」

 堪らず、叫んでいた。と、同時に一気に頭が覚醒する。耳の奥がキーンと鳴り、心臓もいつもよりも早く鼓動している。夢から、現実から追い詰められた苛立ちが酷く、心が全く落ち着かない。

「現時刻を持って君はクビだ、もう来なくていい」

 頭の中につい一時間ほど前の言葉が蘇った。否応なく突きつけられる現実に、倒したシートから身体を無理矢理起こし、ハンドルにもたれかかりながらこの後の事を再び考え始める。幸いに考える時間は腐るほどあり、何時の間にかラジオも消え、車内は静寂に包まれ――

「アレ、静か過ぎる?」

 と、漸くにして何かがおかしい事に気付いた。独り言の様に呟いた言葉が街灯とネオンが輝く無人の街に消える。街が、奇妙な程静まり返っていた。いや、自分以外の誰の姿もない。眠る前までは確かに大勢が行き交っていた。道路には車が、歩道には人濁流の様に流れていた。その筈だった。

 薄ら寒いその光景は僅かに意識を手放した隙にどう言う訳か忽然と消え去ってしまい、代わりに誰もいない街へとその姿を変えていた。背中に寒気が走る。怖い話を聞いた後のような嫌な感覚に身体が支配される。

 ドォン

 もしかして死んだ?ならここは死後の世界か?そんな突拍子もない考えが頭を過った刹那、凄まじい轟音が響いた。何が何だかわからないまま衝撃に吹っ飛ばされた俺はハンドルに、窓に身体をしこたま打ち付けた。

「なんなんだよ、一体何がってうわ!?」

 反射的に外に出れば、その直後に再度の轟音と衝撃波が出迎えた。堪らず姿勢を崩し、地面に叩きつけられる。固いアスファルトに身体を打ち付けた痛みが身体中を走る。転倒の拍子に口内を切ったらしく、端から血が洩れ、鼻の奥に錆びた鉄の匂いが充満する。

「地震、か?」

 頭が現実的な可能性を描く。どうやら寝ている間に大きな地震が来て、だから全員が避難した。あの衝撃も地震と考えれば納得が――

 ババババッ

 いかなくなってしまった。何か妙な音が耳の端を掠めた。確実に地震ではない別の音。だが、妙に聞き慣れた音だ。そう、映画やゲームでよく聞いた銃声が一番近い。だが、そんな事があるか?つい一時間ほど前まで平和だった街中で、いきなり銃声が聞こえるか。映画の撮影でもしているのか?

「ったい……」

「どう……し」

 銃声と思しき音は尚も続いたが、その合間に別の声が混じり始めた。はっきりとは聞こえないが、混乱する人の声が一番近い。そして――

 ズン

  ズンズン

 その二つをかき消すような地響きが何度も地面を揺らした。まるで、重機で地面を掘っているかのような衝撃だ。訳が分からない。仕事を急にクビになり、不貞寝して目が覚めたら人が消えて、妙な振動が断続的に続く。

 俺が一体何をしたのか、と考えた辺りで思考を投げ捨てた。大学卒業後、そのまま地元に居を構える清雅に入社した。細やかな復讐の為、会社の秘密を暴露してやろうと目論んだ。その罰が下ったんだろう。所詮、一個人が出来る事など高が知れている。事実、浅はかな思考は見抜かれて、クビになった。

「は?いやいや、え?」

 そうやって強引に納得させようとした。が、目の前に現れた物体が一切合切を全部吹き飛ばした。自分でも間抜けと思うような素っ頓狂な声を出していた。図鑑で散々に見た恐竜がいた。数体の恐竜が視界の先、本社前の大通りで暴れていた。

 映画、とは思えなかった。それらしいスタッフの姿は見えず、撮影用のドローンは視界内の何処にも飛んでおらず、撮影現場を見学する野次馬連中さえもいない。

 いや、人はいる。いた。数十人が恐竜の群れと戦っていた。特殊部隊の様な暗色のスーツ着こんでいるが、ごく一部がロボの様なコスチュームを着ている、何とも奇妙な一団の中心から時折子気味良い破裂音や炸裂音が響く。どうやら音の正体は銃声で間違いなかったようだ。が、どうやら逃げているようだった。銃に加え、何人か刀を手に持ち応戦しているが劣勢らしい。

 恐竜、いやその姿を真似た何かはおおよそ生物とはかけ離れた出鱈目な挙動を繰り返していた。具体的には骨格を無視する程にグネグネと姿を変えながら奇妙な連中の攻撃をかわし続け、攻撃を受ければ生物特有の出血の変わりに青白い光を放出しながら部分消滅したかと思えば、瞬く間に傷口を再生させる。

 異様な姿は現実に戻った精神を幻想の世界へと導く、これは夢なのだろうか、いやそうに違いない。こんな事、幾ら何でも馬鹿げている。そうだ、これは夢だと、そう必死で言い聞かせるが――

「おいおい、なんでお前がここにいるんだよ?クビになって泣きべそかきながら逃げ出したんじゃねーのかよ」

 聞き慣れた声が耳を掠めた。誰だ?いや、この声は?聞き覚えのある声に驚いた俺はアチコチ見渡し、一番後ろに位置する恐竜に気づいた。頭部に人が乗っていた。恐竜の頭上で傲慢に振る舞う男と目が合う。混乱した意識が更に混乱し、完全に理解を超えた事態に思考が完全停止する。

「おーい。俺が誰か分かるかぁ?」

「お、お前ッ。山県、山県大地じゃないか!?」

「なんだ。分かってんじゃねぇか、気安く呼ぶなよクソが」

 現実だ。入社時から気が合って、だからよく愚直り合ったり、飯を奢ったり奢られたり。そんな男がどうして訳の分からない物の上に乗って、それに俺のクビを知ってるんだ?

「死ぬ理由は知ってるよなァ?裏切者はどうせ死ぬんだから今日でも良いだろ」

 親友だと思っていた男の顔を見た。2年以上付き合ってきた中で一度も見せた事が無いほどに残酷だった。あの瞬間、俺の日常と常識が、今まで何一つ変わらないと思い込んでいた絶望的な日常が完全に崩れ去った。
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