G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第1章 月の夜 出会い

7話 私は 宇宙から来た

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「全てを説明するには長いが、私を助け、巻き込まれた事で君は私と全く無関係と言い難い関係になった。だからある程度は話しておこうと思う」

 彼女はそう切り出した。口調が、雰囲気は、先ほどまでと明らかに違う。

「今の君を含むこの星の大多数からすればとても信じがたい話になるのだが、誓って嘘偽りではない」

 そこまで話した彼女は一旦言葉を区切り、小さく息を吐き出すと――

「私は宇宙から来た」

 と、語った。俺はと言えば、意を決した告白にハァと力ない返事をするだけで精一杯だった。正直、昨日までなら適当に話を合わせる位はしただろうが、彼女の話は荒唐無稽こうとうむけいすんなりと受け入れた。

 疑念はなかった。頭を渦巻いていた疑問やら何やら全てが、彼女の語った一言に霧散した。生身とは違う身体と僅か十数分前の逃走劇が真実だと俺の背中を強く押す。

「意外とすんなり信じるんだな?」

「いや。まぁ、短い間に色々と見たから、ね」

「そう、だな。では続きだ」

 俺達が出会う切っ掛けとなった戦闘も、監視体制が異常に厳しい筈の清雅市内への侵入も、宇宙から来たという話なら納得がいく。地球の宇宙開発は清雅の方針により酷く遅れている。

 2025年現在、地球は未だ月への到達も成功していない。有人宇宙船による宇宙探査は数十年前に当時の清雅の鶴の一声で凍結され、以後は人工衛星さえも打ち上げない始末。俺達は未だ地面から空を見上げるしか出来ない。宇宙は遠い世界。だから、信じた。宇宙を旅する程に高い文明なら、地球で最も監視の厳しい都市に侵入するなど簡単だろう、と。

「旗艦アマテラスと名付けられた超巨大航宙艦と、この星から大きく離れた場所にある私達アマツミカボシ、第二の故郷フタゴミカボシ、それに大小合わせて12の同盟惑星と13の準同盟惑星で構成されたカガセオ連合、それが私達だ。そして私は旗艦アマテラスを守護する特殊部隊に所属している」

 彼女は少々驚きながらも続きを語り出した。が、納得はしても理解できるかと言えば話は別な訳で。唐突に語られる幾つもの固有名詞は当然俺に理解できるものではなく、様々な情報が頭のなかでない交ぜにになった結果、頭がパンクした。あぁ、とかうん、と適当な相槌を打つのが限界だった。

「続けるが、問題ないか?」

 俺の態度に埒が明かないと思ったのか、彼女は一言確認を取ると直ぐに説明を再開する。

「君達の星に来た理由は、すまない……正確な理由は分からない。君達の星の、この都市にある企業を襲撃してを奪って来いという何とも曖昧な命令を受けた。その為に必要な装備すら寄越さずに。今まで、こんな不自然な命令が出た事は一度としてなかった。そして、私達はその企業との初戦に敗北した」

 敗北と、そこまでを語り終えた彼女は一旦話を区切った。相変わらず顔は見えないが、口調と消え入るような声色が心情を物語っている。怒りや悲しみなど、苦々しい負の感情が隠し切れない。

 考えてみれば当然で、宇宙を旅する位に発達した文明が、宇宙に上がる事さえままならない地球に負けたのだ。例えるなら、超一流選手で固めたプロスポーツチームが無名のド田舎チームに惨敗するような状態が近い。負けるなど思ってさえいなかったのだろう。

「宇宙を旅する位に文明進んでるのに清雅に負けるっておかしくないか?」

 黙っていてばかりでは間が持たないし、何より話を真面目に聞いているか疑われるのも何となくしゃくだと思い、浮かんだ疑問をストレートにぶつけてみた。相変わらず何を考えているかさっぱりわからないが、小さく溜息を吐き出し――

「そうだな、理由は色々あって。だが、一番の理由はこの星の技術力だ。最初にこの星に降り立った時に観察した情報から、通信技術だけが抜きんでている事は理解した。だが、戦闘に関連した技術も同じく他を突き放している。軽く見回した程度だが、それでも異常な文明レベルの差は見て取れた。この情報を知っていたなら、もう少し真面な装備で此方に来る事になっただろうし、そうすれば……負ける事も、仲間達が死ぬ事もなかった」

 地球、いや清雅が一番の敗因だと分析した敗北の経緯、理由を語った。言葉尻には悲壮と苦悶が痛い程に漂っている。ほんの少しだが、声も震えていた。全てを信じるなら、使い捨てのような形で地球に放り出された上に敗北したという事になる。そんな状況で冷静に原因を分析する性格と頭脳に、俺はただただ感心した。

「だが、この星……こんな発展の仕方は有り得ない。どこの星でも大抵技術の進歩はある程度足並みが揃っているが、こんな特定の何かだけが異常に突出するという歪んだ発展の仕方をする星は……」

 彼女が再び口を開いた。やはり今の地球は異常だと、そう結論した彼女の口数は徐々に減り、やがて固く閉ざした。先程までの淡々とした説明は中途半端なところで終わり、最後まで説明する事なく止まった。

 無言の間――

 今までの口振りからすれば、明らかに地球が原因で彼女は苦境に立たされた。仲間は、多分全員撤退した。となれば彼女は孤立無援で、挙句に自分では歯が立たない連中の本拠地に取り残された、という事になる。状況を整理、分析する内にその事実の重さに気付いたようだ。

 ただ、ソレが分かったところで俺には逃走の手伝い以上の何かをしてあげられない。気が付けば俺も黙り込んでいて、ただ彼女の出方を窺っていた。
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