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第1章 月の夜 出会い
6話 逃亡の先で
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20XX/12/15 2127
「中は、思ったより普通だな?」
無人の受付に現金を投入し、出てきた部屋のキーを手に取り、無人の廊下を歩き、彼女を部屋に案内した。その矢先に発した第一声がこれ。
全く分かっていない。予約から始まる一連の流れ全てが携帯一つで簡単に行える今の時代に酷く原始的で前時代的な現金払いを貫く理由は、身も蓋もない言い方をすれば不倫や浮気その他諸々の為。だから、紐づけられた情報から個人特定が可能な携帯決済を意図して避ける。世界最先端の都市だろうが、結局人のやる事は大して変わらないらしい。
相変わらず彼女は周囲を見回している。物珍しさか、それとも無知なだけか。何れにせよホッと胸を撫で下ろした。普通に考えれば、幾ら助けるという理由であれ、隠れる場所に最適だからといって女性を強引にこんな場所に連れ込もうとすれば、逃げるか断るのが普通。
「あ、あぁ。いや、その、この部屋しか、なかったんだよ」
犯罪。そんなキーワードが頭を過った。いや、断じて違う。これは人助けだ。間違いはない。心の中の葛藤を無理矢理振り払い、言い訳を吐き出しながら部屋に入るよう勧めた。瞬間、彼女が僅かに緊張したような気がした。もしかしてやっぱりバレたか、と焦る。
「良い部屋だな。だが少し装飾が派手というか、宿泊施設には不向き気もするが、君の趣味か?それともこういう文化なのか?」
良かった、バレてない。いや良くない、説明するタイミングを逃した。しかも、その目立つ格好を何とかしろと言うタイミングも一緒に逃した。とは言え、何時かは言わなければならない。そんな目立つ格好で出歩けばまず間違いなく見つかる。仮に見つからなくても暇を持て余す連中の的になるだけだと。
「え、いや?え?」
思考が、目の前の彼女の仕草に停止した。目立ちすぎる奇妙な恰好をした女なんて暇な連中の格好の的という自覚は彼女にもあったようだ。少なくとも今の身形が酷く目立っているという事も同じく。が、分かってるからと言っていきなり何をしだすんだこの女は。目の前で、彼女がいきなり服を脱ぎだした。
「あ、着替えるのか?じゃ、じゃあ外で何か買ってくるよ」
「いや、少し手伝って欲しいのだが」
脱ぐ。そして、ここにいてくれ。コイツ、意味分かって言ってるのか?いや、もしかして恩返しか?いやその二つとこの場所の組み合わせは非常にマズいだろ。相性が悪いどころじゃない、良すぎる。あらぬ想像が、勝手に膨らんで。何という悲しい男のサガ。
が、彼女はそんな俺などどこ吹く風と言った様子。頭の悪い葛藤に支配される中、彼女は一切の躊躇いなく上着を脱ぐ。下に着たシャツがゆっくりとはだけ、肩に沿って滑り落ち、その下のボディスーツ状のインナーが、肌が露わになる。
違和感――
奇妙な感覚に、それまでの興奮がスッと消えた。何故だか肌に全く生気を感じない、もっと言えば同じ生き物とは思えなかった。透き通るような無機質な白い肌のせいだろうか?
興奮が冷めた為か、改めて色々な疑問が募った。改めて彼女を見る。身長は俺よりも少し低く、165から170位はある。女性基準なら高い部類。モデルの様に細身の身体は余計な贅肉が一切なく引き締まっていて、戦うにはちょっと華奢過ぎに見えた。ついさっきまでの逃走劇を思い出せば重そうな銃を軽々と操っていたが、この細腕でどうやっていたんだ?
いや、そもそも年齢は幾つなんだ?一瞬だけ見えた顔を必死で思い出せば、パッと見は若く見えるという感じだったが、今の彼女は余りにも落ち着いている。年齢よりも若く見えるタイプなのか?
と、色々な考えが頭を過る間にも、彼女は後ろを向き更にそのインナーを脱ごうとしていた。あぁ、色んな疑問がその行動を見た瞬間に全部吹き飛んでしまった。流石に焦りを隠せない。いや不味いだろここでは。いやそれともこれが彼女達の文化圏の常識なのだろうか――いや、どの国だよ?
どうするべきか。勇気を出すべきか、それとも恩義を貫く為に彼女の提案に従うべきか。いや、これ同じだ。あぁ、どうするかなぁ。想定していない事態に頭と呼吸が熱を帯びていく。
「手伝って、と言った筈だが。聞いてた?それとも翻訳ミスか?」
ハ、と気付けば彼女の顔が俺の方を向いていた。目元は見えないが、何となく軽蔑の視線を送っている様に感じた。
「あー、そうだったかも」
しどろもどろな言い訳。が、彼女は聞こえていないのか、それとも無視しているのか、無言のまま長い髪をかき上げると一切の羞恥心なしに俺に背中を見せ――
「先ほどの戦闘で受けた傷が治らない。多分、鋭い破片が外部装甲を貫通して中に喰い込んでいると思うから取ってほしい」
そう、淡々と語った。
「あ、あぁ。了解、了解した。ん?ソウ……何だって?」
背中を向けた彼女は左手で右の肩に手を当てた。直後、触れた部分が僅かに光り――外れた。本当に外れた。まるでマネキンを分解するみたいにストンと、俺の目の前で彼女の片腕が外れた。声すら出なかった。唖然とする俺が見たのは彼女の内側、外れた右手と胴体に、血と肉は通っていなかった。
見た事もない金属製の何か、としか表現できない物体が彼女の中を埋め尽くしていた。漸く違和感と彼女の正体を理解した。
人間じゃない。一見した程度では人間と見分けが全くつかない、映画に出てくるようなアンドロイドだった。だけど、そんな技術を何処の誰が持っているんだ?世界のあらゆる分野で最先端を走る清雅ですら、まだその領域に辿りついていない。
パチッ
と、軽い破裂音が耳を掠めた。音の出処は彼女の剥き出しとなった肩の当たりから。良く見れば細く鋭い金属片がうなじの辺りから右腕を貫通する様な形で喰い込んでいた。
かき上げた髪の下辺りから尚も断続的にパチッパチッと嫌な音が立ち、目を凝らすと刺さった破片の周囲から粒子に近い何かが微かに漏れ出ていた。
「と、取ったぞ」
促されるまま、おっかなびっくりに金属片を引き抜くと、彼女は外した右腕を無造作に床に放り投げた。その様子を奇異な目で見つめる俺を無視する様に、彼女は淡々と行動を続ける。
目元を隠すバイザーに触れた。床に捨てた右腕が僅かに光り、まるで溶けるかの様に分解、小さなキラキラと光る砂としか表現できない何かに変わり、なくなった右腕の周辺に渦を巻く様に集まり、やがて形をとり始めた。
あっという間だった。時間にすれば2~3秒もしない間に砂は灰色の骨や筋肉や血管らしき物体へとその形をはっきりと変え、最後に白い皮膚を作り、最終的には完全な手になった。
彼女は新しく作りだした右腕をさも当然のように操っている。ほんの数秒前まで確かに存在しなかった場所に突如として現れた新しい腕は見事なまでに人の腕に見えた。元となったのが砂のような何かとはとても思えない。一連の最後に何かを飲み込んだ彼女は大きく息を吐いた。薬か?ともかく、漸く落ち着いたらしい。
先ほどの戦闘も驚いた。が、目の前で起きた事も俄かには信じられない。急に、目の前の光景が夢か幻の様に思えた。これは現実か?現実なら、世界最先端を走る超大企業でさえ有していない技術を持つこの女は何処の誰だ?
「驚いたか?」
「機械?人じゃない?何だソレ?な、何がどうなってるんだ?」
「いや、大半を機械に置き換えているが……」
そういう性格なのか。やはり彼女は淡々と説明した。が、回答になっていないし何か含みを残している。材質は?原理は?そんな基本的な疑問が頭をグルグルと駆け巡る。そんな俺を気に掛けたのか、彼女は俺を真っすぐに見つめると、再び口を開いた。
「元は君と……君と同じだ」
「中は、思ったより普通だな?」
無人の受付に現金を投入し、出てきた部屋のキーを手に取り、無人の廊下を歩き、彼女を部屋に案内した。その矢先に発した第一声がこれ。
全く分かっていない。予約から始まる一連の流れ全てが携帯一つで簡単に行える今の時代に酷く原始的で前時代的な現金払いを貫く理由は、身も蓋もない言い方をすれば不倫や浮気その他諸々の為。だから、紐づけられた情報から個人特定が可能な携帯決済を意図して避ける。世界最先端の都市だろうが、結局人のやる事は大して変わらないらしい。
相変わらず彼女は周囲を見回している。物珍しさか、それとも無知なだけか。何れにせよホッと胸を撫で下ろした。普通に考えれば、幾ら助けるという理由であれ、隠れる場所に最適だからといって女性を強引にこんな場所に連れ込もうとすれば、逃げるか断るのが普通。
「あ、あぁ。いや、その、この部屋しか、なかったんだよ」
犯罪。そんなキーワードが頭を過った。いや、断じて違う。これは人助けだ。間違いはない。心の中の葛藤を無理矢理振り払い、言い訳を吐き出しながら部屋に入るよう勧めた。瞬間、彼女が僅かに緊張したような気がした。もしかしてやっぱりバレたか、と焦る。
「良い部屋だな。だが少し装飾が派手というか、宿泊施設には不向き気もするが、君の趣味か?それともこういう文化なのか?」
良かった、バレてない。いや良くない、説明するタイミングを逃した。しかも、その目立つ格好を何とかしろと言うタイミングも一緒に逃した。とは言え、何時かは言わなければならない。そんな目立つ格好で出歩けばまず間違いなく見つかる。仮に見つからなくても暇を持て余す連中の的になるだけだと。
「え、いや?え?」
思考が、目の前の彼女の仕草に停止した。目立ちすぎる奇妙な恰好をした女なんて暇な連中の格好の的という自覚は彼女にもあったようだ。少なくとも今の身形が酷く目立っているという事も同じく。が、分かってるからと言っていきなり何をしだすんだこの女は。目の前で、彼女がいきなり服を脱ぎだした。
「あ、着替えるのか?じゃ、じゃあ外で何か買ってくるよ」
「いや、少し手伝って欲しいのだが」
脱ぐ。そして、ここにいてくれ。コイツ、意味分かって言ってるのか?いや、もしかして恩返しか?いやその二つとこの場所の組み合わせは非常にマズいだろ。相性が悪いどころじゃない、良すぎる。あらぬ想像が、勝手に膨らんで。何という悲しい男のサガ。
が、彼女はそんな俺などどこ吹く風と言った様子。頭の悪い葛藤に支配される中、彼女は一切の躊躇いなく上着を脱ぐ。下に着たシャツがゆっくりとはだけ、肩に沿って滑り落ち、その下のボディスーツ状のインナーが、肌が露わになる。
違和感――
奇妙な感覚に、それまでの興奮がスッと消えた。何故だか肌に全く生気を感じない、もっと言えば同じ生き物とは思えなかった。透き通るような無機質な白い肌のせいだろうか?
興奮が冷めた為か、改めて色々な疑問が募った。改めて彼女を見る。身長は俺よりも少し低く、165から170位はある。女性基準なら高い部類。モデルの様に細身の身体は余計な贅肉が一切なく引き締まっていて、戦うにはちょっと華奢過ぎに見えた。ついさっきまでの逃走劇を思い出せば重そうな銃を軽々と操っていたが、この細腕でどうやっていたんだ?
いや、そもそも年齢は幾つなんだ?一瞬だけ見えた顔を必死で思い出せば、パッと見は若く見えるという感じだったが、今の彼女は余りにも落ち着いている。年齢よりも若く見えるタイプなのか?
と、色々な考えが頭を過る間にも、彼女は後ろを向き更にそのインナーを脱ごうとしていた。あぁ、色んな疑問がその行動を見た瞬間に全部吹き飛んでしまった。流石に焦りを隠せない。いや不味いだろここでは。いやそれともこれが彼女達の文化圏の常識なのだろうか――いや、どの国だよ?
どうするべきか。勇気を出すべきか、それとも恩義を貫く為に彼女の提案に従うべきか。いや、これ同じだ。あぁ、どうするかなぁ。想定していない事態に頭と呼吸が熱を帯びていく。
「手伝って、と言った筈だが。聞いてた?それとも翻訳ミスか?」
ハ、と気付けば彼女の顔が俺の方を向いていた。目元は見えないが、何となく軽蔑の視線を送っている様に感じた。
「あー、そうだったかも」
しどろもどろな言い訳。が、彼女は聞こえていないのか、それとも無視しているのか、無言のまま長い髪をかき上げると一切の羞恥心なしに俺に背中を見せ――
「先ほどの戦闘で受けた傷が治らない。多分、鋭い破片が外部装甲を貫通して中に喰い込んでいると思うから取ってほしい」
そう、淡々と語った。
「あ、あぁ。了解、了解した。ん?ソウ……何だって?」
背中を向けた彼女は左手で右の肩に手を当てた。直後、触れた部分が僅かに光り――外れた。本当に外れた。まるでマネキンを分解するみたいにストンと、俺の目の前で彼女の片腕が外れた。声すら出なかった。唖然とする俺が見たのは彼女の内側、外れた右手と胴体に、血と肉は通っていなかった。
見た事もない金属製の何か、としか表現できない物体が彼女の中を埋め尽くしていた。漸く違和感と彼女の正体を理解した。
人間じゃない。一見した程度では人間と見分けが全くつかない、映画に出てくるようなアンドロイドだった。だけど、そんな技術を何処の誰が持っているんだ?世界のあらゆる分野で最先端を走る清雅ですら、まだその領域に辿りついていない。
パチッ
と、軽い破裂音が耳を掠めた。音の出処は彼女の剥き出しとなった肩の当たりから。良く見れば細く鋭い金属片がうなじの辺りから右腕を貫通する様な形で喰い込んでいた。
かき上げた髪の下辺りから尚も断続的にパチッパチッと嫌な音が立ち、目を凝らすと刺さった破片の周囲から粒子に近い何かが微かに漏れ出ていた。
「と、取ったぞ」
促されるまま、おっかなびっくりに金属片を引き抜くと、彼女は外した右腕を無造作に床に放り投げた。その様子を奇異な目で見つめる俺を無視する様に、彼女は淡々と行動を続ける。
目元を隠すバイザーに触れた。床に捨てた右腕が僅かに光り、まるで溶けるかの様に分解、小さなキラキラと光る砂としか表現できない何かに変わり、なくなった右腕の周辺に渦を巻く様に集まり、やがて形をとり始めた。
あっという間だった。時間にすれば2~3秒もしない間に砂は灰色の骨や筋肉や血管らしき物体へとその形をはっきりと変え、最後に白い皮膚を作り、最終的には完全な手になった。
彼女は新しく作りだした右腕をさも当然のように操っている。ほんの数秒前まで確かに存在しなかった場所に突如として現れた新しい腕は見事なまでに人の腕に見えた。元となったのが砂のような何かとはとても思えない。一連の最後に何かを飲み込んだ彼女は大きく息を吐いた。薬か?ともかく、漸く落ち着いたらしい。
先ほどの戦闘も驚いた。が、目の前で起きた事も俄かには信じられない。急に、目の前の光景が夢か幻の様に思えた。これは現実か?現実なら、世界最先端を走る超大企業でさえ有していない技術を持つこの女は何処の誰だ?
「驚いたか?」
「機械?人じゃない?何だソレ?な、何がどうなってるんだ?」
「いや、大半を機械に置き換えているが……」
そういう性格なのか。やはり彼女は淡々と説明した。が、回答になっていないし何か含みを残している。材質は?原理は?そんな基本的な疑問が頭をグルグルと駆け巡る。そんな俺を気に掛けたのか、彼女は俺を真っすぐに見つめると、再び口を開いた。
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