G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第2章 遥か遠い 故郷

21話 運命の出会いへと続く過去 ~ 清雅襲撃 其の4

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「新人、下がれ」

 行動が一歩遅れた私の前に一際大きな男が仁王立ちした。ミカゲ。身体の大半を機械に置き換えた点は私と同じだが、彼は私と違い望んでそうなった。しかも完全戦闘用の極めて頑丈で高出力の体躯を使用。

 他と比較しても一回りは大きい身体はとても特徴的で、とても頼もしい。彼は巨大な大砲を肩に担ぐ。圧倒的な力でマガツヒを一撃粉砕する事を目的とした大出力の武装は周囲のカグツチを吸収、圧縮した弾丸と実弾の撃ち分けが可能。訓練用とはいえ、当たればそれなりの威力を発揮するが、今は更に改良が施されている。

 彼が無言で引き金を引いた。大きな衝撃と共に白い巨大な弾丸が凄まじい勢いで真っ直ぐに飛び出す。直撃。弾丸は化け物に命中すると一際大きな音と共に周囲を吹き飛ばした。見るまでもない、ひとたまりもないと感じるほどの衝撃が私の身体を貫き、背後を駆け抜けていった。が――

「なッ!?」

 ミカゲの反応は手応えとは真逆。反射的に視界が動く。化け物が――全く怯んでいない。あり得ない。驚き、戸惑う矢先、化け物の首が突然伸びた。開口した巨大な顎による噛み砕き。目の前の屈強な男に喰いつこうと迫る予想外の挙動に回避が間に合わないと判断したミカゲは咄嗟に腕に装着した防御兵装を起動させた。

 私達が身に着けるリング状の防具はカグツチをエネルギー源に特殊な力場を展開、装備者の意志に反応し、向かってくるエネルギーを相殺する。発動すれば防壁内外を完全に断絶し、最大出力時は宇宙空間に放りだされてもエネルギーの続く限り生存する事が可能な程に堅牢。彼の周囲が僅かに歪むのが見えた。正常に作動――

「は?」

「そんな!?」

 しなかった。ほんの僅かの間をおいて、防壁がフッと消失した。想定外に焦るミカゲ。構うことなく突き進む化け物の頭部。程なく、巨大な顎がミカゲの腕から胸部に喰らいついた。声にならない悲鳴が上がり、軋み、バキバキと金属が砕ける音が聞こえ、最後に化け物はミカゲの身体の一部、右腕から肩口を越え上半身の一部までを一気に喰いちぎった。

 抉れた断面が姿を現し、剥き出しとなった部分からエネルギー源となるカグツチが放出されると、不自然な程の速さで霧散していった。深く抉った牙は生身の肉体部分にまで届き、無骨な機械の隙間から真っ赤な血が止め処なく零れ落ち、地面を赤く染める。

「下がれッ!!」

 イヅナの指示に身体が反応した。私は咄嗟にミカゲの腰に下がっていた小型の手投げ爆弾を化け物の伸びきった首目掛けて投げ込んだ。

 即座に発生する爆風と衝撃に紛れながら、彼の巨体を建物の影に引っ張り込んだ。同時に荷物を漁り、治療用ナノマシン入りの経口薬を取り出し、何かを呟く口の中に強引に突っ込んだ。私も彼も酷く動揺しており、何粒かが口から零れ落ちる。が、それでもなんとか飲み込ませる事が出来た。これで当分は大丈夫だ。そう思った。

「いい……か、新人、よく……け。俺……多分……死」

 彼の言葉は、酷く弱々しかった。

 ※※※

 イヅナが指で合図を飛ばした。狙うのは奇怪な動きで仲間を食いちぎった化け物の一体。仲間達は散開し、他の化け物共を牽制しつつ執拗しつようなまでに中央の化け物の脚部を撃つ。狙いを定められぬよう動き、撃ち、そしてまた動き、距離を置き呼吸を整えまた撃つ。

 それを幾度と無く繰り返す。規則正しく、淡々と。一撃は貧弱だが集中砲火を喰らい続け化け物の態勢が崩れるやイヅナは分厚く長い刀身で化け物の頭と首を斬り落とした。

「先ず、一体」

 鈍い振動と共に地に付す生物型の兵器を背に、イズナが高らかに叫ぶ。真っ青な切断面からは、出血の代わりに青白い粒子が僅かに立ち上り、切り飛ばされた頭部は霧散、消滅した。

 頭に描いた予測が現実味を帯びる。端から期待していなかったが、切り落とされた頸部に機械的な構造は一切見られない。だとするならば、アレはナノマシンとしか考えられない。だが、完全自動運転すら実用化出来ない文明が桁違いに高い技術を必要とするナノマシンを兵器レベルで実用化させるなんて不合理過ぎる。

 それに、敵の様子もおかしい。自慢の兵器が倒されたというのに誰も焦らず、それどころか不敵に笑っている。確信している。自分達が優勢だと。だが自信の根拠は何だ?そう考えた矢先――

「さぁ、次は」

「何よそ見してんだ、次は俺だクソ野郎!!」

 思考をかき消す叫びと共に凄まじい速度で茶髪の男がイヅナ目掛け突撃してきた。最初から何らの武器も持っていなかったが、まさか素手で向かって来るとは思わなかった。が、イヅナは冷静に対処する。振りかざした拳を弾こうと青白く輝く拳に大刀を重ねた。直後、互いの攻撃が激突し激しい音を放ち――

「ッ!?」

 振りかぶった刀が弾き飛ばされた。手離しこそしなかったが、イヅナの身体が大きくのけ反り、大きな隙を晒した。真っ向勝負で打ち負けるなどあり得ない。ただの生身の拳が、あの青白く光る粒子の力でどれだけ強化されているんだ?その非常識な硬さと攻撃の威力は、想定外と言わんばかりに驚くイヅナの表情と痺れて震える右手に嫌というほど表れている。

 しかも、弾かれた勢いでイヅナの身体が茶髪の男の真正面を向いた。無防備な体勢に茶髪が不敵な笑みを浮かべ、がら空きの胴体に拳を叩き込もうと左手を握りしめ、振り抜いた。

 対するイヅナは弾かれた反動をそのまま利用、身体を強引に捻りながら更に一回転して拳を避け、すれ違いざまに斬撃を叩き込んだ。

 間一髪の攻防はイヅナの勝利。避けた拳がすさまじい音を立てて空を切る。相変わらずどの程度の威力か分からないが、少なくともイヅナの苦々しい顔が直撃した際の結果を物語る。

 一方、反撃を直撃した男の動きが止まった。攻撃を受けたから、という訳ではない。死ぬ死なない以前に、傷の一つさえ負っていない。しかも不敵な笑みまで浮かべている。

 ズズ――

 地を這う微かな振動。驚き、反射的に振り返るイヅナと視線が重なった。視界に映ったのは頭部を切り離された化け物が起き上がる光景。切り離された頭に青白く光る粒子が集まり、激しく発光したかと思えば消滅した頭部が瞬く間に復元した。

 頭部が再生した化け物は声にならない咆哮をあげ、威嚇いかくする。あの男は時間稼ぎだったらしく、気が付けば後方に下がっていた。

「そうか、なら次だ」

 想定外を前にイヅナは冷静に指示を出す。彼は最後方の狙撃手に合図を出した。茶髪の男はどう言う理由か不明だが、少なくとも私達が想定しない位には凄まじいレベルで身体能力が強化されているが、一方でそれ以外は背後に控え、直接戦闘に介入する気配を見せない。握ったままの携帯端末を見るに、アレを介して化け物を操っている。つまり、無ければ操れない。

 イヅナの狙いがおのずと明らかになる。後方に控えていた狙撃手はイヅナの意を汲み、無防備な状態を晒す生身の男達に狙いを定める。

 一際、大きな破裂音

 カグツチにより白く輝く弾丸が夜の街を流星の如く流れ行く。弾丸ソレは銃身に刻まれた特殊な紋様により、狙った標的へと微調整を行う誘導性能が備わる。誰もが事態の打開を信じた。が――

「残念だったなぁ」

 最初に見たのは男達の嘲笑。次に周囲の空間の僅かな歪み。最後――茶髪の仲間まで迫った弾丸が、時が止まったように静止、力なく地面に吸い寄せられる光景。全員が呆気にとられた。身体が固まり、動けない。

「防壁、だ」

 掠れるような声が耳を掠めた。私達だけの独占技術。私達の、更にごく一部にしか製造が許されない防御用兵装が未開の惑星に存在する。

 有り得ない。呆然、彷徨う視線が心情とは逆に状況を分析する。最初に見たのは足元に転がる銃弾、続けて徐々に上へと上り、男達の手首辺りに釘付けとなった。袖口の下から腕輪状の何かが見えた。私達の持つ防御兵装と極めてよく似た形状をしていた。

 疑問が隙間なく頭の中を埋め尽くす。何でアレがこの星にある?敵は一体何者だ?私達が奪えと指示された物と関係あるのか?誰もが何も動けず、ただ目の前で起きた事態を呆然と眺めるか、あるいは自分の腕に装備された腕輪を眺める。時間が止まったような感覚に支配された。
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